episode77 市場

 街に出た俺は装備品のことについて考えながら市場に向かっていた。


「……着いたな。とりあえず、売り物を見てみるか」


 市場に到着したところで、早速売り物を見ていく。


(やはり、個人で作製した物が多いな)


 売り物を見てみると、売られている物は個人で作製した物がほとんどのようだった。


 まあ店を持っているのであれば、手数料が掛かる市場よりも、そちらで売った方が良いからな。

 市場の売り物が店を買う資金がないソロプレイヤーが出品した物ばかりになるのも当然と言えた。


(素材アイテムはあまり売っていないな……)


 また、大した値段にならないせいなのか、素材アイテムはあまり売られていなかった。


(とりあえず、良さげな付与効果が付いた素材がないか探してみるか)


 手元にあるアイテムにはない付与効果や、未知の付与効果があるかもしれないからな。

 俺はフィルター機能を使って、付与効果が付いた素材アイテムのみを表示させて、良い付与効果が付いたアイテムを探していく。


「……む? これは初めて見るな」


 と、ここで俺は見たことのない付与効果が付いた【シルバーコッコの嘴】を発見した。

 ひとまず、その内容を確認してみる。



━━━━━━━━━━


ぎんけいの輝き】

 付与コスト:20

 稀少種であるシルバーコッコのな輝き。

 スタミナ消費量が減少して、敏捷が上昇する。

 『ぎんけいの輝き』の効果は重複しない。


━━━━━━━━━━



 確認してみると、かなり有用そうな付与効果だった。


(見たところ、シルバーコッコの素材にのみ付与される効果のようだな)


 その名称やフレーバーテキストから察するに、この付与効果はシルバーコッコの素材にのみ付与される効果だと思われた。


(ただ、付与コスト的に防具に付けるのは厳しいな)


 『浮かび上がるようなふわふわ』を付与することを考えると、コストが合計30必要だからな。

 【デヴェスト金属糸】で作った手袋の上限コストが15だったことを考えると、防具に付けるのは厳しそうだった。


「まあクロライト製の装飾品になら付与できそうだし、買っておくか」


 値段も二千ゼルと、普通に買える金額だからな。

 その内使うことになりそうなので、とりあえず、買っておくことにした。


「……そう言えば、レア素材での作製はあまり試していないな」


 レア素材を使ったアイテムの作製はあまり試していないからな。

 【シルバーコッコの羽】であれば糸素材にできそうなので、試してみるのは悪くなさそうだった。


(ただ、どうしてもコストがな……)


 レア素材は値段が高く、試すのにもコストが掛かるからな。

 どうすべきかは少し考えた方が良さそうだった。


「まあ手元にある素材を使う程度にとどめておくか」


 手元にある素材を使う程度であれば出費は抑えられるからな。

 買うのは有用そうな付与効果が付いている物だけにすることにした。


「さて、他には……これぐらいか?」


 他に俺が目を付けたのは【エクスシードスネークの鱗】だった。

 もちろん、その目的は付与されている『おおへびの進化の進化』という付与効果だ。

 ちなみに、『おおへびの進化の進化』の効果は以下のようになっている。



━━━━━━━━━━


おおへびの進化の進化】

 付与コスト:10

 長い時間の中で進化した蛇の力。

 毒耐性が少し上昇する。

 さらに、戦闘開始時とクリティカル攻撃成功時に自身に一度だけ受けるダメージを軽減する効果を付与する。

 この効果は重複しない。


━━━━━━━━━━



「これも購入してと……素材はこれで良いか」


 素材を買って色々と試していると、すぐにお金がなくなるだろうからな。

 素材の購入はこれだけにとどめておくことにした。


「後は装備品だけ見て帰るか」


 出回っている装備品の質は確認しておきたいからな。最後にそれだけ確認して帰ることにした。


「……やはり、出回っているのはコスタル平野で手に入るアイテムで作った物が大半だな」


 攻略組でもまだスピリア荒原のあたりだろうからな。

 市場に出回っているのは、コスタル平野で手に入るアイテムで作った物が大半のようだった。


「……む?」


 と、ここで俺はある一つの装飾品に目を付けた。

 そこに売られていたのは指輪だった。

 注目すべき点はその効果ではない。重量がゼロだということだ。


(指輪を作るのも良さそうだな)


 これならリッカにも問題なく装備できるので、指輪を作るというのは良さそうな案だった。


(重量が低いと、素でゼロになることもあるということか)


 確かに、指輪程度であれば行動に支障はでないだろうからな。

 重量がゼロなことにも納得できる。


「まあこんなところか。……む?」


 と、市場の視察を終えて帰ろうとしたそのとき、一メートル以上もある大きなリュックを背負った人物が目に入った。


(NPCの行商人か)


 そこにいたのはNPCの行商人だった。

 NPCの行商人は不定期に商業エリアや市場に現れて、アイテムを販売してくれる存在だ。

 レア素材や自分の種族の専用エリアでは手に入らないアイテムが販売されることもあるので、見付けたら積極的に話し掛けた方が良いとソールは言っていた。


 NPCの行商人が販売するアイテムは通常の店とは違って毎回ランダムで、そのリストはプレーヤーごとに異なっている。

 加えて、本人にしか買うことができないので、他のプレイヤーのリストを見て購入するといったこともできないようになっている。


 また、プレイヤーの進行度に応じて販売するアイテムが増えていくようになっているので、最初から上位の素材を入手することもできないようになっているとのことだ。


(リストを覗いてみるか)


 折角、見付けたわけだからな。商品のリストを覗いて行くことにした。


「少し良いか?」

「何でしょう?」

「商品を見せてもらっても良いか?」

「構いませんよ。どうぞ」


 そして、話し掛けて商品を見せるよう求めると、商品のリストが表示された。


(特に欲しい物は……む?)


 さっとリストを見て、特に欲しい物はないかと思ったが、一つ気になる物があった。

 それは【マーチャルウィンドの宝珠】というアイテムだった。

 その効果は以下のようになっている。



━━━━━━━━━━


【マーチャルウィンドの宝珠】

 特殊宝珠。風属性攻撃の威力が上昇して、風耐性が5%上昇する。


━━━━━━━━━━



 特殊宝珠というのは強力な効果が設定されている代わりに、同名の物を複数付けることができない宝珠のことだ。

 まあ正確に言うと、同名の特殊宝珠を装備しても効果が重複せずに発揮されないと言うのが正しいのだが、そこはあまり気にしないことにする。


(三万か。悩みどころだな)


 ベータ版と同じ仕様であれば、このアイテムはNPCの行商人からしか入手できないアイテムだからな。

 次にリストに表示されるのがいつになるのかも分からないので、購入するかどうかはよく考えた方が良さそうだった。


(風属性でなければスルーでも良かったが、どうするか……)


 マーチャルと名を冠するこの系統の宝珠は六属性分存在しているが、今回はメインに使っている風属性だからな。

 他の属性であればスルーしていたが、風属性なので少々悩みどころだった。


「……止めておくか」


 今後使わなくなる可能性もあるからな。

 三万ゼルという値段も決して安くはないので、今回は購入を見送ることにした。


「何か欲しい物はありましたか?」

「いや、今回は特になかったな」

「そうでしたか。またのお越しをお待ちしております」

「ああ。……帰るか」


 そして、市場の視察を終えた俺はそのまま拠点に戻ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る