第3章 本格始動

episode61 妖術

 翌日、朝からログインした俺は店の商品の売れ行きを確認していた。


「ふむ……だいぶ売れているな」


 確認すると、装備品の売れ行きは好調で、そのほとんどが売り切れていた。


「まあ【スケルトンの霊骨】を使った装備は不人気のようだが」


 ただ、【スケルトンの霊骨】を使った装備品は、強烈なデメリット効果が付与されているせいなのか、あまり人気がないようだった。


「素材はだいぶ補充したし……む?」


 と、素材の在庫の確認のためにメニュー画面を開くと、プレゼントボックスに何かが届いていることに気が付いた。

 ひとまず、その内容を確認してみる。


(ストライクウルフの素材の返却か)


 確認してみると、そこにはストライクウルフの素材が入っていた。

 どうやら、一時的に回収されていた物が戻って来たらしい。


「ストライクウルフの素材で何か作ってみても良さそうだが……リッカはどう思う?」

「……まだいい」

「そうか」


 まあ今のところは火力も十分で、装備品を新調する必要もなさそうだからな。

 ストライクウルフの素材はまだ取っておくことにした。


「とりあえず、商品の補充だけしておくか」


 かなり売れてしまっていて、商品が少ない状態だからな。

 このまま出掛けるわけにはいかないので、まずは商品を補充することにした。


「ソールは……ログインしていないか」


 ここで俺はフレンドリストを見て、ソールがログインしていないかどうかを確認してみるが、彼はまだログインしていなかった。


(ソールとの話は後で良いか)


 今日の朝、ソールは俺に何か話があると言っていたが、ログインしていないのであれば話はできないからな。

 とりあえず、ソールとの話は後回しにすることにした。


「この後はどうする?」


 予定が空いたからな。リッカに何かやりたいことがないかどうかを聞いてみる。


「……ユヅハに会いに行く」

「分かった。とりあえず、連絡してみるか」


 向こうの都合もあるだろうからな。

 ひとまず、連絡して予定が空いているかどうかを確認することにした。


 俺はメニュー画面を開いて、ユヅハと通信を繋ぐ。


「今良いか?」

「ええ。例の件かしら?」

「ああ」

「時間ならあるわ。妖術を教えてもらいたいのなら、スピリア荒原に来なさい」

「分かった。準備が整い次第向かう。では、また後で会おう」


 そして、話が付いたところで通信を切った。


「と言うことだ。商品の補充が終わり次第出発できるように、準備を整えておいてくれ」

「……うん」

「ソールには……適当に言っておけば良いか」


 途中でログインしてくる可能性もあるが、そのときには適当に少し待つよう言っておくことにする。


「さて、さっさと作るか」


 そして、その後は商品の補充をしてから、闘都コロッセオスに向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 闘都コロッセオスに向かった俺達は、そのままスピリア荒原に向かっていた。


「さて、特に場所の指定はなかったが……」

「いるわよ」


 スピリア荒原に出てユヅハを探そうとしたそのとき、その声と共にもやが晴れるように空間が歪んで、ユヅハが現れた。

 だが、その隣には見覚えのない人物が立っていた。


 ユヅハの隣に立っていたのは十三歳から十五歳ぐらいの見た目の少女だった。

 彼女は猫系の獣人のようで、その茶色い猫耳を可愛らしくぴくぴくと動かしている。

 ただ、通常の獣人とは違う点が一つあって、彼女には尻尾が二本あった。


 また、肩のあたりまでの長さの茶色い短髪は乾いた風によって揺られていて、その赤い瞳はきりっとこちらを捉えている。

 そして、ダークレッドを基調とした色のワンピースを着ていて、一見すると街にいる普通の少女のようにも見えるが、戦闘用の腕当てや脚用の装備を着けていて、接近戦が得意なことが分かるような見た目をしていた。


