episode85 オブソル岩石砂漠攻略までの道筋

「……これは苦戦しそうだな」


 拠点に戻された俺はそんなことを呟きながらギルド拠点に向かう。


「む、先に戻っていたか」


 ギルド拠点に戻ると、先に戻っていたリッカが椅子に座って待っていた。


「……来て」


 リッカは正面に置かれた椅子に視線を向けながら、ただ一言そう言ってくる。

 どうやら、そこに座れと言っているらしい。


「……分かった」


 何か言いたいことがあるようなので、とりあえず、席に着いて話を聞くことにした。


「……何で援護止めた?」

「いや、デザートプテラに接近されてだな……」

「……援護が優先」

「そう言われてもだな……」


 回避行動を取るには攻撃を一旦止める必要があるからな。

 どの道、援護を続けることは困難だったので、そう言われても困る。


「……回避はして良い。ただ、回避中以外は援護を続けて」

「……そういうことは先に言ってくれるか?」


 そういうことは先に言っておいてもらわないと分からないからな。そう言われても困る。


「……パーティでの動きを優先。このぐらいは当たり前」

「……あのな、リッカ。少し良いか?」


 ここで俺はリッカの方を向き直して改まる。


「ゲーマーのお前にとってはそうでも、俺にとってはそうではない。相手の知識量を考えた上で必要な話はしておいてくれるか?」

「むぅ……」


 俺は考えて話をするよう言い聞かせるが、リッカは不満そうに頬を膨らませる。


「……人とのコミュニケーションをする上で必要なことだ。少しは努力してくれるか?」

「…………」

「……別にすぐにできるようになれとは言わない。少しずつで良い。進もうとする努力を見せてくれ」


 ここで俺は席を立ってリッカに近付いて、その頭を優しく撫でる。


「……うん!」


 すると、勢い良く席を立って、そのままこちらに抱き付いてきた。


「……とりあえず、席に戻ってくれるか?」


 このままだと話もしづらいからな。彼女には一旦席に戻ってもらうことにする。


「……うん」


 リッカは素直に俺の言うことを聞いて、すぐに席に戻った。


「さて、オブソル岩石砂漠の攻略について何か言いたいことはあるか?」

「……武器を強くしたい」

「まあそこは俺も同意見だな」


 捌ける程度の攻撃であれば何とかなるが、あれだけの手数だと攻撃する余裕もないからな。

 俺が足止めすれば戦えるが、足止めできる時間も限られているので、結局は火力で押し切る必要がある。


 もちろん、タンク役がいれば他の戦術も取れるだろうが、今更変えるつもりはないからな。

 俺達の戦闘スタイルを考えると、武器を強くして火力を上げる必要がありそうだった。


「となると、上位の金属素材とコア用の素材を入手する必要があるか」


 そして、そのためには上位の素材を手に入れる必要があった。


「ただ、素材を加工できない可能性があるからな……」


 次の炉のアップグレードに必要なアイテムは【炎竜の鱗】だからな。

 煉獄火山よりも難易度が高いと思われる、オブソル岩石砂漠で手に入る素材は加工できない可能性があるので、安易にオブソル岩石砂漠で素材を集めるわけにもいかなかった。


「……でも、煉獄火山は無理」

「それも問題だな」


 煉獄火山に向かうには耐暑装備が必要だからな。

 酷暑によるペナルティは重く、強行採取も難しいので、煉獄火山で素材を集めるという選択肢もない。


「となると、耐暑装備を作製して、順当に攻略を進めていくのが良いか……?」


 上位の素材を手に入れても加工できなければ意味がないからな。

 結局のところ、順当に攻略していくのが一番良さそうだった。


「どうする? 一旦ユヅリハのことを放置して、イベントを見据えて動くか?」


 ユヅリハの元に辿り着くのは少々時間が掛かりそうだからな。イベント後にユヅリハの元に向かうという選択肢もありだった。


「……うん」

「分かった。一応ユヅリハ達には連絡しておくか」


 一応、伝えておいた方が良いだろうからな。俺はメニュー画面を開いて、ユヅリハに通信を繋ぐ。


「……あら、何か用かしら?」

「そちらに向かうのは少々時間が掛かりそうでな。そのことを知らせておこうと思って連絡した」

「……どのぐらい掛かるのかしら?」

「三週間以上は掛かるな」


 イベントの情報がなく、イベント期間が分からないからな。正確な期間は言えないので、適当に最低でも掛かるであろう期間を伝えておく。


「…………」


 それを聞いたユヅリハは何かを考えているのか、そのまま黙り込んでしまう。


「……? どうした?」

「……いえ、期待外れだと思っただけよ」

「そう言われても、こちらにも準備や予定があるのだが?」


 彼女達の元に向かうには準備が必要だし、イベントもあるからな。それで期待外れだと言われても困る。


「ユヅリハ様を失望させるなんて、万死に値するわ。今からボコボコにしに行くから、待っていなさい」


 ここでその話を聞いていたユヅハが話に加わって、色々とややこしくなる。


「いや、待て。こちらにもこちらの事情がある。そのあたりを考えてくれてもだな……」

「それは私達も同じことよ。こちらも時間を使ってあなた達のことを見てあげているのだから、ちゃんと期待に応えなさい」

「それは……そうだな」


 正論だからな。そう言われると、何も言い返せない。


「まあユヅリハ様の手を煩わせた時点で罰を与えるには十分よ」

「……途端に頭が悪くなるのは止めてくれるか?」


 主であるユヅリハのことを優先するのは分かるが、それを最優先にするがあまりに他を一切認めない至上主義になられては困る。


「…………」


 だが、俺がそう言ったところで、ユヅハは黙り込んでしまっていた。


(これはマズかったか?)


