episode79 リッカ用の防具の素材の検討

 それからしばらく待っていると、リッカが拠点に戻って来た。


「戻ったか」

「……うん。何作った?」

「これだ」


 ここで俺は先程作った【竜脈の指輪】を彼女に渡す。


「どうだ?」

「…………」


 リッカは性能を確認してからこくりと頷くと、そのまま指輪を装備した。

 どうやら、その性能に満足してくれたらしい。


「それと、ついでにこれも渡しておこう」


 さらに、ついでに待っている間に作っておいた【敏捷の宝珠】を渡す。


 この宝珠はその名の通りに敏捷を上げる宝珠で、【グリーンジュエル】を加工して作った物だ。

 リッカの武器には空きスロットがあるからな。

 折角、宝石類のアイテムの加工に手を付けたので、この機会に宝珠の作製にも挑戦してみたのだ。


「……ないよりはマシ」

「まあ宝珠はそんなものだろう」


 宝珠に手を付けていなかった理由は単純に補正値が低く、優先度が低かったからだ。

 先程リッカに渡した【敏捷の宝珠】の補正値は敏捷プラス2だからな。

 あまり作る意義を感じなかったので、今まで作っていなかったのだ。


「……装備はこれだけ?」

「今のところ重量をゼロにできそうなのはそれだけだからな」


 装飾品は二つ装備できるが、同じ系統の物は装備できないからな。

 もう指輪は装備できないので、他に重量をゼロにできる物を考える必要があった。


「……候補は?」

「最有力候補はスカーフだな」


 スカーフであれば『浮かび上がるようなふわふわ』の付与が容易に行えるからな。

 現状でのもう一つの装飾品の候補は、スカーフのような糸系の素材で作ることができる物になる。


「……そう」

「ただ、問題は素材だな。装飾品の防御力はおまけのようなものだし、そう考えると選択肢が多い」


 装飾品は強化することができず、防御力もおまけのようなものだからな。

 効果を重視して作ることを考えると、選択肢が多くなるので、少し手間が掛かりそうだった。


「……何か作った?」

「一応【デヴェスト金属糸】でスカーフは作ってみたぞ。まあ微妙な性能だったので解体したが」


 試しに【デヴェスト金属糸】でスカーフを作ってみたが、防御力は物理防御力と魔法防御力がプラス3というパラメーターだったからな。

 効果もリッカには合わない防御重視の効果だったので、不要だと判断して解体してしまった。


「……そう。候補は?」

「防具と違って金属糸である必要はないし、糸素材や布素材は全て候補だな」


 試しに【デヴェスト金属糸】で作ったことで分かったが、装飾品の防御力はあってないようなものだからな。

 最初の方に手に入るような物も含めて、糸素材や布素材は全て候補になる。


「……防具も効果重視で良い」

「そうは言っても、流石に防御力が低すぎるのは問題だからな……」


 防御力が低すぎると、防具を作る意味が薄くなってしまうからな。

 装飾品と違って、防御力も考える必要がある。


「……強化」

「限界突破させるということか? だが、それにはかなりコストが掛かるぞ?」


 装備品の強化回数は一定だが、上限回数まで強化した後もさらに強化する方法が存在する。

 それが限界突破だ。装備品の限界突破を行うと一段階強くなって、強化回数もリセットされる。


 だが、問題はその方法だった。限界突破には【奇跡の欠片かけら】などの特定のアイテムが必要になるが、かなりのレアアイテムなので入手が難しい。


 聞いた話によると、採掘で入手できるらしいが、特定の採掘ポイントからしか出現しない上に出現率が低いらしいからな。

 実際、俺達も一個も手に入れたことがないので、かなりレアなことは確かだ。


「……良いの見付かってから考える……?」

「……まあそれでも良いか」


 必要になるかどうかも分からないからな。

 装備品の限界突破については、良さげな素材を見付けてから考えたので良さそうだった。


「……目を付けてるのある?」

「そうだな……【シルバーコッコの羽】は気になるな」


 レアモンスターのドロップ素材だからな。

 最初のエリアのモンスターなので防御力には期待できないが、付与される効果は気になるところだった。


「とは言え、あまり悠長に素材を考えるわけにもいかないからな……」


 防具を作っていては攻略を進められないからな。できれば防具は早く作ってしまいたかった。


「……イベントまでには作りたい」

「そうだな。……イベント?」


 イベントがあるという情報は初耳だからな。ひとまず、詳しく聞いてみることにする。


「……うん。四日後にある」

「そんな情報あったか?」

「……くろPが言ってた」


 ゲーム内のお知らせには特に情報はないが、どうやら、プロデューサーがそのようなことを言っていたらしい。


「リリースからちょうど一週間のタイミングか。まあタイミング的にはちょうど良いか」


