episode69 リッカ用の防具の素材

 店用の物を作り終わった俺は街に出て研究所へと向かっていた。

 もちろん、その目的はエルリーチェに話を聞くことだ。

 彼女であればちょうど良い素材を知っていそうだからな。そのことについて少し話を聞きに来たのだ。


「少し良いか?」


 研究所の前にまで来たところで、俺は警備に話し掛ける。


「何だ?」

「エルリーチェはいるか?」

「所長はいるが、今は忙しい。用があるのなら、後にしてくれ」


 エルリーチェのことを聞くが、今は彼女は忙しいらしく、残念ながら面会はできそうになかった。


「そうか。悪いな、手間を取らせて。……ミルファに聞いてみるか」

「残念だが、副所長も忙しいぞ」


 なので、ミルファに聞いてみようとしたが、どうやら、彼も手が離せないらしい。


「む、そうか。となると、後はユヅリハぐらいか?」


 他に聞ける相手はユヅリハとその式神達ぐらいだからな。

 できれば専門家であるエルリーチェかミルファに話を聞きたかったが、ここは彼女達に聞いてみるしかなさそうだった。


「あの大妖狐に聞くのか? 化かされても知らんぞ?」

「ふむ……確かに、良いように使われる可能性はあるか」


 彼女達――特にユヅハ――の性格を考えると、その可能性は十分に考えられるからな。

 ユヅリハ達に聞くべきかどうかは少し考えた方が良さそうだった。


「……まあ大丈夫か」


 話を聞いて判断すれば良いからな。とりあえず、話をしてみることにした。


(ユヅハに聞くのが良いか)


 ユヅリハよりもユヅハの方が話を聞いてくれそうだからな。ここはユヅハに話をすることにした。

 俺はその場でメニュー画面を開いて、ユヅハに通信を繋ぐ。


「何か用かしら?」

「リッカ用の防具を作ろうと思っているのだが、良さげな素材がなくてな。ちょうど良さそうな素材を知らないか?」

「あら、何でそんなことを私が考えないといけないのかしら? それはあなたが考えるべきことでしょう? 少しは自分で考えなさい」


 そして、ちょうど良い素材を知らないかと尋ねるが、自分で考えろと突っぱねられてしまった。


(確かに、頼り切りは良くないか)


 まだ行き詰まっているわけでもないからな。

 頼り過ぎるのもあまり良くないので、まずは自分で色々と試してみることにした。


「……それもそうだな。悪かったな、手間を取らせて」

「分かれば良いわ」

「では、またな」


 そして、話が済んだところで、こちらから通信を切った。


「……とりあえず、鍛冶屋に行くか」


 リッカ用の防具の素材を考える必要があるが、炉の補助用の装置も作っておきたいからな。

 鍛冶屋の炉を見ればヒントが得られるかもしれないので、このまま鍛冶屋に向かうことにした。



  ◇  ◇  ◇



 研究所を後にした俺はNPCが経営する鍛冶屋に来ていた。


(炉は……あったな)


