episode83 ミネラタートル
オブソル岩石砂漠のエリア内に入ると、そこには岩盤が露出した、一般的な岩石砂漠の光景が広がっていた。
ユヅリハが言っていたように、ここは砂漠ではあるが、気温差は激しくないらしく、今は夜中だが寒さ対策は必要なさそうだった。
「ここがオブソル岩石砂漠か……。何と言うか、植物は一切採れそうにない場所だな」
岩盤が露出していて、植物の生育に必要な土がほとんどないからな。
このエリアでは植物類のアイテムはほとんど手に入らなそうだった。
「洞窟やオアシスでなら手に入るわよ?」
「む、そうか」
「まあ今はそんなことはどうでも良いわ。地図を出しなさい」
「分かった」
ユヅハに言われたところで、メニュー画面を開いてこのエリアのマップを表示する。
「あなた達が目指す場所はここよ」
そして、ユヅハがそう言うと、マップ上にピンが立てられた。
「ふむ……マップの南西端付近といったところか」
マップが埋まっていないので正確なことは言えないが、見たところ、目的地はマップの南西端付近のようだった。
「言っておくけど、真っ直ぐ西に行くだけでは辿り着けないわよ?」
「そうなのか?」
「まあ行ってみれば分かるわ」
現在地はマップの南東端付近なので、真っ直ぐと西に行けば目的地に辿り着けそうに見えるが、そう簡単にはいかないらしい。
(地形的な問題だろうが、まあ行って確認すれば良いか)
ここで考えても答えは出ないからな。さっさと行動に移ることにした。
「このまま真っ直ぐと西に向かうが、それで良いな?」
「……うん」
地形を確認しないことには目的地までのルートを定められないからな。
それでは辿り着けないことは分かっているが、とりあえず、ここは真っ直ぐと西に向かって地形を確認してみることにした。
「では、行くぞ」
そして、方針が決まったところで、俺達は移動を始めたのだった。
◇ ◇ ◇
「……早速か」
移動を始めてまだ数分しか経過していないが、俺達は高さが十メートル以上もある大きな崖にぶつかっていた。
「……どうする? 迂回するか? それとも、登るか?」
手や足を掛ける場所はあるし、この程度の高さであれば簡単に登ることができるからな。
登るのも選択肢としてはありなので、リッカにどうするのかを聞いてみる。
「……登る」
「分かった。では、各自で登るか」
そして、方針が決まったところで、俺は崖の前にあった一メートルほどの大きさの岩に足を掛けた。
(……? 何だ?)
だが、岩に足を掛けた瞬間に違和感を覚えた。
「……? どうしたの?」
その様子に気が付いたのか、リッカが何事かと聞いてくる。
「いや、岩が動いた気がして――おわっ⁉」
岩が動いたような気がすると伝えようとしたそのとき、岩が動いてバランスを崩してしまった。
「ぐふっ……」
そして、俺はそのままそこから落下して、地面に叩き付けられてしまった。
「……離れて」
それを見たリッカはすぐにこちらに駆け寄って来る。
「分かった」
俺はすぐに起き上がってその場を離れると、すぐに警戒して構えた。
「シャー!」
直後、その岩の底から何かが飛び出すと、岩が動き出した。
(ミネラタートル……亀のモンスターだったか)
岩の底から飛び出したのは亀の手足と頭だった。
確認してみると、あれはミネラタートルというモンスターで、どうやら、岩に擬態していたらしい。
「……どうする?」
「……シャムが仕掛けて」
「分かった。『マテリアルソリッド』」
手の内が分からない相手に接近するのは危険だからな。
ここはリッカの言うように俺が遠距離攻撃をして様子を見ることにした。
(ほとんど効いていないな……)
指示通りに攻撃をするが、ミネラタートルにはほとんどダメージが入っていなかった。
「シャーーーッ!」
直後、ミネラタートルは威嚇するような鳴き声を上げると、大きく口を開いた。
「――避けて」
「おわっ⁉」
そして、そのまま口からビームを放って攻撃してきた。
「危ないな……」
