episode84 デザートプテラ

「……何かいるな」


 ミネラタートルを倒して移動を再開した俺達だったが、移動し始めてすぐに前方にモンスターを発見した。


 そこにいたのはデザートプテラという、体長が二メートルほどの翼竜のモンスターだった。

 デザートプテラは全部で五体いて、群れを作って地上二十メートルほどの高さを飛んでいる。


「どうする? 避けて行くのは難しそうだが?」


 相手は格上な上に、五体もいるので避けて行きたいが、飛行しているモンスターに見付からずに進むのは困難だからな。

 隠密行動をしても見付かる可能性が高いので、こちらから先制攻撃を仕掛けるのもありだった。


 このまま俺の判断で決めても良いのだが、余裕があるのでリッカの意見を聞いてみる。


「……仕掛ける」

「良いのか? かなり厳しいと思うが?」


 格上の相手が五体だからな。かなり厳しい展開になるとは思うが、それでも良いのか確認を取る。


「……相手できないと無理」

「まあそれもそうか」


 普通の雑魚敵のようだし、今後も出会うことになるだろうからな。

 倒せなければ、ユヅリハのところまでは辿り着けない可能性が高いので、ここは戦うことにした。


「俺が先に仕掛けた方が良いか?」

「……いや、私が先に仕掛ける」

「そうか。では、俺は援護に回ろう」


 俺が先に仕掛ければ先制攻撃を仕掛けられるが、ターゲットを取ってしまう可能性が高いからな。

 ここはリッカを先に行かせることにした。


「……もう行く」

「任せたぞ」


 そして、リッカは岩陰を飛び出すと、刀に手を据えて構えを取った。


「キィーーッ!」


 リッカの姿を確認したデザートプテラ達は素早く陣形を整えると、ホバリングしながら警戒を強める。


「キィッ!」


 そして、その内の三体が急降下して、突進攻撃を仕掛けた。


(速い――)


 その速度はかなりのもので、急降下攻撃が専門のハンターバードよりも速かった。


「『クイックモード』、『クイックステップ』――」


 だが、リッカもそう簡単にやられはしない。

 一定時間、敏捷値とステップ系スキルの効果を上げる『クイックモード』を使った上で、『クイックステップ』を使って後方に跳んで、その攻撃を躱す。


「キィッ!」


 しかし、デザートプテラ達の攻撃はそれだけでは終わらない。

 上空に残った二体のデザートプテラは口から火球を放って、リッカを攻撃する。


「――遅い」


 だが、リッカの速度を前に遠距離攻撃が当たるはずもなく、着弾点には既に彼女の姿はなかった。


「……そろそろ行くか。『マテリアルブレード』」


 デザートプテラは意外に速く、いくらリッカでも一人で相手するのは難しいからな。そろそろ援護に入ることにした。


 俺は『マテリアルブレード』で刃を飛ばしてデザートプテラを攻撃する。


「キィッ!」


 しかし、その攻撃は地面を蹴って素早く飛び立つことで躱されてしまった。


(遠距離攻撃は当たりそうにないな)


 思っていたよりもすばしっこいからな。隙を突かない限り、遠距離攻撃は当たりそうになかった。


「キィッ!」

「キィーッ!」


 と、ここでその様子を上空で見ていた二体のデザートプテラはターゲットを俺に定めたのか、こちらのことをぎろりと睨んでいた。


「――警戒」

「分かっている。『物質圧縮』」


 俺は『物質圧縮』を使って【クラフトマテリアル】を圧縮して、攻撃に備える。


「キィーーーッ!」


 直後、その二体のデザートプテラがこちらに急降下して来た。


「――ここだな。『マテリアルウォール』」


 俺はタイミングを合わせて『物質圧縮』で強化した壁を展開する。

 すると、壁に罅が入りはしたが、嘴が壁に突き刺さって攻撃が止められた。


「『物質圧縮』プラス『マテリアルバスター』」

「――『抜刀神速』」


 そして、俺とリッカで同時に攻撃を叩き込んで、デザートプテラを壁ごと叩き斬った。


(これで三割しか減っていないのか……厳しいな)


