episode60 ストライクウルフ戦を終えて

「アオン……」


 リッカの一撃でHPが尽きたストライクウルフがばたりと倒れる。


「……終わったな」


 戦闘が終わったところで、俺はふぅと息を吐き出して、ゆっくりと腰を下ろす。


「想像以上ね。楽しませてもらったわ」


 と、ここで戦闘が終わったことを確認したユヅリハとユヅハが降下して来た。


「そうか」

「あら、あまり嬉しそうじゃないわね。ユヅリハ様に褒められたことを光栄に思いなさい。これは義務よ」

「そんな義務があってたまるか」


 式神なので、ユヅリハのことを最優先にするのは分かる。

 だが、それを他人に押し付けるのは止めてもらいたいところだ。


「それにしても、リッカはよく召喚を止められたな」


 止められる保証などなかったはずだからな。

 あの場面で突っ込んで止めに行くのはかなりリスクがあったように思える。


「……あのタイプの咆哮は普通は判定ない。と言うか、一回確認した」


 どうやら、ある程度の確信があってあの動きをしていたらしい。


「そうか。と言うか、試していたのか」

「……うん」


 全く気付かなかったが、俺が眷属ウルフを相手している間に同じように試していたらしい。


「まあリスクはあったが、そこは仕方がないか」


 眷属ウルフを再召喚されていると、戦闘が長引いていただろうからな。

 多少のリスクは仕方がなかったと言える。


「あなた達、そこに並びなさい」


 と、そんな話をしていたところで、ユヅリハに前に並ぶよう言われた。


「分かった」

「……うん」


 早くしないと、ユヅハに文句を言われるだろうからな。俺達はすぐにユヅリハの前に並ぶ。


「今日は楽しませてもらったわ。何か望むことはあるかしら?」

「望むこと?」

「ええ。あなた達の身の丈に合う程度のことに限るけど、聞いてあげるわ」


 どうやら、楽しませてくれた褒美として、何か報酬を出してくれるらしい。


「そう言われても、あまり詳しくないからな……」


 だが、俺達はまだこのゲームについて詳しくないからな。

 何を要求するのが正解なのかが分からない。


「無難なのは【SPアップの巻物】あたりじゃないかしら? 私なら作れるわよ?」

「【SPアップの巻物】か……」


 そう言われても、俺にはそのアイテムが何なのかが分からないからな。

 まあその名称から予想は付くのだが、ひとまず、そのアイテムが何なのかを確認してみる。



━━━━━━━━━━


【SPアップの巻物】

 SPが増える。


━━━━━━━━━━



 どうやら、使うとSPを増やすことができるアイテムで、確かに報酬としては無難だった。


「と言うか、こんなアイテムを作れるのか……」

「ええ。一応言っておくけど、このレベルのアイテムは誰にでも作れるわけじゃないわよ? 私ぐらいの力がないと作れないわ」

「そうか」


 こういうアイテムが普通に作れてしまうと、ゲームバランス的に問題があるからな。

 通常は作れないアイテムで、作れる彼女が特別なだけらしい。


 まあ本来はイベントの報酬アイテムだろうからな。それも当然か。


「他に候補となる物はないか?」

「そうね……あなたは妖術を使うのに向いていそうね」

「妖術?」


 そう言われても、俺は妖術とやらについて何も知らないからな。

 まずはそのことについて説明してもらわないと困る。


「ユヅハに妖術を教えてもらうというのはどうかしら?」


 だが、彼女はその説明をするつもりはなさそうだった。


「ふむ……それは中々良さそうだな」


 詳しい内容は分からないが、話を聞いた感じだと、新たにアビリティを習得できそうだからな。それは良さげな提案だった。


「それじゃああなたへの褒美はそれで良いかしら?」

「ああ。頼んだ」


 と言うことで、俺への報酬は妖術の習得に決定した。


「ユヅハ、後で妖術を教えてあげなさい」

「分かりました」

「あなたには……どうしようかしら?」


 ここでユヅリハはリッカを見てそんなことを言う。

 俺への報酬は決まったが、リッカへの報酬がまだ決まっていないからな。

 どうやら、リッカへの報酬をどうするのか迷っているらしい。


「俺と同じように何かを教えてやることはできないのか?」

「私は刀を使わないし、私の式神も使わないわ。だから、そのことについては教えられないわね」

「そうか」


 俺と同じように何か教えられれば良かったのだが、そう都合良くも行かないらしい。


「まあでも、少しぐらいなら教えられることもあるわ」

「む、そうか。リッカはどう思う?」

「……それで良い」

「分かった。ひとまず、詳しく聞いても良いか?」

「分かったわ。とりあえず、シャノを担当に当てるわね」

「シャノというのは、式神の一人か?」


 ユヅリハの式神は三人いるらしいからな。

 聞くまでもないことかもしれないが、一応、確認しておく。


「ええ、そうよ。手甲を使っているから、戦闘スタイルは似ているわ。だから、教えられることもあるはずよ」