 頭が悪いと言われたことが癪だったのか、ユヅハは少し怒っているようだった。

 通話越しではあるが、何となくそんな雰囲気が伝わってくる。


「いや、別に頭が悪いとは言っていないぞ?」

「そうね。とりあえず、人類種と精霊種との格差を見せ付けてあげるわ」

「……謝罪しよう。全面的に俺が悪かった」


 ユヅハに何を言おうと聞く耳を持たないだろうからな。ここは言い訳せずに、素直に謝罪することにする。


「……まあ良いわ。そもそも、用事と言っても、どうせ大した用じゃないのでしょう?」

「決め付けるのは止めてくれるか?」


 イベント限定の報酬もあるだろうからな。イベントへの参加はほぼ確定事項なので、そう決め付けられても困る。


「その時期に用事と言ったら……東セントラル大橋の修理かしら? そんなものは他の人に任せれば良いじゃない」

「……東セントラル大橋の修理?」


 始都セントラルの東門はまだ解放されていないからな。その先にあるエリアのことは知らないので、東セントラル大橋とやらの情報は持っていない。


「……東セントラル大橋がモンスターの襲撃で破壊されて、その修理のために必要な人員を近々募集するそうよ。知らなかったのかしら?」

「……もちろん、知っているぞ? それに参加しようと思っていたからな」


 参加しようとしているイベントのことを知らないのは不自然だからな。ここは適当に話を合わせておく。


「……ユヅハ、私が話をするわ」

「かしこまりました」


 ここで話し相手がユヅリハに戻る。


「仕方がないから、期限は延ばしてあげるわ。ただ、少し条件を設けるわね」

「分かった。条件は何だ?」

「条件は二つよ。まず一つは用事が済んだ後にすぐにこちらに来れるように準備を整えておくことね」


 ユヅリハが提示する一つ目の条件は、イベント後にすぐにオブソル岩石砂漠の攻略に取り掛かれるように、装備などを整えておくことだった。


「それは問題ない」


 元々そのつもりだったからな。その条件に関しては特に問題はない。


「それで、もう一つの条件は何なんだ?」

「もう一つの条件は私の指定したモンスターをソロで討伐することよ」

「……何のモンスターを倒せば良いんだ?」


 その条件は指定されるモンスター次第だからな。とりあえず、討伐対象のモンスターを聞いてみることにする。


「スケルトンソーサラーよ」

「スケルトンソーサラー……確か、スピリア墳墓のボスモンスターだったな?」

「ええ、そうよ」


 スケルトンソーサラーはスピリア荒原の北の方にあるダンジョンであるスピリア墳墓のボスモンスターで、攻略サイトの情報によると、ちょっとしたギミックがあるボスとのことだ。

 スピリア荒原のモンスターとしては強めに設定されているらしく、攻略サイトにはスピリア荒原の適正レベルだと、少し厳しいと書かれていた。


「それと、ただ倒すだけじゃ意味がないから、討伐に当たって条件があるわ」

「……さらに条件を付け加えるのか?」

「ええ。あなた達にはスケルトンソーサラーの杖を破壊せずに倒してもらうわ」

「……それは無理ではないか?」


 詳細は今は置いておくが、スケルトンソーサラーの杖を破壊せずに倒すのは非常に困難だからな。それは無理難題というものだ。


「これはあなた達のためを思って言っているのよ? 杖を壊したら、【スケルトンソーサラーの魔杖核】が手に入らないでしょう?」

「【スケルトンソーサラーの魔杖核】?」

「シャムの武器に必要でしょう? 今のあなた達が手に入れられる素材の中で、一番優秀な素材のはずよ?」

「む、そうだったのか」


 どうやら、マテリアルクラフターを作るための素材として使えるようで、そのために取らせようとしていてくれたらしい。


(まあ受けるしかないか)


 断っても聞き入れてはくれないだろうからな。ここは覚悟を決めて、その条件を受け入れることにした。


「とりあえず、リッカから挑戦させるから、準備ができたら連絡しなさい」

「分かった」

「それじゃあもう切らせてもらうわ」

「ああ」


 そして、話がまとまったところで、通信を切った。


「……リッカはどうするんだ?」


 今日を除いても、まだ三日あるからな。期間的な余裕はあるので、どうするのかを聞いてみる。


「……デスペナ切れたら行く。シャムは?」

「俺は明日から挑戦しよう」


 リッカの後に挑戦するとなると、あまり時間がないだろうからな。俺は明日以降に挑戦するつもりだ。


「……そう」

「では、今日は各自で行動するということで良いな?」

「……うん」


 そして、そこで別れた俺達は各自で行動して、その日のゲームプレイを終えたのだった。

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