episode95 初イベント開幕

 翌日、俺達はイベントの開始時刻である十五時の少し前にログインして、イベントが開始されるのを待っていた。


「さて、そろそろ時間だが……何と言うか、明らかに人が多いな」


 俺達は始都セントラルの中央広場にあるベンチに座って時間になるのを待っているが、普段よりも明らかにプレイヤーの数が多かった。


「だねー。まあイベントの参加はセントラルからじゃないとできないし、普段は分散してるはずのプレイヤーが集まってるから、そんなものじゃない?」

「まあそれもそうだな」


 普段なら他の街で活動していたり、冒険に出ていたりするプレイヤーもこの街に集まっているわけだからな。この混雑具合にも納得だった。


「とりあえず、休日じゃなくて良かったな」


 今日が休日だと今以上に人が集まって、超過密の地獄と化していただろうからな。

 平日の昼という、比較的人が集まりにくい時間なのは助かった。


 まあ運営側もそれを分かっていて、イベントの開始時刻を平日の昼に設定したのだろうがな。


「それはそうと、一つ聞いても良いか?」


 そんな話はさておき、クオンに一つ聞きたいことがあるので、少しそのことを聞いてみることにする。


「何?」

「何故そんな不審者のような格好をしているんだ?」


 聞きたかったことと言うのは、その格好のことだ。

 彼女はフード付きの黒い外套を身にまとった上でサングラスを掛けるという、かなり怪しい格好をしていた。

 ひとまず、そんな不審な格好をしている理由を聞いてみることにする。


「しょうがないでしょ? 変装しないと囲まれるんだから」

「……なるほどな」


 クオンはそれなりに人気のゲーム実況者で、動画も出している都合上、アバターもバレているからな。

 変装しておかないと視聴者などに絡まれるので、外ではバレないように変装していたらしい。


「……人気者も大変だな」

「まあね。……あ、時間になったよ」


 と、そんな話をしていると、気付けばイベントの開始時刻になっていた。


「そのようだな。イベントエリアへのアクセスも……できるな」


 ここでメニュー画面からイベント情報のページを開いて確認すると、イベントエリアのアクセスが可能になっていた。


「では、早速行くか」

「……うん」

「だね!」


 そして、そのままイベントエリアに移動という項目を選択すると、俺達は白い光に包まれた。



  ◇  ◇  ◇



「……む、着いたか」


 光が晴れると、そこには広大な平原が広がっていた。

 その様相は南セントラル平原や西セントラル平原と似通ってはいるが、それらとはまた異なった景色が広がっていて、新しい冒険の風を吹かせていた。


「ここが東セントラル平原みたいだね」

「そのようだな」


 マップを見て確認すると、マップ名の項目には東セントラル平原と記されていた。

 どうやら、ここが今回のイベントの舞台となる、東セントラル平原らしい。


「それで、ここが今回の拠点となる場所か?」


 ここで後ろを振り返ってみると、そこには複数の大きなテントが建てられていた。

 見たところ、ここは仮設の活動拠点のようで、ここで普段の拠点と同じように行動できるものだと思われた。


「とりあえず、アイテムを整えない?」

「それもそうだな」


 持ち込んだアイテムは手持ちではなく、イベント用の倉庫に送られているからな。

 まずは倉庫から必要な物を取り出すことにした。


「ところで、最初はどうするの?」

「まずは物資を受け取って、ウェスティアまで向かうぞ」


 ポイントが高い木材を採りに行っても良いが、ウェスティアの街の様子は見に行っておきたいからな。

 まずはここで物資を受け取って、一直線にウェスティアを目指すつもりだ。


「分かったよ。あたしは動画用の撮影をしておきたいから、物資の受け取りは任せて良い?」

「ああ、構わないぞ」


 物資の受け取りであれば、俺一人で十分だろうからな。彼女は彼女で他にすべきことがあるので、その間にこちらで準備を進めておくことにした。


「では、撮影が終わったら合流しに来てくれ」

「分かったよ。それじゃあ行って来るね」


 クオンはそれだけ言い残すと、撮影場所を探して移動を始める。


「……リッカはどうする? 一緒に行くか?」

「……うん」

「分かった。では、行くか」


 そして、俺はリッカと一緒に物資を管理していると思われる、一番大きなテントに向かった。


「……彼女か?」


 そのテントに向かうと、そこにはNPCの受付嬢らしき人物が並んでいて、多くのプレイヤーが集まっていた。


「……とりあえず、並ぶか」

「……うん」


 少々時間は掛かるだろうが、並ばないことには物資を受け取れないからな。仕方がないので、列に並ぶことにした。


「……順番だな」


 そして、それから二分ほど待っていると、俺達の順番が回ってきた。


「ご用件は何でしょうか?」

「ウェスティアに運ぶ物資を受け取りたい」

「いくつ運びますか?」

「十個頼む」


 リュックの枠が二十三枠なのに対して、物資は一つにつき枠を五つ使うからな。

 俺とクオンは攻撃用のアイテムが必要なことを考えると、フィールドマップに持って行くアイテムを絞ってもこれが限界だ。


「……三名であれば運べますね。それでは、どうぞ」


 受付嬢はこちらの人数を見て運べることを確認したところで、物資を渡してくる。


「責任をもって届けよう。リッカ、行くぞ」

「……うん」


 そして、物資を受け取ったところで、俺達はクオンに合流しに向かった。


「……いたな」


 パーティメンバーはマップに位置が表示されるので、クオンはすぐに見付かった。


(まだ撮影をしているようだな)


 だが、まだ撮影が終わっていないようなので、映らない場所で撮影が終わるのを待つことにした。


「……終わったようだな。リッカ、行くぞ」


 撮影は順調に進んだようで、そのまま待っていると、気付けば撮影が終わっていた。

 俺達は撮影が終わったことを確認したところで、クオンの元に向かう。


「撮影は終わったようだな」

「うん。オープニングの撮影は終わったよ」

「そうか。物資は十個受け取ったが、それで良かったか?」

「そういうのはシャムの裁量に任せるよ」

「分かった。……それはそうと、周りからの視線を感じるのは気のせいか?」


 クオンと合流したのは良いのだが、周りのプレイヤーがこちらに注目しているようで、かなりの視線を感じた。


「あー……たぶんリスナーさんだと思う」

「まあそうだよな」


 そう考えるのが妥当だし、何となくそんな気はしたからな。わざわざ聞くまでもなかったか。


「面倒なことになる前にさっさと行くか」

「そうだね」

「リッカ、先頭は任せたぞ」


 この中で唯一の前衛だからな。リッカには先陣を切ってもらうことにする。


「……うん。任せて」

「クオンも準備は良いな?」

「バッチリだよ」

「では、行くか」


 そして、全員の準備が整ったことを確認したところで、俺達はウェスティアに向けて出発したのだった。

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