episode80 リッカ用の防具についての相談
拠点を後にした俺達は、ネムカに連絡をしてから『猫又商会』の店に向かっていた。
「さて、店に来たは良いが……誰もいないな」
店に着いたは良いが、店内での作業がないからなのか、店は無人の状態だった。
「……む?」
だが、ちょうど店に着いたタイミングで以下のメッセージが記されたダイアログが表示された。
【『猫又商会』のギルド拠点への招待が届いています。『猫又商会』のギルド拠点に移動しますか?】
その内容は『猫又商会』のギルド拠点へ招待されたことを知らせるものだった。
どうやら、連絡を受けて俺達のことを招待してくれたらしい。
「……行くか」
「……うん」
そして、そのまま招待を受けて、『猫又商会』のギルド拠点に向かったのだった。
◇ ◇ ◇
ネムカに招待された俺達は前回と同じ席に案内されていた。
「悪いな。たびたび時間を取らせて」
「いえ、お気になさらず。今回は何の御用でしょうか?」
「リッカの防具のことで相談があってな」
俺はネムカにシルバーコッコの素材で作ることを検討していることと、それに伴って防具のデザインに影響が出ることを伝える。
「――ということだ」
「そうでしたか。それでしたら、手袋をシルバーコッコの素材にしてみてはどうでしょう?」
「まあそれには賛成だな」
胴装備と腰装備は布地面積が大きく減ってしまうことから論外で、足装備よりも腕装備か頭装備の方が作りやすいからな。
シルバーコッコの素材にするのあれば、腕装備か頭装備の二択だったので、それには同意だ。
「それでは、手袋のデザインを変更するということでよろしいでしょうか?」
「ああ」
「では、確認していただけますか?」
ここでネムカはそう言いながら一枚の紙を広げる。
「これは……防具のデザインか。もう出来上がっていたのか」
その紙を見てみると、そこにはリッカ用の防具のデザインが記されていた。
どうやら、デザインはもう完成していたらしい。
「はい。見ての通り、完成しています。デザインはこれでよろしいでしょうか?」
「リッカ、どうだ?」
これを装備するのはリッカだからな。俺が決めることではないので、リッカに確認を取る。
「……これで良い」
「かしこまりました。それでは、このままお渡ししておきます。それで、本題は何ですか?」
「む、流石にそれは分かっていたか」
「はい。あなたがその話をするためだけにここに来るとは思えませんので」
この話をするだけであれば、メッセージを送るだけで十分だからな。
他に本題となる話があることは見抜かれていたらしい。
「それなら話は早い。端的に言うと、高品質な【シルバーコッコの羽】を集めてもらいたい」
「……つまり、防具の作製に使う素材の収集依頼ということですね?」
「まあそういうことだ」
俺達の力で必要数集めるのは厳しいが、最大規模の生産系ギルドである『猫又商会』の力があれば何とかなるかもしれないからな。
自分達の力だけで素材を集めることは諦めて、彼女に依頼することにしたのだ。
「……確認しますが、最高品質の物をお作りになられるのですよね?」
「ああ、そのつもりだ。だからこそ、ここに依頼しに来た」
「分かりました。それでは、詳細を詰めましょうか」
「ああ」
色々と話すことがあるからな。これから詳細を詰めていくことにした。
「まず、【シルバーコッコの羽】は可能な限り品質が80に近い物を集めて欲しい」
高品質な物でなければ必要数が跳ね上がってしまうからな。
可能な限り品質が高い物を集めてもらうことは必須条件になる。
「……一つよろしいでしょうか」
だが、その話を聞いたネムカは言いたいことがあるらしく、何かを提言しようとしてきた。
「何だ?」
「これを見ていただけますか?」
そう言うと、ネムカは【シルバーコッコの羽】を取り出して、それをこちらに渡してくる。
「ふむ……品質95か。作ったのか?」
確認してみると、その【シルバーコッコの羽】は品質が95と、かなり高品質だった。
「いえ、それはドロップした物です。『良質化合成』は使っていません」
「む? そうなのか?」
「はい。……一つ情報を開示しましょう。隠しエリアのモンスターは高品質な物をドロップすることがありますが、それはレアモンスターも例外ではないようです」
「なるほどな」
俺達が隠しエリアで遭遇したシルバーコッコは二体だけだからな。
こちらでは確認できなかったが、高品質な物をドロップすることがあるのはレアモンスターでも同じだったらしい。
「それで、こちらは品質が100になるように【シルバーコッコの羽】を提供すれば良いのですか?」
「ああ。九個分頼む」
こちらは一定の個数が必要なわけではなく、必要なのは品質が100の【シルバーコッコの羽】だからな。
その方針で問題ないので、それで頼むことにする。
「かしこまりました。作製もこちらで行いましょうか?」
「……良いのか?」
『良質化合成』は消費MPが多く、かなり手間が掛かるからな。本当にそれで良いのかと確認を取る。
「その方が過不足なく提供できますので」
「まあそれもそうか。では、こちらの手元にある高品質な【シルバーコッコの羽】は全て渡しておこう」
【シルバーコッコの羽】はリッカの防具を作るために全部使ってしまっても問題ないからな。
高品質な物はここで渡してしまうことにした。
