episode68 隠しエリアについての情報の販売

 始都セントラルに戻った俺は早速、作業に取り掛かっていた。


「さて、まずは情報の販売から始めるか」


 優先すべきは情報の販売だからな。まずはそこから手を付けることにした。


「問題は販売方法だが……情報を記した紙を販売対象にすれば良いか」


 自動では直接情報を売ることができないからな。

 情報を記した紙を販売することで、情報の販売を行うことにした。


「リッカ、紙を渡すので、情報を記入してくれるか?」


 俺はそう言いながら取り出した紙をリッカに渡す。


「……分かった」


 紙を受け取ったリッカはキーボード画面を開くと、記入する文章を素早く入力し始める。


(相変わらず速いな)


 その速度は相変わらずで、タイピングの大会があれば上位に入るのではないかと思うほどの速度だが、それを気にしていても仕方がないので、こちらのすべきことを進めることにした。


「さて、問題は値段をどうするかだが……引換券との交換でもありか?」


 別にお金で売る必要性はないからな。情報は引換券との交換でも良さそうだった。


「……いや、お金プラス引換券にするか」


 どちらかだけにする必要もないからな。ここはお金プラス引換券に設定することにした。


「後は値段設定だが……個人向けにターゲットを絞るか」


 個人とギルドとでは所持金に大きく差があるからな。

 どちらにもちょうど良いような値段にするのは難しいので、ここはどちらかにターゲットを絞った方が良さそうだった。


 そして、どちらをターゲットにするのかということだが、個人向けに安くした方が情報は広められるだろうからな。

 ここは個人にターゲットを絞った値段設定にすることにした。


「隠しエリアの情報であることも伏せるか? いや、それだと売るのが難しいか」


 隠しエリアの情報として売り出してしまうと、それだけで隠しエリアが存在していることが分かってしまうからな。

 できればそこは伏せて販売したい。


 だが、そこを伏せると何の情報なのかが分からず、購入をためらう可能性が高いからな。

 そこを伏せるのは難しいように思えた。


(彼女達に協力を求めてみるか)


