episode86 スピリア墳墓

 翌日、俺達は今日も朝から『Origins Tale Online』にログインしていた。


「それにしても、まさか初見で倒すとはな……」


 昨日はリッカがスケルトンソーサラーのソロ討伐に挑戦したが、彼女は初挑戦でソロ討伐を成功させていた。


「……とりあえず、確認してみるか」


 ギルド拠点に移動した俺はメニュー画面を開いて、リッカから送られていた録画を確認する。


 この録画はリッカがスケルトンソーサラーのソロ討伐を成功させたときの録画で、参考になるだろうと昨日送っておいてもらったものだ。

 本当は昨日確認しようと思っていたのだが、あまり時間がなかったからな。今から確認して、対策を考えることにする。


「…………」


 俺は黙って録画映像を確認していく。


「……終わりか」


 そして、確認が済んだところで、録画映像を閉じた。


「……どう?」


 録画映像を閉じたところで、隣にいたリッカが所感を聞いてくる。


「……できる気がしないのだが?」


 攻撃の手数が非常に多く、全てを避けられる気がしないからな。正直に言って、ソロ討伐は難しそうだった。


「……多少の被弾なら何とかなる」

「それはそうかもしれないが、厳しいことに変わりはないぞ?」


 防具があるので即死はしないだろうが、数発しか耐えられないからな。

 数発の被弾が許容されるとは言え、厳しいことに変わりはなかった。


「……とりあえず、一回実戦」

「いや、そんなに軽く言われても困るのだが?」


 デスペナルティがある以上、挑戦回数には限りがあるからな。

 挑戦には慎重になる必要があるので、何も考えずに挑戦を始めるわけにはいかない。


「……どうせ実戦で練習しないと無理」

「それは分かっているが、少しは考えさせてくれ」


 録画映像を見て対策を考えることはできるからな。挑戦するのはある程度方針を決めてからにするつもりだ。


「……とりあえず、連絡しておく」

「頼んだ。……移動しながら考えるか」


 追加で何かを用意するわけではないからな。

 決めるのは戦術的なことなので、ここはとりあえず外に出て、移動しながら対策を考えることにした。



  ◇  ◇  ◇



 【転移石】で闘都コロッセオスに移動した俺は、そのままスピリア荒原に出ていた。


「来たわね」


 スピリア荒原に出ると、すぐにユヅハに出迎えられた。


「ああ。このまま案内を頼めるか?」

「……その前に人類種と精霊種との力の差を見せてあげるわ」


 そして、そのまま案内を頼もうとするが、彼女は昨日のことをまだ根に持っているらしく、今からボコボコにすると宣言されてしまった。


「いや、その件については謝っただろう?」

「許すと言った覚えはないわ」

「……どうしろと?」

「どうにもならないわ。諦めなさい。……そう言いたいところだったけど、今は時間がないから、あなた達の用事が終わってからにしてあげるわ」

「……まあそれで良いか」


 許されはしなかったが、猶予は与えてくれたので、とりあえず、今回のソロ討伐に影響はなさそうだった。


「今回は特別に道中の敵は倒してあげるわ。感謝しなさい」

「……感謝は行動の結果、自発的にされるものであって、強要するものではないと思うが……」

「……何か言ったかしら?」


 ここでユヅハは文句があるのかと言わんばかりに睨み付けてくる。


「いや、何でもない。その慈悲に感謝する」


 文句を言うと面倒なことになるのは目に見えているので、ここは素直に従っておくことにする。


「ええ。私の寛大な心に感謝すると良いわ。それじゃあこのまま連れて行くわね」

「ああ、頼んだ」


 そして、その後はユヅハに飛行させてもらって、スピリア墳墓に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 飛行して移動した俺達は無事にスピリア墳墓に到着していた。


「ここがスピリア墳墓か……」


 そこにあったのは三枚の石の板のような物で三方向を囲って、その上に一枚の石の板を乗せて作られた入口で、そこにはダンジョンに続いていると思われる下り階段があった。


「ええ、そうよ。最短ルートで行くから、付いて来なさい。遅れても責任は取らないわ」

「分かった。では、頼んだぞ」

「ええ、ユヅリハ様の一番の式神である私に任せておきなさい」


 そして、そのままユヅハの案内でスピリア墳墓を一気に駆け抜けたのだった。



  ◇  ◇  ◇



 ユヅハの案内でスピリア墳墓を駆け抜けた俺達は無事に最深部に到着していた。


「何とか着いたな……」

「全く……この程度だやっとだなんて、まだまだね。リッカは余裕だったわよ?」

「それは仕方がないだろう? リッカの方が動きが軽いのだからな」


 リッカは装備を可能な限り軽量化した上で敏捷に特化しているからな。そんな彼女と比べられても困る。


「言い訳無用よ。文句を言われたくなかったら、実力を見せなさい」

「……分かった」


 実力さえ見せれば認めてくれるだろうからな。ここはつべこべ言わずに戦闘に入ることにした。


「……ここがボス部屋か」


 ボス部屋は直径が五十メートルほどもある円形になっていて、高さは十五メートルほどだった。

 壁には道中と同じように松明のような形状の明かりが設置されていて、一定の明るさが確保されている。


 そして、部屋の奥の方には大きな杖を持った、体長が三メートル以上もあるスケルトンが立っていた。


「……カカッ!」


 こちらの存在を確認したスケルトンソーサラーは杖を構えて、臨戦態勢に入る。


「……さて、やるか」


 それに対抗するように、俺もいつでも戦闘に移れるように構えた。


「……こちらから動くか。『マテリアルソリッド』」


 動いてくる気配がないので、ここはこちらから動くことにした。

 俺は『マテリアルソリッド』で立方体の物を飛ばして、先制攻撃を仕掛ける。


「カカッ!」


 だが、距離があったので、その攻撃はあっさりと躱されてしまった。


(この距離だと当たらないか)