リッカの警告があったので何とか避けられたが、ビームはかなりの速度なので、警告がなければ避けられなかった。
「――『抜刀神速』」
と、ここでリッカは攻撃後の隙を狙って、ミネラタートルに攻撃を仕掛けていた。
(やはり、ほとんど効いていないな)
だが、防御力が高く設定されているのか、その攻撃でもほとんどダメージが通っていなかった。
「――シャム」
「分かっている。これなら……どうだ!」
物理攻撃に対して強いことは分かったが、属性攻撃はまだ試していないからな。
俺は【ウィンドボム】を投げ付けて、ミネラタートルに攻撃を仕掛ける。
「……これでも一割も減らないのか……」
しかし、【ウィンドボム】を三つ使って攻撃しても、HPは一割すら削れていなかった。
(明らかに耐久力が高いな)
相手が格上なことはあるが、ダメージが通らなさ過ぎるからな。
このモンスターの耐久力が高く設定されていることはほぼほぼ明らかだった。
「ミネラタートルはかなり硬いわよ?」
ここでその様子を見ていたユヅハがそんなアドバイスをしてくる。
「……そういうことは先に言って欲しかったのだが?」
硬いことが分かっているのであれば、相手せずにスルーするという選択肢もあったからな。
あのモンスターについての情報を持っているのであれば、先に言って欲しかった。
「どうする、リッカ?」
倒すのはかなり手間が掛かるからな。このまま倒すのか、撤退するのかの判断はリッカに委ねることにする。
「……倒す」
「分かった。では、【ウィンドボム】を使って削っていくということで良いな?」
「……うん」
物理攻撃しかできないリッカにはあまりダメージを与えられないだろうからな。
ここは俺が【ウィンドボム】を使って削っていくことにした。
「ふっ……」
「よっと……」
リッカが接近してターゲットを取って、俺が少し離れた位置から攻撃していく。
「シャーー!」
「――遅い」
ミネラタートルはリッカに噛み付いたり、ビームを放って攻撃するが、その動きは遅いので、リッカは難なく全ての攻撃を躱していた。
(この調子なら問題なさそうだな)
ミネラタートルは動きが遅く、攻撃も単調だからな。
もはや、リッカの動きに付いて行けていないので、この調子なら問題なくHPを削り切れそうだった。
「これで……終わりだ!」
そして、それからしばらく攻防が続いて、最後に【ウィンドボム】を投げ付けて、ミネラタートルにトドメを刺した。
「ふぅ……やっと終わったな」
【ウィンドボム】を三十個以上使ったが、何とかミネラタートルを倒すことに成功した。
「これ以降はスルーした方が良さそうだな……」
【ウィンドボム】を大量に消費することになるからな。
ミネラタートルは動きも遅く、逃げることは簡単なので、見付けてもスルーした方が良さそうだった。
「さて、ドロップ品は……【鉱石亀の岩石甲羅】だけか」
戦闘が終わったところでドロップ品を確認してみるが、ドロップしたのは【鉱石亀の岩石甲羅】だけだった。
(鉱石亀……? そう言えば、魔力タンクの作製に【鉱石亀の宝珠鉱】が要求されていたな)
鉱石亀という名称を聞いて思い出したが、魔力タンクの作製には【鉱石亀の宝珠鉱】というアイテムが要求されていた。
「……いや、今は止めておくか」
魔力タンクはできるだけ早い段階で作りたいが、今はユヅリハがいる目的地への到達という目的があるからな。
狩りをするにしても、今の火力ではアイテムの消費が激しいので、ミネラタートルの狩りは後回しにした方が良さそうだった。
「今回は単騎だったが、他のモンスターと一緒だと厄介そうだな……」
ミネラタートルは耐久力が非常に高く、すぐには倒せないからな。
固定砲台として居座ることになるので、他のモンスターと一緒だと少々厄介そうだった。
「……そろそろ行く?」
「そうだな」
ここで話をしていても仕方がないからな。無事にミネラタートルの討伐を終えた俺達はそのまま移動を再開したのだった。
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