 隙を突いて攻撃を叩き込めたが、デザートプテラは思っていたよりも硬く、HPは三割程度しか削れていなかった。

 俺は最大火力の攻撃を叩き込んだにも関わらずこのダメージなので、展開としてはかなり厳しそうだった。


「キィッ!」

「っと……!」


 だが、あまりゆっくりと考えている暇はない。

 デザートプテラが地面を蹴って素早く接近して来たので、俺はそれを大きく横に跳んで躱す。


「リッカ、頼んだぞ。『バレッジブレード』」


 俺は『マテリアルバスター』ぐらいしか近接攻撃の手段がないからな。

 その唯一の近接攻撃である『マテリアルバスター』も隙が大きく、デザートプテラを相手に使うことはできないので、刃を飛ばして援護しながら距離を取る。


「……当てなくて良い。そのまま援護して」

「分かった」


 『バレッジブレード』は『マテリアルブレード』と比べると一発当たりの火力は低いからな。

 ここはリッカの指示通りに、行動を制限することを意識して刃をばら撒く。


「キィッ!」

「っ……」


 だが、それでは動きを封じられず、一体のデザートプテラに接近を許してしまった。


「『マテリアルバスター』。はっ――」


 仕方がないので、『マテリアルバスター』で大剣を生成して、間合いに入るタイミングに合わせて一文字に振り抜く。


「キィッ!」

「っ⁉」


 しかし、その攻撃は跳び越えることで躱されてしまい、振り抜いた大剣は空を切った。

 そのまま俺は足で肩を掴まれて、押し倒されてしまう。


「キィーッ!」

「おい、止め……痛っ……」


 さらに、その様子を見た他のデザートプテラが近付いて来て、動きを封じられた俺の頭に向けて嘴をキツツキのように打ち付けて攻撃してきた。


「ぐふっ……」


 そして、あっという間にHPを削り取られて、俺は戦闘不能になってしまった。


「キィッ!」

「キィーッ!」


 その結果、五体のデザートプテラがリッカの方に一斉に向かってしまった。


「っ……」


 リッカは攻撃を躱したり相殺したりして凌いでいくが、相手は五体もいるので一切の余裕はない。

 全方位に注意を向けながら、絶え間なく動き回って攻撃を凌いでいく。


(よく躱せるな……)


 俺なら五体を相手にすると一瞬で倒されるだろうが、リッカは初見の相手に『見切り』も決めながら、全ての攻撃を捌いていた。


「っ……」


 だが、ここで突然リッカの動きが止まってしまった。


(スタミナ切れか)


 その理由は単純で、動きが止まったのはスタミナ切れが理由だった。

 まああれだけ動いていたからな。そうなるのも当然の展開だった。


「キィッ!」

「ぐっ……」


 そのままリッカは蹴り飛ばされて、崖に叩き付けられる。

 そして、HPがゼロになった彼女は力なく落下して、べちゃっと潰れるように地面に倒れた。


「……この調子だと、ユヅリハ様のところに辿り着くのに時間が掛かりそうね」


 ここで透明になっていたユヅハは、俺達の全滅を確認したところで姿を現す。


「キィッ!」


 しかし、姿を現したことでデザートプテラ達はユヅハの存在に気付いて、彼女に向けて一斉に攻撃を仕掛けた。


「邪魔よ。『カースエイム』」


 だが、彼女がそう簡単に攻撃を通すはずもなく、ユヅハは五つの黒い魔法弾を飛ばして、それを迎撃しようとした。


(……? ダメージが入っていない?)


 彼女が放った魔法弾はそれぞれに命中したにも関わらず、一切ダメージが入っていなかった。


「消し飛びなさい。『カースバースト』」

「キィッ⁉」


 だが、次に『カースバースト』というスキルを使用すると、デザートプテラ達が爆発を起こした。


(あの一撃で全滅か)


 ユヅハは当然のようにすべての敵を一撃で倒していて、デザートプテラ達は先程のスキルで全滅していた。


「私はユヅリハ様の元で待っているわ。暇だったら様子を見に来てあげるから、再度挑戦するなら連絡しなさい。それじゃあ私はもう行くわ」


 そして、ユヅハはそれだけ言い残すと、西の方に向かって飛び去って行った。


(……拠点に戻るか)


 これ以上待っても意味はないからな。全滅した俺達はそのまま拠点に戻ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る