 弾速はそんなに速くないからな。この距離だと、どれだけ攻撃しても当たりそうになかった。


「カカッ!」


 と、ここでスケルトンソーサラーは今度はこちらの番だと言わんばかりに魔法陣を展開した。


(三属性魔法の同時使用か)


 スケルトンソーサラーが最初に仕掛けてきた攻撃は火魔法、雷魔法、闇魔法の三種類を同時に使用してくる攻撃だった。


 この攻撃自体は魔法弾を飛ばすという単純なものだが、この攻撃で厄介なのはそれぞれの属性で弾速が違うことだ。

 属性弾が時間差で飛んでくるので、それぞれにうまく対応する必要がある。

 その中でも雷魔法は弾速が非常に速いので、特に注意が必要だ。


「カカッ!」

「――そこだ」


 俺は魔法が放たれるタイミングに合わせて横に跳んで、放たれた雷弾を躱す。


「よっと……」


 さらに、続けて飛んで来た炎弾と闇弾を何とか身を翻して躱した。


(何とかして近付きたいな)


 俺もスケルトンソーサラーも遠距離攻撃がメインだが、向こうの方が攻撃のバリエーションが豊富だからな。

 遠距離戦はこちらが不利なので、隙を見て接近したいところだった。


 それに、こちらは特定の部位を正確に攻撃する必要があるからな。

 正確に狙った部位を攻撃するためにも、ここは接近した方が良さそうだった。


「――ここだな」


 俺は先程の攻撃を放った後の隙を突いて、一気に距離を詰める。


「――カカッ!」

「っ!」


 だが、スケルトンソーサラーは近付かせないと言わんばかりに魔法陣を展開してきた。


「『物質圧縮』プラス『マテリアルウォール』!」


 それに対して、俺は『物質圧縮』で強化した『マテリアルウォール』で壁を展開することで、魔法弾を防ぐ。


「っ⁉」


 しかし、その壁では攻撃を防ぎ切ることができずに、壁を破壊されて攻撃を受けてしまった。


(何とか耐えられたが、厳しいな)


 近付くほど回避は難しくなるし、『物質圧縮』で強化した『マテリアルウォール』でも防ぎ切ることができないからな。

 この調子だと、弾幕を張られるだけで一方的な展開になるので、かなり厳しそうだった。


「だが、ここまで近付けば――『マテリアルソリッド』!」


 とりあえず、ここまで接近すれば狙った位置に攻撃を当てることができるので、回復は後回しにして、ここで攻撃を仕掛けることにした。

 俺はスケルトン系のモンスターに通りやすい打撃系の攻撃である『マテリアルソリッド』で右腕を狙って攻撃する。


 何故、右腕を攻撃するのかと言うと、スケルトンソーサラーの持っている杖を叩き落とすためだ。

 このモンスターは杖を持っている限り、常に魔法攻撃力上昇と被ダメージ90%カットのバフが掛かって、まともにダメージが通らないからな。

 スケルトンソーサラー戦において、最初に杖を破壊することがセオリーになっているのもそのためだ。


 また、このバフはあくまで杖を所持しているときにのみ発揮されるので、必ずしも破壊する必要はない。

 右腕に一定のダメージを与えると杖を落とすので、杖を破壊せずに倒すことも可能だ。

 なので、俺はそれを狙って右腕を狙って攻撃していた。


「――カカッ!」

「っ⁉」


 だが、一回の攻撃では杖を叩き落とすことができずに、反撃されてしまった。

 スケルトンソーサラーは杖を突くと、自身の周囲に雷を発生させる。

 さらに、それと同時に天井まで高さがある雷柱が等角度に八方向に走った。


「……危なかったな……」


 リッカに見せてもらった映像を見て、このスキルのことを分かっていなかったら、避けることはできなかっただろうからな。

 残りHP的にも受けることはできないので、危ないところだった。


(と言うか、リッカはよく初見で避けられたな……)


 彼女はかなり警戒して立ち回っていたとは言え、普通に初見で避けていたからな。

 ゲームのことに関しては相変わらずだった。


「カカッ!」

「っ! 『マテリアルウォール』!」


 スケルトンソーサラーの攻撃はそれだけでは終わらず、すぐに追撃を仕掛けてきた。

 俺は『マテリアルウォール』で壁を展開して、それを防ごうとする。


「っ……」


(やはり、無理か)


 だが、それでは防ぎ切ることができずに、壁を破壊されて攻撃を受けてしまった。


「ぐ……」


 その攻撃によって俺のHPはゼロになって、行動不能になる。


(……今回はここまでか)


 ユヅハが蘇生してくれる素振りもないからな。俺はそのまま拠点に戻って、最初の挑戦を終えたのだった。

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