 鍛冶屋に着いたところで、早速、作業場にあった炉の観察を始める。


「……そんなに炉を見て何をしている? 何か用か?」


 だが、その様子が気になってか、店主のNPCが話し掛けてきた。


「炉の補助用の装置を作ろうと思っていてな。参考にしようと、観察しているだけだ」

「……それなら、本屋に行ったらどうだ? 参考書が売ってると思うぞ?」

「本屋か……そう言えば行ったことがなかったな」


 本屋の存在自体は知っていたが、行ったことはなかったからな。

 ここは素直にそのアドバイスに従って本屋に行ってみるのも良さそうだった。


「資金には少し余裕があるし、本屋に行った方が良いか」

「他に何か用はあるのか?」

「少し装備品を見て行こう。防具の素材を考えなければならないからな」


 何か良い素材が見付かるかもしれないからな。

 ここで装備品を見て回ってから本屋に行くことにした。


「防具の素材? 最近ここに来た奴らよりも随分と上等な装備だが、何か必要な物でもあるのか?」

「軽い素材が欲しくてな。できれば重量を二以下にできるような素材が欲しい」

「重量を二以下にか……まあ基本は糸素材になるだろうな。手袋ぐらいなら金属糸でも大丈夫だろうが、他は厳しいだろうな」

「金属糸?」


 金属糸というものは聞いたことがないからな。気になるので、詳しく聞いてみることにする。


「知らねえのか? 金属糸は糸と金属を合成した、丈夫な糸素材のことだな。普通の糸よりは防御力が高くなるが、若干重くなるな」

「そうか」

「まあ普通の金属よりも防御力は低いし、値段も高めなせいかあまり人気はないがな」


 まあ中途半端と言えばそうなるからな。それに加えて値段が高いとなると、人気が低いことは理解できる。


「魔力を込めた糸素材で作る手もあるが、強力な魔力を込めるには特殊な錬金方法が必要だし、お前にはまだ早いな」

「む、そうか」


 特殊な錬金方法とやらの内容が気になるところだが、話を聞いた感じだと、まだ使えないようだからな。

 今聞いてもあまり意味はなさそうなので、もっと【錬金】のレベルが上がってから改めて聞くことにする。


「俺はそろそろ行かせてもらおう。邪魔したな。これはせめてもの詫びだ」


 商品も買わずに色々と話を聞いて時間を取らせてしまったからな。

 俺はその詫びとして千ゼルを店主に渡す。


「お、気前が良いな。また何かあったら来てくれ」

「ああ」


 そして、鍛冶屋を後にした俺はそのまま本屋に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 鍛冶屋を後にした俺はそのまま本屋に向かっていた。


「ここが本屋か。目的の本は、と……」


 本屋に到着したところで、早速、目的の本を探す。


「これか?」


 探してみると、それらしき本はすぐに見付かった。

 ひとまず、その詳細を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【魔力炉補助機構基礎理論】

 魔力炉の補助機構についてのことが記された本。

 使用すると、魔力炉の基本の補助機構が作れるようになる。


━━━━━━━━━━



「とりあえず、これは買いだな」


 目的の本で間違いないからな。一万ゼルするが、必要な物なので迷わず買うことにする。


「他は……む?」


 と、ここで俺は一つ気になる本を見付けた。

 気になったのは【風化した武器の可能性】という本だった。


(タイトルから察するに、風化した武器から武器を作製するためのヒントが書かれているのか?)


 俺はエルリーチェから聞いたので知っているが、少々手順が複雑だからな。

 本来は少しずつヒントを集めて、作製方法を解明していくようになっているものだと思われた。


「他に欲しい物は……ありはするが高いな」


 錬金板用の補助機構のことについての本もあるが、こちらは一番安い物でも五万ゼルもするからな。

 今の段階で手を出すような物ではないので、今回は【魔力炉補助機構基礎理論】だけ買って帰ることにする。


「店員さん、これをくれるか?」

「かしこまりました。それでは、一万ゼルになります」

「これで良いな?」

「ありがとうございました。それでは、またのご来店をお待ちしております」

「ああ」


 そして、目的の本を購入した俺はそのまま拠点に戻ったのだった。



  ◇  ◇  ◇



「さて、やるか」


 拠点に戻った俺は早速、魔力炉の補助機構の作製に取り掛かろうとしていた。


「と、その前にこれを使わないとな」


 ここで俺は先程購入した【魔力炉補助機構基礎理論】を取り出して、それをそのまま使用する。

 すると、魔力炉の補助機構の基本のレシピが分かるようになった。


「ふむ……作れるようになったのは消費MPを軽減する【魔力増幅機構】と、火力を上げる【火力増幅機構】か」


 確認すると、二つの補助機構が作れるようになっていた。


「……素材が足りないな」


 だが、どちらも作製には術式機構が組み込まれた素材が必要なので、手持ちの素材では作ることができなかった。


「【ストーンゴーレムコア】を取りに行くのが一番楽か」


 術式機構が組み込まれた素材となると、【ストーンゴーレムコア】を手に入れるのが一番楽そうだった。

 このアイテムはスピリア荒原にあるダンジョンで出現するモンスターである、ストーンゴーレムがドロップするアイテムだからな。

 入手しようと思えば、今からでも手に入れることができるので、【ストーンゴーレムコア】を素材にして作ってみることにした。


「だが、時間的には微妙か……」


 このまま取りに行きたいところだったが、時間的に微妙なので、一度ログアウトを挟んだ方が良さそうだった。


「買い取りの設定だけして、『良質化合成』の試用と狩りで時間を潰すか」


 高品質な【コッコの羽】と【コッコの鶏冠とさか】は必要だからな。

 出掛ける前にそれらの買い取りの設定をしておくことにした。


「品質が80前後の物だけ引き取るか」


 品質が50前後の物を引き取るのは効率が悪いからな。

 引き取るのは品質が80前後の物だけにすることにした。


「抽選券との交換にする予定ではあったが……問題は交換レートだな」


 抽選券との交換にすることは決めていたのだが、交換レートはまだ決めていなかったからな。

 それを今から決めることにする。


「……三個につき一枚で良いか」


 品質が80前後の物のドロップ率は低めだからな。

 安いアイテムではあるが、三個につき一枚という交換レートに設定することにした。


「とりあえず、リッカに連絡だけはしておくか」


 方針は伝えておいた方が良いだろうからな。

 リッカにはメッセージを送って、方針を伝えておくことにした。


「これで良いな。では、予定通りに進めるか」


 そして、その後は『良質化合成』の試用と狩りで時間を潰して、時間になったところでログアウトしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る