episode81 リッカ用の頭装備の素材の検討

 拠点に戻った俺はリッカ用の防具に使う素材の開発を行っていた。


「中々うまく行かないな……」


 だが、失敗続きで大した成果は得られていなかった。

 金属糸の開発をメインに続けているが、クロライトやリザルライトで作っても失敗していて、今のところは【デヴェスト金属糸】よりも優秀な素材は開発できていない。


「……どう?」


 ここで遠目からその様子を見ていたリッカが調子はどうかと聞いて来る。


「あまりうまくは行っていないな」

「……そう」

「そう言えば、こんなものを作ってみたのだが、どうだ?」


 ここで俺はリッカに今作った髪飾りを渡す。


「……これは?」

「形状や素材はそれで良いのかという確認だ」


 まだ使う素材は決まっていないが、デザインはもう決まったからな。

 試しに適当な素材で頭装備である髪飾りを作ってみたのだ。


 髪飾りのデザインは樹枝六花と呼ばれるタイプの雪の結晶をモチーフにしていて、雪の結晶の形状にした金属にリボンを付けている。

 これであれば、リボンに『浮かび上がるようなふわふわ』を付与することで重要をゼロにできるからな。結果として、このようなデザインになった。


「……うん」


 どうやら、デザインには満足してくれたらしい。


「分かった。さて、素材の自由度は高いし、どうするか悩みどころだな……」


 雪の結晶の部分は固形の物であれば何でも良いからな。

 素材の自由度は高いので、素材の選定に時間が掛かりそうだった。


「……髪飾りは効果重視が良い」

「……それだと防御力に不安が残らないか?」


 腕装備を効果重視で作ることは決まっているからな。

 頭装備も効果重視にして低い防御力になってしまうと、防御力に不安が残る。


「……どうせそこまで変わらない」

「まあそれはそうだが……まあ良いか」


 リッカの言うように大きくは変わらないし、折角自由が利くわけだからな。

 頭装備である髪飾りは効果重視で作ることにした。


「リボンの素材は……適当で良いか」


 リボンは装飾程度に付けているだけで、素材の固有の効果が発現しない可能性が高いからな。

 実際、先程作った物には発現していなかったので、リボンの素材は適当で良さそうだった。


「となると、問題は本体の素材だが……やはり、高品質な物が良いか」


 低品質な物では効果に期待できないからな。

 ここは最初の方に手に入る物でも良いので、高品質な物を作ってみることにした。


「候補としては、【コッコの嘴】、【ウルフの骨】、【アイアンインゴット】、【コッコアイアンインゴット】のあたりか?」


 南セントラル平原で手に入る素材の中でレア素材でない固形の物となると、それぐらいになるからな。

 この中から考えるのが良さそうだった。


「レア素材も良いが、まあそれは後で考えるか」


 レア素材となると、ネムカに頼むことになるだろうからな。まずは普通の素材で作ってみることにした。


「さて、やるか」


 俺は品質が50の物を使って、【コッコの嘴】と【ウルフの骨】は錬金で、【アイアンインゴット】と【コッコアイアンインゴット】は鍛冶で適当に形を整えていく。

 そして、髪飾りが完成したところで、それぞれに発現した効果を確認した。


「効果が発現したのは【ウルフの骨】と【コッコアイアンインゴット】で作った物だけか」


 確認してみるが、効果が発現していたのは【ウルフの骨】及び【コッコアイアンインゴット】で作った物だけで、【コッコの嘴】及び【アイアンインゴット】で作った物は何の効果も発現していなかった。

 とりあえず、発現した二つの効果の内容を確認してみる。



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【狼の警戒心】

 フリー状態のとき、受けるダメージが減少する。


【しなやかな防御】

 確率で受けるダメージを減少させる。


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(どちらも弱いな)