「ふむ、そうか。リッカ、どうする?」


 決めるのは本人だからな。リッカにどうするのかを尋ねる。


「……それで良い」

「……だそうだ」

「分かったわ。少し準備するのに時間をもらうけど、良いわね?」

「ああ、良いぞ」


 そちらの都合もあるだろうからな。こちらとしても特に問題はないので、それで了承することにする。


「それで、あなたはどうするのかしら? このままユヅハから妖術について習って行っても良いわよ?」

「いや、それはリッカと一緒のタイミングにさせてもらおう。少し休みたいしな」


 先程の戦闘で少し疲れたからな。もちろん、ゲーム内なので肉体的には疲れていないが、精神的に疲れたので少し休みたい。


「分かったわ。それなら、適当なタイミングでユヅハとシャノを送るわ」

「適当なタイミングか……。一つ良いか?」


 ここで俺は一つ提案をする。


「何かしら?」

「連絡を取れるようにはできないか?」


 提案というのは連絡方法についてだ。

 連絡が取れれば何かと便利だからな。そこを何とかできないか聞いてみる。


「できるわよ。これを使うと良いわ」


 そう言うと、ユヅリハは俺に十センチメートルほどの大きさのクリスタルを渡してきた。



【ユヅリハ、ユヅハと連絡を取ることができるようになりました】



 さらに、それと同時にそんなシステムメッセージも表示された。


「助かる。ところで、他の二人はどうなんだ?」


 連絡が取れるようになったのはユヅリハとユヅハだけのようだからな。

 他の二人とは連絡が取れないようなので、そのあたりのことについて聞いてみる。


「シャノとタヌアについてはユヅハに任せているわ。二人に用があるのなら、ユヅハに言うと良いわ」

「ユヅハに? ユヅリハ様の式神なのだろう?」

「シャノとタヌアは私の式神じゃなくて、ユヅハの式神よ。だから、管理も任せているわ」

「そうだったのか」


 三人はユヅリハの式神なのかと思っていたが、どうやらそうではなく、ユヅリハの式神がユヅハで、そのユヅハの式神がシャノとタヌアだったらしい。


「それじゃあ私はもう行くわ。ユヅハ、行くわよ」

「仰せのままに」


 そして、二人はふわりと宙に浮かぶと、そのままどこかに飛んで行った。


「……さて、リッカはどうする? 俺は疲れたので、拠点で少し休んでから探索をするつもりだが」


 俺は少々疲れたが、リッカはそうではなさそうだからな。

 この後はどうするのかを聞いてみる。


「……このまま探索する」

「そうか。では、一旦別れるか」

「……うん」


 リッカはこのまま狩りをするようだからな。ここで一度別れることにした。


 そして、その後は少し休んでからリッカと合流して、適当に狩りをしてからその日のゲームプレイを終えたのだった。



  ◇  ◇  ◇



 シャム達と別れたユヅリハとユヅハは住処に向けて移動をしていた。


「……ユヅハ」

「何でしょう?」

「監視対象の選定は済んだかしら?」


 飛行を始めたところで、ユヅリハはユヅハにそんな質問をする。


「はい。ある程度は」

「そこまでこだわらなくて良いわよ? 別に誰でも良いのだから」


 リッカを対象にしたのも気に入ったからであって、監視対象は誰であっても目的は達成できるので、そこまで監視対象にこだわる必要はない。

 なので、選定にそこまで時間を掛けなくても良いと、ユヅリハは勧告する。


「いえ、凡夫を監視しても退屈なだけです。必ずユヅリハ様にご満足いただけるような者を探し出してみせます」


 だが、ユヅハは妥協するわけにはいかないと、しっかりと選定することを宣言した。


「……最近あなたは働きっぱなしね」

「ユヅリハ様のためであれば、身を粉にして働く所存ですので」

「少し休んだらどうかしら?」

「いえ、そういうわけにはいきません。まだまだすべきことはありますので」


 ユヅリハはユヅハの最近の働きぶりを考えて休むよう言うが、彼女は聞く耳を持たない。


「……言っても聞きそうにないわね」


 その様子を見て、これ以上言っても意味がないことを悟ったユヅリハは、そう言ってため息をく。


「何か至らぬ点がありましたでしょうか? 改善すべき点がございましたら、何なりとお申し付けください」

「……あなたは優秀な式神だから、そんなことはないわ。ただ、優秀過ぎるのも考えものだと思っただけよ」

「ありがとうございます。お褒めに預かり、光栄です」

「…………」


 ユヅリハはそういう意味ではないと思いつつも、その言葉を飲み込む。


「とりあえず、明日以降に備えて、今日は戻ったらゆっくりと休みなさい」

「かしこまりました」

「それじゃあシャノとタヌアを待たせているし、少し急ぎましょうか」

「そうですね」


 そして、二人は話を終えたところで、速度を上げて住処に戻ったのだった。

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