「……彼女がシャノか?」

「ええ、そうよ。シャノ、挨拶してあげなさい」

「分かりました。あたしはシャノ。ユヅリハ様とユヅハ様の優秀な式神だよっ!」


 ユヅハがそう言うと、シャノは元気良く自己紹介した。


「俺はシャム」

「……私はリッカ」


 こちらも軽く自己紹介をする。


「それで、何をするんだ?」

「シャムには【妖術】を教えてあげるから、その上で実戦をしてもらうわ」

「分かった。リッカはどうするんだ?」

「適当にシャノと戦ってもらうわ」

「そうか」


 リッカの方の内容がいまいちはっきりとしないが、今はそこには突っ込まないでおく。


「それじゃあ早速【妖術】を教えてあげるわ」

「ああ、頼んだ」

「とりあえず、これを読みなさい。それを読めば【妖術】のことが分かるはずよ」


 ここでユヅハはそう言って巻物を渡して来る。


「分かった」


 巻物を受け取った俺はそれをそのまま使用する。



【【妖術】を習得しました】



 すると、そんなシステムメッセージが表示されて、あっさりと【妖術】を習得することができた。


「【妖術】は覚えられたみたいね」

「ああ」

「【妖術】は魔法とは違って、効力値によって威力が決まるわ。基本的には魔法よりは威力が低いけど、追加効果が多いのが特徴よ」

「なるほどな」


 【魔法】も【妖術】も魔法攻撃系のアビリティではあるが、参照されるステータスが違ったり、特徴が違ったりと、差別化されているらしい。


「あなたは『衰呪・消失』と『めつえん――カースエンド』を覚えたはずよ」

「確認してみよう」


 両方とも聞いたことがないスキルで、確認してみないと分からないからな。

 ひとまず、それらの情報を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【衰呪・消失】

 効力値に応じた無属性の魔法ダメージを与えて、確率で脱力と減衰を付与する。

 状態異常の成功確率と効果は効力値に応じて上昇する。

 キャストタイム:2秒

 クールタイム:20秒


めつえん――カースエンド】

 効力値に応じた無属性の魔法ダメージを与える。

 対象に付与された状態異常と弱体効果の数に応じて威力が上昇する。

 キャストタイム:4秒

 クールタイム:45秒


━━━━━━━━━━



 脱力は筋力が低下、減衰は魔力が低下する状態異常で、『衰呪・消失』はうまく行けば敵の火力を抑えることができるスキルのようだった。


「『めつえん――カースエンド』は【妖術】の中でもトップクラスのダメージを叩き出すことが可能なスキルよ。使いどころは見極めることね」

「分かった」


 『めつえん――カースエンド』は状態異常と弱体効果の数に応じて威力が上昇するという性質上、理論上はかなりの火力を叩き出せるはずだからな。

 必殺技的な位置付けであることにも納得できる。


 ……まあ状態異常と弱体効果も効果時間があるので、現実的にその超火力を出せるかどうかというのは別の話だが。


「とりあえず、あそこにいるスケルトンウォリアーで試してみると良いわ」


 そう言われてユヅハが示した方向を見てみると、そこには都合良く単体でうろついているスケルトンウォリアーがいた。


「分かった。リッカ、万が一のときは頼んだ」

「……うん」


 装備品を一新しているので大丈夫だとは思うが、念のためにリッカには備えておいてもらうことにした。

 俺は気付かれないように、慎重にスケルトンウォリアーに接近する。


「『衰呪・消失』」


 そして、射程距離に入ったところで『衰呪・消失』を発動すると、黒い霧が球状に集まったような物が形成された。

 その表面には一周するように何かの文字が記されたものがあり、それがクロスするように二つある。


「はっ!」


 そのままそれを飛ばすと、狙った通りに真っ直ぐと飛んで行って、狙い通りにスケルトンウォリアーに着弾した。

 それによって、ダメージを与えると共にスケルトンウォリアーに脱力と減衰が付与される。


「『めつえん――カースエンド』」


 俺はすかさずに『めつえん――カースエンド』を発動させると、スケルトンウォリアーの足元に魔法陣が展開される。

 すると、魔法陣から黒い光が放たれて、スケルトンウォリアーは倒れた。


(これがユヅリハが使っていたスキルか)


 使ってみて分かったが、このスキルには見覚えがあった。

 そう、このスキルはリッカが最初にストライクウルフと戦ったときに、ユヅリハがストライクウルフを一撃で葬ったスキルだ。

 あの戦闘の動画は確認していたからな。そのことはすぐに分かった。


(これならあの火力にも納得だな)


 あのときは大量に状態異常と弱体効果が付与されていたからな。

 まあ彼女が圧倒的なステータスを持っていたということもあるだろうが、このスキルの特性故にあの超火力が出せたということに変わりはない。


「使い心地はどうかしら?」

「これだけでは何とも言えないな」


 これではまだ妖術の本領を発揮できていないからな。

 現状だとこれだけでは戦えないし、評価を出すにはまだ早い。


「そう。それじゃあ次はリッカよ。シャノ、準備しなさい」

「分かりました」


 ユヅハの指示を受けたシャノは手甲を装備して構える。


「俺は適当に観戦しておこう」

「……うん」


 それに対してリッカも構えて、二人は二十メートルほどの距離を空けて対峙した。

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