episode88 スケルトンソーサラー
それからさらに一日が経過して、スケルトンソーサラーへの挑戦を始めて三日目になっていた。
「全く……いつになったら討伐が終わるのかしら?」
スケルトンソーサラーがいる部屋の前にまで来たところで、ユヅハがまだ終わらないのかと言わんばかりに文句を言ってくる。
「今回で終わらせるつもりだ」
スケルトンソーサラーとの戦闘は流石にもう慣れてきたからな。
そろそろ行けそうだったので、今回で終わらせるつもりで準備して来ている。
(と言うか、今回で終わらせないとマズいな)
イベントは明日の十五時からだからな。余裕を持って準備しようと思うと、今日の午後から準備を始めたいので、今回で終わらせておきたかった。
まあ明日の午前中だけでも準備は間に合うと思われるので、最悪、今日中に片付けられれば何とかなるが、消費アイテムの補充でコストが掛かるからな。
それを考えると、今回で確実に終わらせたかった。
「そう。それなら、期待しないで待っておくわ」
「……少しは期待してくれ」
「期待して欲しいのなら、それに見合った実績を見せなさい。口で言うだけなら、誰にでもできるわ」
「安心してくれ。今からそれを見せてやる」
そして、俺はそれだけ言い残して、スケルトンソーサラーがいるボス部屋に足を踏み入れた。
「……カカッ!」
俺の存在に気が付いたスケルトンソーサラーは杖を構えて戦闘態勢に入る。
「行くぞ!」
俺はそれと同時に前方に飛び出して、そのままスケルトンソーサラーとの戦闘が開始された。
「カカッ!」
スケルトンソーサラーは三属性の魔法弾を放とうと、大量の魔法陣を展開する。
「――ここだな。『マテリアルウォール』!」
だが、初動のこの流れは何度もやったので、もうこれに対する対応はバッチリだ。
俺は最初の雷弾が飛んでくるタイミングに合わせて、『マテリアルウォール』で
「はっ――!」
そして、地面から生えてくる壁に乗って跳ぶことで、俺はその勢いを加えて大きく跳躍した。
そう、足元から壁を生成したのは、その勢いを利用して跳躍するためだった。
壁が生える速度はそれなりに速いからな。その勢いを利用すれば、このように高く跳ぶことが可能だった。
「よっと……」
そして、魔法弾を跳躍で躱しつつ接近した俺はスケルトンソーサラーの前に着地した。
(接近には成功したが、仕掛けるのはまだだな)
接近されたスケルトンソーサラーは例の雷魔法を使ってくるはずだからな。
俺はモーションの初動を見逃さないように、スケルトンソーサラーが持っている杖を注視する。
(ここだな)
そして、モーションの初動を確認したところで、素早く攻撃範囲外ギリギリの場所に移動した。
「『物質圧縮』プラス『マテリアルバスター』」
俺は安全な場所に移動したところで、すぐに攻撃の準備をする。
「カカッ!」
直後、スケルトンソーサラーの雷魔法が炸裂するが、攻撃範囲外にいる俺には当たらない。
「はっ!」
そして、攻撃判定がなくなったところで、素早く接近して大剣を振り上げた。
「クカッ⁉」
すると、その一撃は狙い通りにスケルトンソーサラーの右腕に当たって、そのダメージで杖を落とした。
「――杖はもらうぞ。『マテリアルチェイン』」
すかさず俺は『マテリアルチェイン』という、先端に三角形に尖った物が付いた鎖を形成して放つスキルを使って杖に向けて鎖を放つと、鎖の先端の尖った部分が杖に刺さった。
そして、刺さったことを確認したところで鎖を引くと、杖が俺の手元に引き寄せられた。
「これも使っておかないとな。『護術・反呪』」
ここで俺は『護術・反呪』という、味方一人に敵からの攻撃を受けたときにその相手の筋力、魔力を確率で低下させる効果を付与するスキルを自身に使用する。
このスキルは攻撃を受けないと意味がないので、タンク役がいないと使いづらいスキルだが、今回はデバフを付与する目的で使っているわけではないので、そこは問題ない。
「クカカッ!」
と、俺が自身にバフを付与したところで、スケルトンソーサラーは杖を取り戻そうとこちらに接近して、爪を振り下ろしてきた。
(これはチャンスだな)
スケルトンソーサラーの攻撃の中では隙が大きい攻撃だからな。
加えて、単純な攻撃で回避もしやすいので、一番の攻撃チャンスだった。
「よっと……これでも食らっておけ!」
バックステップでその攻撃を躱した俺は【ライトフォースボム】を投げて攻撃する。
これは【ベースクリスタル】に光属性の魔力を込めて作った魔法道具で、【ライトボム】の強化版のようなアイテムだ。
ベースとする物を【ガラス】から【ベースクリスタル】に変えただけで作製方法は同じだが、威力はだいぶ上がっている。
もちろん、その分コストも上がっていて、コストの割に効果があるかと言えば微妙だが、そろそろ時間に余裕もなくなってきているからな。
今回は全力を出した方が良いと判断したので、妥協せずに【光魔法】を習得して、【ライトフォースボム】を作製して挑んでいる。
