episode93 クオン用の弓と自分用の武器の作製

 俺は【クロライトインゴット】を取り出して、いつもの手順で加工を始める。


「……どうした?」


 それは良いのだが、クオンがこちらのことを覗き込んで、じっとその様子を見ていた。

 ひとまず、何用なのかを聞いてみる。


「いや、待ってる間は暇だし、武器を作るところを見てようかなって」

「そうか」


 別に何か問題があるというわけでもないからな。このまま作業を続けることにする。


(まずは弓の形になるように整えてと……)


 俺は熱した【クロライトインゴット】をハンマーで叩いて変形させて、弓の形に整えていく。


(一つでは足りなさそうだし、もう一つ追加するか)


 作業は順調に進んでいたが、インゴット一個では明らかに量が不足していた。

 なので、【クロライトインゴット】をもう一つ取り出して、それを最初の物と一緒に炉に入れて加熱する。


 そして、赤熱するまで加熱したところで、作業を再開した。


「……できたな」


 それから作業を続けて、無事に弓の本体が完成した。


「後は弦を張って……これで完成だな」


 そして、最後に【ハンターバードの羽】から作製した糸を張って、弓を完成させた。

 ひとまず、その性能を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【クロライト製の弓】

物攻:30

耐久:30

重量:5

空S:2

品質:40

効果:黒に秘める輝き

付与:初撃強化(小)、溜め攻撃強化(小)

Cost:10/20

説明:クロライトで作られた弓。硬いクロライトでできているのでしなやかさが全くなく、引いてもまともに矢が飛ばない。また、弦はハンターバードの羽から作製した糸で、特別な加工はされておらず、中仕掛けも作られていないので耐久度が低い。弓矢としての性能は致命的で、もはや弓本体で殴った方が強い。


━━━━━━━━━━



 しかし、その性能は初期装備にすら劣るレベルのもので、まともに使えるようなものではなかった。


「これはあれだね……控えめに言ってゴミってやつだね!」

「おい」


 確かに性能はアレだが、そんなにはっきりと言わなくても良いというかだな……。


「と言うか、説明もおかしいだろう!」


 説明には「弓矢としての性能は致命的で、もはや弓本体で殴った方が強い」とまであり、まさかゲーム側からもそんなことを言われるとは思っていなかった。


(こういう説明は管理AIが作っているのか?)