 品質を100にすればより強力な効果が発現するだろうが、この効果を見た感じだと、あまり期待はできなさそうだった。

 ちなみに、『狼の警戒心』の説明にあるフリー状態というのは、歩く以外の行動を行っていない状態のことを指している。


「……【原初の石】で試してみるか」


 普通の素材では効果に期待できそうにないからな。

 数に少し余裕もあるので、試しに【原初の石】でも同じ物を作ってみることにした。


「……これで良いな」


 そして、錬金で【原初の石】を変形させて髪飾りを作製すると、『原初の鼓動』という効果が発現していた。

 ひとまず、その内容を確認してみる。



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【原初の鼓動】

 脈打つは全てのかいびゃくたるえん

 全属性攻撃の威力が上昇して、全属性耐性が5%上昇する。

 『原初の鼓動』の効果は重複せず、『原初の胎動』か『原初の脈動』の効果が適用されている場合、この効果は適用されない。


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(やはり、通常の素材よりも効果が強力だな)


 確認してみると、レア素材なだけあって、通常の素材よりも強力な効果が発現していた。


(説明にある二つの効果も見てみるか)


 ついでに、説明にあった上位の効果だと思われる二つの効果も確認してみることにした。



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【原初の胎動】

 えんは脈打ち、かいびゃくは訪れる。

 全属性攻撃の威力が上昇して、全属性耐性が7%上昇する。

 さらに、MPを消費するスキルの威力がMPの消費量に応じて上昇する。

 『原初の胎動』の効果は重複せず、『原初の脈動』の効果が適用されている場合、この効果は適用されない。


【原初の脈動】

 えんは輝き、かいびゃくの光となって世界は脈打ち始める。

 全属性攻撃の威力が上昇して、全属性耐性が10%上昇する。

 また、MPを消費するスキルの威力がMPの消費量に応じて上昇する。

 さらに、戦闘時に一定時間ごとにHPとMPが回復する。

 『原初の脈動』の効果は重複しない。


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「ふむ、効果自体は悪くないが、リッカには向かないか」


 リッカは属性攻撃をほとんど使えず、消費MPが重いスキルもないからな。

 属性攻撃威力上昇の恩恵も、消費MP量に応じたスキル威力の上昇の恩恵もあまり得られないので、彼女には微妙そうだった。


(どう見ても、魔法使い用にデザインされた効果だよな……)


 この効果を最大限活かせるのは、属性魔法を中心にしたアビリティ構築になるからな。

 見たところ、この効果は魔法使い用にデザインされた効果のようだった。


「どうする、リッカ?」


 決めるのは本人だからな。どうするのかを聞いてみる。


「……他のにする」

「分かった。となると、素材の候補は……」

「……ストライクウルフの爪か牙、【聖角竜のりん】あたりは?」

「ふむ、【聖角竜のりん】か。そう言えばそんな物もあったな」


 【聖角竜のりん】は初日に竜の巣で拾っていたが、ずっと倉庫の奥で眠っていたからな。その存在を完全に忘れていた。


「それも悪くなさそうだな」


 このまま使わずにいると、今後も倉庫の肥やしになるだけな気がするからな。

 折角の機会なので、【聖角竜のりん】を使って作ってみるのも良さそうだった。


「だが、それは少し準備を整えてからだな」


 【聖角竜のりん】は一つしかないからな。作れる機会は一度だけなので、作るのは少し調べてからにすることにした。


「……分かった」

「それで、この後はどうする?」


 防具の作製は素材が集まるまでできないからな。それまでは自由にできるので、リッカにどうするのかを聞いてみる。


「……ユヅリハのところに行く」

「分かった。では、夕食後にログインして向かうということで良いな?」

「……うん」


 今からユヅリハ達の元に向かうのは時間的に微妙だからな。

 時間になったら一度ログアウトして、夕食後にログインしてから彼女達の元に向かうことにした。


「では、各自自由行動ということで良いな?」


 リッカはデスペナルティを受けている間ログアウトしていたからな。

 俺とリッカとではログアウトする時間が違うので、ここは各自自由行動にすることにした。


「……うん。じゃあ行く」


 それを聞いたリッカはそのまま拠点を出て行く。


「さて、俺は店の商品でも作るか」


 リッカ用の防具の作製料金である二十万ゼルを稼ぐ必要があるからな。

 その後は商品用の物を作って時間を潰して、時間になったところでログアウトしたのだった。

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