「カカッ!」
「悪いが、もう当たるつもりはないぞ?」
ここでスケルトンソーサラーは両手から魔法陣を展開して、そこから雷を放って反撃してくるが、何度も戦っている俺にはもう通用しない。
俺はタイミングを合わせて横に跳ぶことでそれを躱して、そのまま【ライトフォースボム】を投げて攻撃する。
(とりあえず、距離はこれで良いな)
戦闘に当たっての方針だが、俺はスケルトンソーサラーの近接攻撃がギリギリ届くぐらいの距離を保って戦うようにしている。
もちろん、理由もなくそうしているわけではない。この距離を保っている理由は近接攻撃を誘発させるためだ。
スケルトンソーサラーは魔法攻撃は非常に強力だが、その反面、近接攻撃は単調で回避が容易だからな。
近接攻撃をさせた方が楽になるので、あえて接近戦を挑んでいる。
また、この距離であれば近接攻撃を使う可能性があって、かつ対応がしやすいからな。
この距離を保って戦うのがベストだという結論に至って、実践している。
「クカカッ!」
と、ここでスケルトンソーサラーは自身の頭上十メートルほどの位置に大量の魔法陣を展開した。
(これは――対象を狙い撃つ雷魔法だな)
この魔法は対象に雷を落として攻撃するというもので、連続で狙った対象を攻撃するスキルだ。
この雷には怯み効果もあるので、一度でも被弾すると、残りの攻撃が全弾当たって即死するようになっている。
とは言っても、全弾が対象狙いである以上、走っていれば当たることはないので、そこまで脅威な攻撃ではないように思える。
だが、事はそう簡単ではない。この攻撃によって発生する硬直時間はキャストタイムとなる魔法陣の展開だけで、かつこの攻撃は魔法陣を展開してから発動までに時間がある。
なので、スケルトンソーサラーは雷が降り注いでいるタイミングで自由に動くことができるのだ。
そのため、降り注ぐ雷を避けるために走りながらスケルトンソーサラーの攻撃に対応する必要があるので、かなり厄介な攻撃になる。
(とりあえず、様子を見るしかないか)
間違いなく一番事故率が高い攻撃だからな。俺は立ち止まって、慎重に次に来る攻撃を見極める。
「カカッ!」
ここでスケルトンソーサラーは自身の足元に三つの魔法陣を展開した。
(これは楽な方か)
次に放とうとしている攻撃は三属性の魔力の波動を放つ攻撃だった。
この攻撃は各属性によって波動が広がる速度が違い、それぞれの波動が放たれるタイミングも毎回ランダムだが、離れてしっかり見ていれば回避は難しくない。
なので、ここは一度距離を取って、接近しながら回避することにした。
俺は素早く後退して、十分に距離を取ったところで止まって、動くタイミングを見計らう。
(落雷も来るし、もう動くか)
そろそろ上に展開された魔法陣から雷が放たれるはずだからな。
波動攻撃のタイミングと被るのは仕方がないので、ここは走りながら避けることにした。
「カカッ!」
俺が走り始めたタイミングでスケルトンソーサラーは杖を突くと、そこから波動攻撃が放たれる。
(落雷も来たか)
それと同時に落雷攻撃も来るが、そちらは走っていれば当たることはないので、焦る必要はない。
走りながら各属性の波動が放たれるタイミングを確認して、避け方を考える。
(今回は闇、火、雷か。これなら一回大きく跳べば避けられるな)
今回は運良く速度が遅い順に波動を放ってくれたからな。タイミング的にも一回大きく跳ぶだけで避けられそうだった。
「――ここだな。『マテリアルウォール』」
そして、最初と同じように『マテリアルウォール』で足元から壁を生やして、その勢いを利用して大きく跳ぶことで、波動攻撃を回避した。
(それはそうと、バフ効果が切れているな)
ここで自身の状態を確認してみると、『護術・反呪』によるバフ効果がちょうど切れていた。
「一回目はここまでか」
バフ効果が切れていることを確認した俺は、持っていたスケルトンソーサラーの杖を投げ捨てる。
「クカッ!」
すると、スケルトンソーサラーはその杖を回収しようと、素早くそこに駆け寄った。
(あまりダメージは与えられなかったが、それも仕方がないか)
ずっと杖を持っておきたいところだが、残念ながらそうはいかない。
スケルトンソーサラーが杖を手放してから四十秒が経過すると、杖を中心にして雷が発生するので、その前に手放す必要がある。
まあ雷が発生する二秒ほど前に杖の先端に小さく雷が発生するという予兆があるので分かるのだが、反応が遅れると確実に被弾するからな。
『護術・反呪』のバフ効果が三十秒であることを利用して、杖から雷が放たれるタイミングを計っていたのだ。
「……これでもまだ序盤といったところか」
まだ全然HPが削れていないからな。これでもまだまだ始まったばかりなので、気を引き締めて戦闘を続けることにした。
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