episode75 ハンターバード狩り

 リッカのログイン後、ネムカに防具のデザインの希望を伝えた俺達はスピリア荒原に向かっていた。

 もちろん、その目的は【ハンターバードの羽】を集めることだ。


 現状手に入る糸素材にできる物の中で一番性能が良い物が【ハンターバードの羽】だからな。

 今回はそれを大量に集めるためにここに来ている。


「さて、予定通りにここに来たは良いが……本当にうまく行くのか?」

「……うん」


 俺達は街を出て南の岩山に沿った崖になっている場所に来ていた。

 もちろん、何も考えずにこの場所に来たわけではない。リッカの提案した作戦を実行するためにここに来ている。


「とりあえず、俺は待機しておこう。頼んだぞ」

「……分かってる」


 俺の出番はまだだからな。はリッカに任せて、俺は崖際で待機する。


「……戻って来たな」


 そして、そのまま待機していると、リッカが一体のスケルトンウォリアーを連れてこちらに戻って来ていた。


「……来て」

「ああ」


 俺は近くにまで来たところで彼女に向けて飛び込むと、リッカはそのまま俺を担ぎ上げた。


「――『クイックステップ』」


 そして、そのスピードを維持したまま崖に足を付けた瞬間にスキルを発動させると、一気に崖を駆け上がった。


(そういう使い方もできるのか)


 『クイックステップ』は地面を蹴って高速で移動するスキルだが、リッカは崖に足を着けたタイミングで使用することで、崖を地面に見立てて駆け上がっていた。


「――シャム」

「分かっている。『マテリアルウォール』」


 ここで俺は『マテリアルウォール』を使用して、崖から壁を生やす。

 そして、そのまま俺達は形成した壁に着地した。


「ふむ……このスキルは汎用性が高そうだな」


 今回は壁から壁を生やすことで、それを足場として利用していた。

 このスキルは純粋に防御用のスキルとしても使用することもできるが、形成した壁には普通に乗ることもできるからな。

 このように足場としても利用できるので、想像以上に汎用性は高そうだった。


「さて、スケルトンウォリアーは……困惑しているな」


 ここでスケルトンウォリアーの様子を見てみると、届かない位置にいる俺達を見ながら、どうすることもできずにその場をうろうろしていた。


「……足場増やして」

「分かった。『物質圧縮』プラス『マテリアルウォール』」


 この後のことを考えると、足場は広げておきたいからな。

 今の内に『物質圧縮』で強化した壁を展開して、足場を増やしておく。


「……来た」


 と、順調に足場を増やしていると、目的のモンスターであるハンターバードがこちらに急降下して来ていた。


「俺がやろう。『マテリアルブレード』」


 俺は真っ直ぐとこちらに向かって来るハンターバードに向けて刃を飛ばして、それを迎撃する。


「ピィッ……」


 すると、その一撃でHPがゼロになったハンターバードが力なく落下して来た。


「相変わらず耐久力は低いな」

「……うん。とりあえず、確認はできた」

「そうだな。このまま狩りを続けるか」


 この状態でも戦闘状態が継続することは確認できたからな。予定通りにこのまま狩りを続けることにした。


「それにしても、よくこういうことを思い付くよな……」

「……仕様の穴を突くのは基本」

「……そうか? 何と言うか、悪いことをしている気分なのだが?」


 この状態であれば安全に狩ることができるが、褒められるようなことではないからな。

 このまま続けても良いものかと思ってしまう。


「……ダメなら修正入る」

「……まあ良い。このまま続けるか」


 ここまでしてやらないわけにも行かないからな。とりあえず、このまま狩りを続けることにした。


「……む?」


 と、それからしばらく狩りを続けていたところで、上の方から怪しい気配を感じ取った。


「そこか。『マテリアルブレード』」


 俺はその場所に向けて斬撃を飛ばして、攻撃してみる。


「あら、危ないわね」


 すると、もやが晴れるようにして、そこからユヅハが現れた。


(やはり、彼女だったか)