 ここで俺はこの件に関して交渉するためにネムカにメッセージを送る。


「……作業に戻るか」


 隠しエリアのことについては返信待ちになるので、その間に他の作業に取り掛かることにした。


「まずはリュックを作るか」


 リュックの枠は増やしておきたいからな。

 まずは【リザードマンの皮】を使ってリュックを作ってみることにした。


「相変わらず硬いが、まあ時間が掛かるだけか」


 硬いので加工しづらいが、加工できなくはないからな。少しずつ加工を進めていく。


「……こんなところか」


 そして、加工は順調に進んで、無事にリュックが完成した。

 ひとまず、その性能を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【リザードマンの皮のリュック】

 リザードマンの皮で作られたリュック。23枠分のアイテムを収納できる。


━━━━━━━━━━



 確認すると、初期のリュックよりも三枠多くアイテムが入るリュックが完成していた。


「そんなに時間は掛からなかったが、まあ少しは慣れたということか」


 【リザードマンの皮】で防具を作ったことがあるからな。

 多少は慣れてきたのか、思ったほど時間は掛からなかった。


「リッカの分も作るか」


 リッカの分も必要だからな。もう一つ作る必要があるので、さっさと作業に取り掛かることにした。


「……できた」


 と、作業に取り掛かろうとしたそのとき、リッカが何かを知らせてきた。

 どうやら、頼んでおいた隠しエリアに関するテキストが完成したらしい。


「見せてくれ」


 俺は受け取ったテキストデータを確認していく。


「……問題ないな。では、これで作っておいてくれ」

「……分かった」


 そして、俺の確認が済むと、リッカはテキストデータを紙に写し始めた。

 彼女が紙を手にすると、そこに先程のテキストが刻まれていく。


 はたから見ると、勝手に文字が刻まれているように見えるが、このゲームではテキストデータを自動で紙に写すことができるからな。

 手書きの必要もないので、その機能を使って書き写しているらしい。


「……作業に戻るか」


 リッカの方は問題なさそうだからな。そちらの方は任せて、作業に戻ることにした。


「……できたな。リッカ、これを受け取ってくれ」


 完成したところで、リュックをリッカに渡す。


「…………」

「……? どうした?」


 だが、そのリュックを見たリッカはじっとそれを見て、何かを言いたげにしていた。

 ひとまず、その理由を聞いてみることにする。


「……これ、景品にすれば?」

「ふむ……それは悪くなさそうだな」


 武器とは違って、誰がもらっても困らない物だからな。

 これを抽選会の景品にするというのは中々良さそうな案だった。


「まだ素材はあるし、二つほど作っておくか」


 【リザードマンの皮】はまだあるからな。二つほど抽選会の景品用に作っておくことにした。


「……む?」


 と、ここでネムカに送ったメッセージに対しての返信が届いていた。

 ひとまず、その内容を確認してみる。


「……どうだった?」

「とりあえず、話を聞くとのことらしい。すぐに来るそうだ。……む?」


 と、そんな話をしていたところで、突然システムメッセージが表示された。



【このエリアへのアクセス権限を持たないプレイヤーからアクセスの申請がありました。以下二名のアクセスを許可しますか? プレイヤー名:【ネムカ】、【シェーダ】】



 確認すると、それはネムカとシェーダからのアクセスを知らせるシステムメッセージだった。


(早いな。……いや、そうでもないか)


 本店で作業していたのであれば、すぐにここに来れるはずだからな。別に早いと言うほどのことでもないか。


(とりあえず、承認するか)


 特に問題はないので、俺はそのままその申請を承認する。


「失礼します」

「来たッスよー」


 すると、すぐに二人が拠点に入って来た。


「わざわざ来てもらって悪いな」

「いえ、お気になさらず」

「それで、話って何なんッスか?」

「端的に言うと、情報を売りたいので、それに当たって協力をして欲しい」

「情報ですか?」

「ああ」


 俺は情報の内容を伏せたままに、情報の販売に当たっての問題点を説明する。


「――ということだ」

「そうでしたか。それで、私達はどうすれば良いのでしょうか?」

「情報を俺達から入手して、それが有益だったことをそこはかとなく示してくれれば良い」


 こちらからの依頼は俺達の情報が有益だったことを示すことだ。

 最大手の生産系ギルドである『猫又商会』からのお墨付きとなると、それだけで信頼度は十分だからな。

 こちらとしてはそれで十分だ。


「……つまり、情報に相応の価値があったことを証明すれば良いのですね」

「話が早くて助かる」

「依頼料はどうするつもりなのでしょうか?」

「依頼料代わりに情報を無料で提示するつもりだ」


 依頼の対価としてこちらが出す条件は情報の無料提供だ。

 依頼の内容自体は難しいものでもないからな。条件としてはこれで十分のはずだ。


「……その情報が依頼料に相当しないとこちらが判断した場合はどうされるおつもりですか?」

「その場合は追加で依頼料を支払おう」

「……分かりました。その依頼を受けましょう」

「交渉成立だな。では、情報を開示しよう」


 話はまとまったので、早速話に移ることにした。


「情報は隠しエリアのことについてだ」

「隠しエリア? そんなものがあるんッスか?」

「ああ。ここだ」


 俺は南セントラル平原の地図を取り出して、その場所を指し示す。


「隠しエリアは崖の上にある。向かう場合は転落に気を付けてくれ」

「崖の上ですか……」

「ああ。ここに分かっている限りの情報を記しているので、参考にしてくれ」


 ここで俺はネムカに先程作った情報を記した紙を渡す。


「分かりました。それでは、そろそろ失礼します」

「また何かあったら相談に乗るッス」

「ああ。またな」


 そして、話が済んだところで、二人は俺達の拠点を出て行った。


「……この後どうする?」

「リッカの装備品の素材を考える。今後のことを考えると、必要になるだろうからな」


 必中攻撃のように、防具なしでは対応できない場面も出てくるだろうからな。

 耐暑装備が必要な煉獄火山など、今後のことも考えると防具は必要なので、その素材を考えるつもりだ。


「……当ては?」

「ないな。まあミルファが言っていた【ルーテッドクリアライトインゴット】あたりは候補だが、作り方が分からない以上はどうしようもないからな」


 当てがなくはないが、作り方が分からない以上は候補外も同然だからな。

 今のところは当てがないのも同然の状態だ。


「……どうするの?」

「とりあえず、店で必要な物を作る。防具はそれが済んでから考えるぞ」


 優先順位というものがあるからな。

 まずは店で売る商品や抽選会の景品にする物を作って、それから防具のことを考えることにする。


「……そう。外に行っておく」

「分かった」


 それを聞いたリッカはしばらく時間が掛かると思ったのか、拠点を出て狩りに向かった。


「……さて、やるか」


 作製する量も多くなってきたが、必要な作業だからな。

 本格的に高級路線に移れば作製量も減るとは思うが、そんなことを言っていても仕方がないので、さっさと作業に取り掛かることにした。


 そして、その後は店の商品や抽選会の景品にするアイテムを作製していったのだった。

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