「重量的に少し余裕がありますが、他の素材はどうしますか?」
「そうだな……糸類の素材を使って、予定通りの長さにするというのはどうだ?」
他の素材を混ぜれば予定通りの長さにすることも可能だからな。他の糸素材を使うことを提案してみる。
「それは止めておいた方が良いかと」
だが、その案はあっさりと却下されてしまった。
「何故だ?」
「少し他の素材を混ぜる程度でしたら問題ありませんが、半分近く他の素材を混ぜてしまうと、目的の効果が発現しない可能性があります」
「む、そうか」
どうやら、他の素材を混ぜすぎると効果が発現しなくなるらしい。
(まあそれも当然か)
少しでも混ぜれば効果が発現するのであれば、色々な素材を混ぜれば良いということになるからな。
その仕様も当然と言えば当然だった。
「となると、他の素材は使わないようにした方が良いか」
「いえ、そうとも限りません」
「と言うと?」
先程他の素材を混ぜない方が良いと言ったばかりだからな。いきなり意見を変えられても困る。
「素材を混合させるのではなく、別の素材を独立させて使用するという手があります」
「ふむ……?」
「あなたが着けている腕当てと同じです」
「……なるほどな」
俺の装備している腕当ては【リザードマンの皮】で作った手袋に、【リザルライトインゴット】の装甲を付けた物だからな。
それと同じように、別の素材で作った物同士を組み合わせるのであれば問題ないらしい。
「ただ、それでも半々ぐらいにすることが望ましいです。例によって、目的の効果が発現しなくなる可能性がありますので」
「そうか。……聞くが、どの程度の割合なら素材特有の効果が発現するんだ?」
「詳しくは分かっていません。ですが、参考までに言っておきますと、三つ以上の効果を発現させることに成功したことはありません」
「ふむ、そうか」
(やはり、彼女が言うように素材の割合が半々程度になるようにした方が良いか)
話を聞いた感じだと、素材を二種類にして、その割合が半々になるようにするのが一番良さそうだからな。
ここは【シルバーコッコの羽】以外に使う素材は一種類に絞ることにした。
「ところで、他の素材は品質が低くても問題ないのか?」
【シルバーコッコの羽】の品質を100にしても、他の素材の品質が低いと完成品の品質が下がるだろうからな。
そのあたりのことについて聞いてみることにする。
「それは分かりません。不安であれば、【シルバーコッコの羽】のみで作製するか、品質を100にした素材で作製することを推奨します」
「そうか」
だが、そのあたりの詳しい仕様は彼女も分からないらしく、確実なことは言えないとの回答が返ってきた。
「となると、品質を100にしやすい素材……【アイアンインゴット】あたりが候補か?」
隠しエリアで手に入る素材は品質が高いからな。
現在発見されている隠しエリアは南セントラル平原の隠しエリアだけのはずなので、そこで手に入る素材で作製できる【アイアンインゴット】で作るのが一番良さそうだった。
「【コッコアイアンインゴット】や【メタルローズ】、【原初の石】も候補でしょうか?」
「ふむ……確かに、そのあたりでも良いか」
【コッコアイアンインゴット】は【アイアンインゴット】に【コッコの嘴】を加えるだけだし、【メタルローズ】や【原初の石】はレア素材ではあるが、必要数が少ないからな。
その三つも候補になりそうだった。
「どう致しますか?」
「そうだな……折角だし、【メタルローズ】にするか」
折角、本格的に高性能な装備品を作ろうとしているわけだからな。
今回は【メタルローズ】で作ることにした。
「と言うことで、そちらの方も頼んで良いか?」
「かしこまりました。付与効果について何か希望はありますか?」
「それはコスト上限次第だな」
そこは付与コストがどの程度余るのかどうかで変わるからな。
それはコスト上限がどの程度なのかを確認してから決めることにする。
「では、低品質な素材で作製して、コスト上限を確認してお伝えします」
「ああ、頼んだ。それで、料金はいくらになる?」
おおよそのことが決まったは良いが、問題はその料金だった。
レア素材を大量に要求する以上、高額になることが予想されるからな。
そろそろ料金についての話に移ることにした。
「そうですね……二十万ゼルでどうでしょう?」
「ふむ……二十万か……」
(むしろ安いぐらいか?)
二十万ゼルと金額だけを見れば高いように思えるが、素材集めにはかなりの手間が掛かるからな。
その手間を考えると、むしろ安いぐらいだった。
「二十万で良いのか?」
「はい。それで十分です」
「分かった。こちらから依頼しておいて何だが、料金は後払いで良いか?」
二十万ゼルは今すぐに払えるような金額ではないからな。
ひとまず、後払いにできないか交渉を試みる。
「構いませんよ」
だが、交渉するほどのこともなく、ネムカはあっさりと了承してくれた。
「……良いのか?」
「はい。十分に信頼できますので、後払いでも問題ありません」
「分かった。では、俺達はもう行くとしよう。リッカ、行くぞ」
「……うん」
そして、ネムカとの話を終えた俺達はそのまま拠点に戻ったのだった。
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