episode90 スケルトンソーサラー戦を終えて
無事にスケルトンソーサラーの討伐を終えた俺は拠点に戻っていた。
「帰ったぞ」
「……お帰り」
「あ、お帰りー」
拠点に戻ると、そこではリッカだけでなく、クオンも待っていた。
「クオンもいたか。どうした?」
「そろそろ用事が済むって聞いたから、来ただけだよ」
「そうだったか。悪いが、まだ弓はできていないぞ?」
スケルトンソーサラーの討伐に注力していたからな。弓を作る時間はなかったので、まだ依頼の品はできていない。
「それは分かってるよ。これから作ってくれるんだよね?」
「まあそれはそうだが、少し休んで良いか? 精神的に疲れたからな」
スケルトンソーサラー戦はかなり集中する必要があったからな。
準備は整っているが、精神的に疲れたので、一度休んでから作業に取り掛かりたい。
「そんなに疲れた?」
「……録画映像を見てみるか?」
ここで俺はメニュー画面を開いて、録画の一覧の画面をクオンに見せながらそんなことを尋ねる。
「いや、別に良いよ」
「そうか。とりあえず、素材は揃っているので、リッカの防具と合わせて作っておこう。完成したら連絡するので、取りに来てくれるか?」
リッカの防具に必要な素材もようやく揃ったからな。クオンの弓はそれと合わせて作っておくことにする。
「分かったよ。時間は掛かる?」
「いや、そんなに時間は掛からないぞ。現実時間で二十分程度だな」
「そう」
「……ログアウトする?」
ここでその話を聞いていたリッカが、ゲーム内で休むのかログアウトして休憩するのかを聞いてくる。
「そのつもりだ」
「じゃああたしもログアウトして、動画の編集でもしてるね。二十分経ったら、またログインするよ」
「分かった」
「それじゃあ一足先に行くね」
それだけ言い残すと、クオンはログアウトして姿を消す。
「……リッカはどうする?」
「……ログアウトする」
「分かった。では、行くか」
そして、クオンに続いて俺達もログアウトしたのだった。
◇ ◇ ◇
シャムの戦闘を見届けたユヅハは主であるユヅリハの元に戻っていた。
「只今戻りました、ユヅリハ様」
「どうだったのかしら?」
「無事に討伐に成功しました」
「……そう。まあそのぐらいはやってもらわないと困るわね」
報告を聞いたユヅリハはその程度のことはできて当然と言わんばかりに言葉を返す。
「ところで、この三人はどうしたのですか?」
それはそうと、何故かエルリーチェ、ミルファ、アリカの三人がこの場所に来ていて、屋敷の前でユヅリハと共にテーブルを囲んで席に着いていた。
特に何も聞いていなかったユヅハはこのような状況に至った経緯を尋ねる。
「聞きたいことがあるから、来たそうよ」
「追い返さなかったのですか?」
「その必要もないわ」
ユヅリハは小物にわざわざ対応する必要もないと言わんばかりの態度でそう答える。
「……そうでしたか」
「ちょうど今から話をするところよ。あなたもそこに座ると良いわ」
「分かりました」
ユヅハは素直に指示に従って、空いていたユヅリハの隣の席に着いた。
「……従順だね、全く」
ここでその様子を見ていたミルファはそんな皮肉めいたことを呟く。
「あら? 喧嘩なら買うわよ?」
「……結構小声で言ったんだけどね。どうやら、その大きな耳は飾りじゃないみたいだね」
「……調子に乗っているみたいね。とりあえず、殺してあげるから、付いて来なさい。オブソル渓谷に突き落としてあげるわ!」
「殺されると分かって付いて行くようなことはしないよ?」
だが、その小言が原因で口論になってしまっていた。
「……静かにしなさい。時間を取らせるつもりかしら?」
その様子を見ていたユヅリハは髪と尻尾をばっと広げて、その圧倒的な威圧感でうるさいと言わんばかりに二人を睨み付ける。
「申し訳ありません、ユヅリハ様」
それを受けて、ユヅハはすぐに頭を下げた。
「ミルファ、余計なことは言わないでくれる?」
「……分かったよ」
エルリーチェに注意されて、ミルファも静かになる。
「……まあ良いわ。用件を話しなさい」
「用件はウェスティア周辺に現れたモンスターについてだよ」
用件はエルリーチェが代表して尋ねた。彼女達の用件というのは、東セントラル平原の先にある街である、ウェスティアの周辺に現れたモンスターについてのことだった。
「ウェスティア周辺……ああ、あれのことね」
それを聞いたユヅリハは心当たりがあったようで、何のことを言っているのかをすぐに理解していた。
「やっぱり、知ってるんだね」
「ええ。けど、教えるつもりはないわよ?」
「うーん……やっぱり、そうだよね……」
エルリーチェは想定通りではあるが、だからこそ困ったと頭を抱える。
「あなた達には関係のない話でしょう?」
「いや、普通に東セントラル大橋が壊されて、現在進行形で迷惑してるんだけど?」
