episode63 『渡り鳥の集い』のリーダー

 ソールが待つ始都セントラルに移動した俺達は、指定された合流場所に向かっていた。


「さて、合流場所はこの広場だが……いたな」


 広場の入口から様子を見てみると、すぐにベンチに座って待っているソールとアッシュを見付けることができた。

 俺達はそのまま一直線に二人の元に向かって、彼らと合流する。


「待たせたな」

「お、来たか」

「それで、何の用だ?」


 合流したところで、俺は単刀直入に用件を尋ねる。


「とりあえず、リーダーから話を聞いてくれるか?」

「リーダー?」

「……ここからは俺が話そう」


 ここでソールの隣にいた男がそう言って立ち上がる。


 彼の歳は二十代だろうか。男は狼系の獣人で、物理攻撃が得意な獣人らしく大剣を背負っている。

 そして、月光に照らされた銀髪は光を反射することで輝いていて、その赤い瞳は真っ直ぐと俺を捉えていた。


「俺は『渡り鳥の集い』のリーダー、ノーシュだ」


 どうやら、彼がソールとアッシュが所属するギルドである、『渡り鳥の集い』のリーダーらしい。


「そうか。二人から聞いているとは思うが、一応、名乗っておこう。俺はシャム」

「……リッカ」


 ソールかアッシュから聞いて知っているとは思うが、一応軽く自己紹介しておく。


「それで、何の用なんだ?」

「それは拠点で話そうと思う。あまり聞かれても面倒だからな」

「分かった。では、俺達の拠点に来ないか?」


 俺達の拠点に来てもらえれば、確実に人に聞かれることはないからな。

 俺達が行くのではなく、こちらに来てもらうことを提案してみる。


「別に構わないぞ」


 すると、ノーシュはその提案を受け入れてくれた。


「では、行くか」


 そして、俺達はそのまま三人を連れて拠点に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



「それで、何の用なんだ?」


 拠点に向かったところで、俺は改めて用件を尋ねる。


「用というのは装備品のことだ」

「装備品?」

「そうだ。そちらはもうクロライト製の物を取り扱っていると聞いた。それに間違いはないか?」

「ああ。間違いないぞ」


 まだ販売はしていないが、【クロライト鉱石】は集めてあって、すぐにでも作って販売できる状態だからな。それで間違いない。


「そこで話がある。端的に言うと、クロライト素材の装備品を売って欲しい」


 話というのは、クロライト素材の装備品を優先的に売って欲しいということだった。


「それは分かったが、その対価はどうするつもりなんだ?」


 何のメリットもなしに優先して売るつもりはないからな。

 ひとまず、その対価として提示する条件を聞いてみることにする。


「通常よりも高値で買おう」


 ノーシュが提示した条件は高値で買うという、単純で分かりやすいものだった。


「具体的にいくらか聞いても良いか?」

「……その前に【クロライトインゴット】が何個あるかを聞いても良いか? それによって依頼の品も変わるからな」

「【クロライトインゴット】なら十二個あるぞ。ただ、そちらに出せるのは十個までだな」


 【クロライト鉱石】は比較的採れやすいが、ドラガリア峡谷まで行かないと大量確保が難しいからな。

 そこまで移動する時間も必要になるので、昨日集めた物では十二個しか作ることができなかった。


 そして、こちらで使う分も残しておきたいからな。

 ノーシュに提供できる【クロライトインゴット】は十個までになる。


「では、クロライト製の武器を作ってもらおう。インゴット一つで作れるか?」

「柄を他の素材にすれば作れるぞ。ただ、手甲や大剣、杖なんかは二つ必要だな」

「そうか。では、大剣を一本、剣を四本、槍を四本頼めるか?」

「分かった。柄はどうする? コーラルア製かデヴェスト製になるが、どちらが良い?」

「デヴェスト製で頼む」

「分かった。それで、いくら出すつもりなんだ?」


 作製品は決まったので、後回しになっていた値段の話に戻す。


「剣と槍には八万、大剣には十万出そう」

「……ソール、どうなんだ?」


 クロライト製の武器はまだ市場に出回っておらず、俺にはレートが分からないからな。

 ソールにベータ版のときはどうだったのかを聞いてみる。


「ベータ版のときだと、剣と槍は五万前後、大剣は七、八万ってところだな。柄もクロライトならさらに高くなるが、まあそれは今はどうでも良いな」


 つまり、各プラス三万、計二十七万ほど上乗せするということか。


(と言うか、そんなにするのか……)