 四日後となると、ちょうどリリースから一週間のタイミングだからな。

 タイミング的にもちょうど良いので、そのタイミングでイベントが開催されることにも納得できる。


「内容は分かっているのか?」

「……不明」

「そうか」


 どうやら、イベントが開催されるという予告がされただけで、内容までは発表されていないらしい。


「とりあえず、試しに【シルバーコッコの羽】で手袋でも作ってみるか」


 手元にある程度【シルバーコッコの羽】はあるからな。

 手袋であれば作れるはずなので、試しに作ってみることにした。


「まずは糸にしてと……」


 まずは錬金で五個の【シルバーコッコの羽】を糸にした物を二つ作製する。

 そして、そのままその糸を使って裁縫で手袋を作製した。


 完成したところで、早速その性能を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【シルバーコッコの羽の手袋】

物防:8

魔防:10

耐久:100

重量:1

空S:0

品質:50

効果:唯我のぎんけい

付与:なし

Cost:10/10

説明:稀少な素材であるシルバーコッコの羽を使って作られた手袋。



ゆいぎんけい

 至上に存在するは輝きを放つぎんけい

 クリティカル攻撃成功時に一定時間、物理攻撃力と魔法攻撃力が上昇して、受けるダメージが増加する効果を自身に付与する。

 この効果は一度攻撃を受けると、効果時間に関係なく解除される。

 さらに、スタミナの消費量が減少する。

 『ゆいぎんけい』の効果は重複せず、『孤高のぎんけい』の効果が適用されている場合、この効果は適用されない。


━━━━━━━━━━



「『孤高のぎんけい』……?」


 『ゆいぎんけい』の説明の中には『孤高のぎんけい』という、別の効果についての言及がされていた。

 ひとまず、その効果を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【孤高のぎんけい

 輝きを放つぎんけいは孤高の域に達する。

 クリティカル攻撃成功時に一定時間、物理攻撃力と魔法攻撃力と敏捷が上昇する効果を自身に付与する。

 この効果はクリティカル攻撃に成功するたびに効果が上昇して、最大十段階まで効果が上昇する。

 この効果は攻撃を受けると効果が一段階低下して、一段階目の状態で攻撃を受けると、効果時間に関係なく解除される。

 さらに、スタミナ消費量が減少して、ダッシュ時のスタミナ消費量が大きく減少する。

 『孤高のぎんけい』の効果は重複しない。


━━━━━━━━━━



(どうやら、『ゆいぎんけい』の上位の効果のようだな)


 完全上位互換の効果になっているからな。この効果は『ゆいぎんけい』の上位の効果だと思われた。


(重複しないということは、シルバーコッコの素材で作った防具は一部位で良いな)


 効果が重複しないとなると、複数部位に装備する意味がないからな。

 作るとしても、シルバーコッコの素材で作る防具は一部位で良さそうだった。


「どうだ、リッカ?」

「……とりあえず、一部位はこれで決定」


 リッカに聞くが、どうやら、その性能に満足してくれたらしい。


「……最高品質が良い」

「それは流石に無理があると思うぞ?」


 レアモンスターのドロップアイテムは総じて品質が高めだが、それでも40~60といったところだからな。

 品質を100まで上げるにはかなりの数が必要になるので、最高品質にするのはかなり厳しい。


 さらに言うと、【シルバーコッコの羽】はレア素材だからな。

 最高品質の物を作るのは現実的に考えて難しそうだった。


「……隠しエリア」

「ふむ……確かに、高品質な物を集めれば……いや、それでも厳しくないか?」


 隠しエリアのシルバーコッコがドロップする素材は通常よりも品質が高く、品質が60~80ぐらいでドロップする。

 だが、シルバーコッコはレアモンスターで、出現率が低いからな。

 品質80の物を使ったとしても六十個必要になるので、必要数を集めるのは困難だった。


「それに、防具のデザインも少し変える必要があるしな」


 加えて、必要最低限の数で作るとなると、予定よりも素材の量を減らす必要があるからな。そのことをネムカに伝える必要もあった。


「……そうして」

「分かった。…………」

「……? どうしたの?」

「いや、少し考え事をしていただけだ。リッカ、このまま『猫又商会』の店に行って、ネムカと話をしに行かないか?」


 彼女と話したいことができたからな。ここで俺は『猫又商会』の店に向かうことを提案する。


「……分かった」

「では、行くぞ」


 そして、そのまま俺達は『猫又商会』の経営する店に向かったのだった。

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