 どう見ても元から用意された文章だとは思えないからな。説明の文章は管理AIが作っているものだと思われた。


「いやー……説明でも馬鹿にされるなんて、流石だね!」

「……本当に弓本体で殴った方が強いかどうか確かめてみるか?」


 ここで俺はその弓を手に取って、クオンの方を向いて振り被る。


「待って! 殴らないで! 暴力反対! そういうの良くないよ!」

「……はぁ……仕方がないな」


 元々殴る気はなかったが、少しは反省しているようなので、ここまでにしておくことにした。

 俺は手にしていた弓をそっとテーブルの上に戻す。


「とりあえず、弓の仕組みをきちんと調べる必要がありそうだな」


 そうしないと、まともな物を作れそうにないからな。ここは一度弓のことについて調べてみた方が良さそうだった。


「って言うか、今まで弓を作ったことはなかったの?」

「弓は需要が低いからな。作ったことはないぞ」


 作る物は需要が高い物に絞っているからな。弓を作るのは今回が初めてだ。


「そうだったんだ」

「とりあえず、先に俺の武器を作っても良いか?」

「うん、良いよ」


 弓の作製は少し時間が掛かりそうだからな。ここは先に俺の武器をぱぱっと作ってしまうことにした。

 俺は【スケルトンソーサラーの魔杖核】と【デザートプテラの皮】を取り出して、加工を始める。


「デザートプテラっていうモンスターなんて聞いたことないけど、【デザートプテラの皮】なんてどこで手に入れたの?」

「オブソル岩石砂漠だな。リッカに取って来てもらったぞ」


 デザートプテラは強敵だが、皮は俺の武器の素材に使えそうだったからな。

 無理を言って、リッカに何とか取って来ておいてもらったのだ。


「そうだったんだ」

「と言うか、硬いな……」


 それはそうと、先の方の素材とだけあって硬いので、加工が中々進まなかった。


「時間が掛かりそうだし、帰っても良いぞ?」


 この調子だと、弓が完成するまで時間が掛かりそうだからな。クオンにどうするのかを聞いてみる。


「うーん……確かに時間掛かりそうだし、あたしは適当にぶらついておくね」

「分かった」

「それじゃあね」


 そして、それだけ言い残すと、クオンは拠点を出て行った。


「……私も」


 それに続いて、リッカも拠点を出て狩りに向かう。


「……さて、作業を続けるか」


 拠点に一人残された俺は、皮を加工して手袋の形に整える作業を続行する。


「ふぅ……とりあえず、皮の加工は終わったな」


 そして、何とか皮の加工が終わって、後は【スケルトンソーサラーの魔杖核】をめれば完成する状態になっていた。


「……さて、仕上げといくか」


 一息ついたところで、そのまま最後の工程に取り掛かる。


「……む?」


 と、【スケルトンソーサラーの魔杖核】を取り付けようとしたそのとき、目の前に突然ダイアログメッセージが表示された。



【付与コストを消費して、【術式機構】や【古代術式】による術式を付与できます】



 どうやら、【術式機構】や【古代術式】のアビリティを持っていると、何かしらの効果がある術式を付与できるらしい。


(ひとまず、確認してみるか)


 確認しないことには分からないからな。とりあえず、その内容を確認してみることにした。



━━━━━━━━━━


【魔力効率化術式】

 付与コスト:10

 付与対象:杖、錫杖、魔手甲、マテリアルクラフター

 付与された武器を使用するスキルの消費MPが減少する。


【暴走強化術式】

 付与コスト:10

 付与対象:杖、錫杖、魔手甲、マテリアルクラフター

 付与された武器を使用するスキルの威力が上昇するが、消費MPが増加する。


━━━━━━━━━━



 確認すると、付与できる術式は二つで、付与できる武器も決められているようだった。


(今まで分からなかったのは、【術式機構】や【古代術式】の習得後に対象となる武器を作ったことがなかったからか)


 思えば、今使っているマテリアルクラフターはミルファが作った物だし、【術式機構】と【古代術式】の習得後に対象となる武器を作ったことがなかったからな。

 今まで気付かなかったのも無理はなかった。


「とりあえず、『魔力効率化術式』を付与しておくか」


 大した付与効果がなく、付与コストも余っているからな。『暴走強化術式』は消費MPが増えるデメリットがあるので、ここは『魔力効率化術式』を付与しておくことにした。


「こう取り付けて、と……これで良いな」


 そして、仕上げに【スケルトンソーサラーの魔杖核】を取り付けて、武器を完成させた。

 そのまま強化も済ませたところで、早速その性能を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【魔杖核のマテリアルクラフター】

魔防:20

効力:270

耐久:400

重量:5

空S:2

品質:50

効果:魔力動力核機構、魔力効率化術式

付与:遠距離攻撃強化(小)、翼竜の威嚇

Cost:5/40

説明:スケルトンソーサラーの魔杖核をコアにして作られたマテリアルクラフター。コアには強力な魔力が込められていて、魔法に対して少し耐性がある。また、デザートプテラの皮で作られているので、かなり丈夫な出来になっている。



【魔力動力核機構】

 スケルトンソーサラーが持っていた杖のコアに組まれていた術式機構。

 武器を使ったスキルの威力と闇属性攻撃の威力が上昇する。

 また、攻撃時に闇属性の追加ダメージを与える。

 さらに、戦闘時に一定時間ごとにMPが回復する。


【遠距離攻撃強化(小)】

 付与コスト:5

 一定距離以上の敵に対して与えるダメージが増加する。


【翼竜のかく

 付与コスト:20

 集団で狩りをする翼竜の圧力。

 他の味方と同じ敵を攻撃すると、与えるダメージが増加する。

 この効果は五人を上限として、人数が多いほど効果が上昇する。

 さらに、攻撃時に確率で物理防御力と魔法防御力が低下する効果を付与する。


━━━━━━━━━━



「思っていたよりもコスト上限が高いな」


 確認してみると、想定していたよりもコスト上限が高く、少し付与コストが余ってしまっていた。


「まあどうせ付与するものもなかったし、別に良いか」


 とは言え、特に付与するものもなかったからな。そこは気にしないことにする。


「とりあえず、一度ログアウトして、弓のことについて調べるか」


 適当に試すだけでも作れるとは思うが、原理を理解しておいた方が色々とやりやすいだろうからな。

 俺はそのままログアウトして、ネットで弓のことについて調べたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る