 かなりの値段だが、本来はもっと先に手に入れることになるアイテムで作った武器だからな。

 俺には分からないが、それが妥当な金額なのだろう。


「まあ人が増えて流通量が増えているせいか、どのアイテムも全体的にベータ版のときよりもレートは低くなっているがな」


 ここでアッシュが一言そう付け加える。


「それと、これも出すぞ」


 と、ここでノーシュはそう言って緑がかった透明な結晶を渡してくる。


「これは……【自然の結晶】か。どう手に入れたんだ?」


 確認すると、それは【自然の結晶】だった。

 このアイテムはエルフの専用エリアでしか手に入らないアイテムで、現段階では入手が難しいアイテムだからな。

 少々気になるので、どう入手したのかを聞いてみる。


「ベータ版との差異の調査のために各種族の専用エリアを調査していてな。その際に街の近くにあった採掘ポイントで手に入れた」

「なるほどな」


 どうやら、調査の際に偶然手に入った物らしい。


「では、その条件で依頼を引き受けよう。七十四万になるが、それで良いな?」

「ああ」


 それを了承して、ノーシュは七十四万ゼルと【自然の結晶】を渡してくる。


「少し待っていてくれ」


 そして、代金を受け取ったところで、素材を取り出して作製を始めた。


「【リザードマンの皮】や【リザードマンの爪】もあるが、どうする?」


 俺は依頼された武器を作りながら、他の装備品もどうかと聞いてみる。


「いや、今回は止めておこう。予算の都合もあるからな」

「そうか」


 だが、今後のことも考えてか、今回は見送ることにしたらしい。


「それにしても、コロッセオスに最速到達するなんてな」

「別に狙っていたわけではないぞ? たまたまだ」


 別に俺達は最速を狙っていたわけではないからな。

 闘都コロッセオスに到着したら、たまたま最速だったというだけの話だ。


「しかも、ほとんどソロみたいなものだろ?」

「まあそうだな」


 ほとんどリッカの力だったからな。実質的にソロと言っても過言ではない。


「ソロプレイヤーの中であれば、『変態紳士』か『和装獣姫』のあたりがトッププレイヤーになるかと思ったが……それも見直す必要があるか」

「……誰なんだ、それは?」

「……ベータ版のときにいた、ソロトッププレイヤーの二つ名みたいなものだぞ」


 俺のその疑問に答えたのはソールだった。

 どうやら、ベータ版のときにソロトッププレイヤーだった、とある二人の二つ名らしい。


「そうか。……できたぞ」


 と、そんな話をしながら作業を進めていると、無事に依頼の品が完成した。


「これで良いか?」


 俺は完成品を渡して、問題ないか確認を取る。


「……ああ」

「それと、ソールにはこれを渡しておこう」


 ここで俺は先程受け取ったお金をソールに渡す。


「借金の分か?」

「ああ。この前の装備の代金は引いているが、それで良いな?」

「おう。それで良いぞ」

「では、また何かあったら相談しに来てくれ」


 こういった交渉であれば、いつでも歓迎だからな。

 今後も彼とは良い感じの関係を続けていくことにする。


「分かった。ソール、アッシュ、もう行くぞ」

「おう」

「ああ」


 そして、完成品を受け取ったノーシュはソールとアッシュを連れて拠点を出て行った。


「さて、やっておきたいことがあったが、その前にエルリーチェのところに行くか」


 店の本格的な運営に向けてやっておきたいことがあったのだが、【自然の結晶】が手に入ってちょうど良い機会だからな。

 少し聞いておきたいこともあるので、その前にエルリーチェがいる研究所に向かうことにした。


「……研究所行くの?」

「ああ。話は聞けるだろうからな。では、行くぞ」

「……うん」


 そして、ノーシュからの依頼を終えた俺達は拠点を出て、エルリーチェがいる研究所に向かったのだった。

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