ユヅリハはそう言うが、そのモンスターに東セントラル大橋を破壊されているので、無関係な話ではない。
「そんなことを言われても、アレは私が創り出したわけじゃないし、文句を言われても困るわ」
「創り出した、ね……」
それを聞いたエルリーチェは、その言葉と自分の持っている情報から例の存在の正体を導き出そうと思考を巡らせる。
「あれは誰かが創り出した存在ってこと?」
「間違ってはいないけど、あれは歪みから生まれた存在の一つよ」
「歪み、ね……」
「……この前も『歪み』がどうこう言ってたよね?」
ここでその話を聞いたアリカが話に加わる。
「それがどうしたのかしら?」
「……少しは教えてくれても良いんじゃない?」
「あなたに教える義理はないし、メリットもないわ」
アリカはユヅリハに詳しく話すよう言うが、教える義理もメリットもないと断られてしまう。
「……黙って聞いていれば、その言葉遣いは何なのかしら? ユヅリハ様に対して失礼よ?」
と、ここでその様子を見ていたユヅハは敬意の
「……ユヅハ、あなたはシャノとタヌアの面倒を見ておきなさい」
「ですが……」
「……あなたは私の優秀な式神よ。私のことを最優先に考えてくれているのは助かるわ。ただ、それだと話が進まないから、席を外してもらえるかしら?」
だが、それでは話が進まないと、主であるユヅリハに席を外すよう言われてしまった。
「……分かりました」
それを受けて、ユヅハは耳と尻尾をしょぼんと垂れ下げながら、とぼとぼとその場を去る。
「……あの子は後で元気付けてあげる必要がありそうね」
「……式神の管理も大変そうだね」
その様子を見ていたエルリーチェは気苦労を思ってか、やれやれといった様子でそんなことを言う。
「別にそこまでじゃないわ。あの子達は優秀だから、基本的には大丈夫よ」
「まあだいぶ信頼は置いてるみたいだし、そうなんだろうね。……そろそろ話を戻そうか?」
「そうね」
ここで脱線していた話を本筋に戻す。
「まあ話と言っても、特に話すつもりはないわ。
「うーん……あれが何だったのかぐらいは聞きたかったんだけどな……」
「別に何でも良いじゃない。橋の修繕のための人員は集まっているのでしょう?」
「その件はそうだけど……もう良いか」
エルリーチェは話を逸らされているとは思いつつも、どうせ話してくれないだろうと、聞き出すことを諦める。
「歪みで以て歪みを修正する。理に適っていて良いじゃない」
「……何の話だい?」
「何でもないわ。話はもう良いかしら?」
「そうだね。ミルファ、アリカ、行くよ」
「……良いの?」
アリカは話を聞かなくて良いのかと確認を取る。
「大妖狐の性格は分かってるでしょ?」
「……そうだね」
だが、エルリーチェのその一言であっさりと納得した。
「……大して話もしていないのにこのまま帰すのも何だから、案内を付けてあげるわ。……シャノ」
「何でしょうか、ユヅリハ様?」
ユヅリハが呼ぶと、すぐにシャノが現れる。
「三人を街まで案内してあげなさい」
「分かりました」
「……わざわざ悪いね」
「気にしなくて良いわ。早く行きなさい。置いて行かれるわよ?」
「そうだね。それじゃあまたいずれ会おうか」
そして、ユヅリハに話を聞き終わった三人はそのままシャノの案内で街に戻ったのだった。
◇ ◇ ◇
「……出て来たらどうかしら?」
エルリーチェ達が去ったところで、ユヅリハは隠れていた者に対して呼び掛ける。
「……気付いていたか」
「いくら神でも、私の目は誤魔化せないわ」
「……そうだな」
その呼びかけに応じて、その者はそっと岩陰から姿を現した。
「竜神様がわざわざこんなところにまで来て、何か用かしら?」
岩陰から姿を現したのは竜神ドラークだった。ユヅリハはわざわざこんなところにまで来て何用かと用件を尋ねる。
「……もう猶予はあまりないぞ?」
ドラークはその質問に対して、ただ一言そう答えた。
「……ええ、分かっているわ」
「
「そうね。それは分かっているわ」
「……やはり、
「ええ、当然よ」
それに対して、ユヅリハはわざわざ答えるまでもなく分かっているだろうと言わんばかりの態度で返す。
「……だが、時が来ればその座に就いてもらう。それは分かっているな?」
「……分かっているわ」
「それならば良い。では、私はもう行かせてもらおう」
そして、ドラークは話が済んだところで、飛び去って行った。
「……もうあまり悠長にはできないわね」
ドラークの話を聞いたユヅリハは
「……計画の変更を検討した方が良さそうね」
そして、ドラークの話を聞いて計画の見直しをした方が良いと判断したユヅリハは、あれこれと考えながら屋敷に戻ったのだった。
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