 俺達のことを監視するのはユヅリハ一行しかいないし、何となくそんな感じがしたからな。

 予想通りではあるので、あまり驚きではない。


「とりあえず、しばき倒すからそこに正座しなさい」

「いや、何故そうなる⁉」

「私のことをわざと狙ったわよね? 当たっていたらどうするつもりだったのかしら?」


 どうやら、わざと狙っていたことには気付いていたらしい。 


「何を言っている? 見えない相手に当てられるわけがないだろう?」

「それじゃああなたはどこを狙って攻撃していたのかしら?」

「アビリティのレベルを上げるための空打ちだ」

「そういうものは実戦でこそ身に付くものよ。まあ少しは成長するでしょうけど、実戦ほどじゃないわね」


 俺は適当に言い訳するが、あっさりとそれを言い負かされてしまう。


(敵と戦闘した方がアビリティのレベルが上がりやすいということか?)


 それはそうと、ユヅハは何気なく気になることを言っていた。

 それは空打ちでは実戦ほど成長しないという点だ。

 この言葉が正しいとすれば、実際に戦闘した方がアビリティのレベルは上がるということになる。


(まあそれも当然か)


 空打ちでも成長度が変わらないのであれば、延々と空打ちしていた方が良いということになってしまうからな。

 ゲームの仕様的に考えても、それは当然と言えた。


「そうだったか」

「それに、そんな雑魚を相手にしてもあまり成長しないわよ?」

「そうなのか?」

「当然でしょう? 雑魚を作業的に狩って、何か得られるものがあるのかしら?」

「まあそれは……そうだな」


 そう言われてみれば納得できることではあるからな。それに対して言うことは特にない。


(つまり、強い敵と戦った方が成長しやすいということか)


 また、強い敵と戦闘した方がアビリティのレベルは上がりやすいらしい。


「それで、何でハンターバードを誘い込んで狩りなんてしているのかしら?」


 ここでユヅハは俺達がわざわざハンターバードを狩っている理由を聞いてくる。


「糸素材が欲しくてな。そのための素材集めだ」

「そうだったのね。まああなた達に入手できる素材を考えると、妥当なところね。ところで、装飾品は作らないのかしら?」

「作ろうとは考えているが、優先順位は落ちるな」


 最優先事項はリッカの防具の作製だからな。

 錬金が使えるようになったことでまともな物も作れるようになったはずだが、作るのはそれが済んでからだ。


「敏捷を上げたりする装飾品は作らないのかしら?」

「まあそれも良いが……リッカ用の物となると、重量も考えないといけないからな……」


 俺用の物であればそこまで気にしなくても良いが、リッカ用の物となると重量も考慮する必要があるからな。

 【コッコの御守り】を解体したことで得られる素材を考えると、指輪などの金属製の物では『浮かび上がるようなふわふわ』を付与できないので、そちらはもう少し考えてから作ることにする。


「スカーフなんかの装飾品にすれば良いじゃない」

「まあそれはそうだが、高品質なコッコ素材が集まってからだな」


 そもそも、まだ高品質なコッコ素材が集まっていないからな。

 どちらにせよ、作製を始めるのは素材が集まってからになるので、眼前の目標から順番に片付けていくことにする。


「ところで、また俺達の様子を見に来ているが、暇なのか?」

「今は動く必要がないだけよ」

「……つまり、時が来れば動くと?」

「まあそういうことよ」

「…………」


(目的を聞きたいところだが、聞くだけ無駄か)


 この様子だと、聞いたところで答えてはくれなさそうだからな。

 今の段階でこちらが握っている情報では見当も付かないので、その目的はのんびりと探っていくことにした。


「……まあそれは良い。今回は何をしに来たんだ?」

「今回は修行をつけてあげようと思っていたのだけど、その様子だとしばらくは忙しそうね」

「まあそうだな」


 今はリッカの防具作製に向けて動いているところだからな。残念ながら、修行をしている暇はない。


「私の出番はなさそうだから帰らせてもらうわ」

「ああ。手が空いたら連絡しよう」


 そして、ユヅハはそれだけ言い残すと、ふわりと浮かんでどこかに飛んで行った。


「……とりあえず、俺達は狩りを続けるか」

「……うん」


 ここに来たのは糸素材となる【ハンターバードの羽】を集めることだからな。

 俺達はその後も当初の目的通りに狩りを続けたのだった。

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