episode52 シェーダ
それから出会った敵を倒しながらコスタル平野を進んだ俺達は、無事に闘都コロッセオスに到着していた。
「着いたぞ」
「そのようですね。……ご協力いただき、ありがとうございました」
到着したところで、ネムカはそう言って丁寧に礼をする。
「そんなにかしこまらなくて良い。また何かあったら言ってくれ」
「分かりました。それでは、私達はこれで」
そして、それだけ言い残すと、ネムカ達は街中の雑踏に紛れて行った。
(特に何も言われなかったな)
武器のことに関して何か言われるかとも思ったが、彼女達は特に何も言ってこなかった。
(この様子なら口外することもなさそうだな)
気になって聞いてきてもおかしくはなかったからな。
この様子なら口外しないという約束も守ってくれそうだった。
「……少し見に行ってみるか」
それはそうと、『猫又商会』の経営している店をまだ見たことがないからな。
今後ライバルになる可能性が非常に高いので、一度店を見に行ってみるのも良さそうだった。
「となると、リッカを呼ばないとな」
俺が持っている【転移石】に登録されている転移先はイストールと闘都コロッセオスだからな。
リッカを呼ばないと始都セントラルに戻れないので、まずは彼女を呼ぶことにした。
ひとまず、メニュー画面を操作してリッカと通信を繋ぐ。
「リッカ、少し良いか?」
「……何?」
「『猫又商会』の店を見に行こうと思ってな。コロッセオスに戻って来てくれないか?」
「……分かった」
そして、『猫又商会』が経営している店を見に行くことを伝えると、リッカはそれをあっさりと承諾した。
「では、俺は分かりやすいように闘技場の前で待っておこう」
転移先は闘技場の前だからな。そこで待っていればすぐに合流できるので、俺は闘技場の前で待っておくことにした。
「……うん。すぐに行く。じゃあ後で」
そして、話が済んだところで、リッカは通信を切った。
「さて、このまま歩いて行くか」
【転移石】で闘技場前にまで移動しても良いが、リッカが来るまでにはまだ時間があるからな。
ここは歩いて街の景色を眺めながら集合場所に向かうことにした。
そして、その後はのんびりと歩いて闘技場に向かったのだった。
◇ ◇ ◇
予定通りに合流した俺達は始都セントラルに戻って、『猫又商会』が経営する店の前にまで来ていた。
「ここが『猫又商会』が経営する店か……。俺達の店とは大違いだな」
「……うん」
路地裏にひっそりと
資金に余裕がない俺達とは違って、『猫又商会』はベータ組が三十人いて、資金に余裕があるからな。体裁を整える余裕もあるらしい。
「さて、早速入ってみるか」
「……うん」
店は営業しているし、ここで突っ立っていても仕方がないからな。
さっさと店に入って様子を見てみることにした。
「ふむ……やはり、商品の数が違うな」
店に入って店内を見てみると、俺達の店とは比べ物にならないほどの量の商品が並べられていた。
「……店の印象も良い」
さらに、照明を追加で設置することで、必要な明るさが確保されていて、視覚的な店の印象も良いものになっている。
「まあ生産力が違うし、こんなものか」
単純に考えて、総勢九十人の『猫又商会』は一人で生産している俺よりも九十倍の生産力があることになるからな。
俺達とは規模が違うのも当然の話か。
「現状では商品に大きな違いはないといったところか?」
ここで改めて商品を見てみると、商品はどれも量産品のようで、高級品は基本的にないようだった。
「……【錬金】、さっき取ったところ」
「まあそんなところか」
俺と同じように考えていて、製作の幅が広がる【錬金】を習得してから本格的に高性能な物を作ろうと思っていたなら、この状態も必然だからな。
高性能な物を作るのはこれからと考えると、量産品ばかりなのも納得できる。
「……まあそういう方針なのかもしれないがな」
とは言え、規模の大きさを活かして、経営の方針が薄利多売なだけの可能性もあるからな。
そのあたりに関してはまだ分からないので、あまり深くは言及しないことにする。
「おや、誰かと思ったら、噂のお二人じゃないッスかー」
と、商品を見て回っていると、黄金色の短髪の店員の女性が俺達に馴れ馴れしく話し掛けてきた。
アバターの見た目の年齢は、ネムカと同様に十代後半から二十代前半ぐらいだろうか。
虎系の獣人で、こちらのことに興味津々なのか、その琥珀色の瞳で俺達のことを捉えて、耳をピクピクと動かしている。
また、他の店員とは違って作業着のようなものを着ていて、その上には前掛けをしていた。
前掛けには胸のあたりに『猫又商会』のロゴである猫のロゴがプリントされていて、その豊満な胸によってその猫のロゴが強調されている。
「おっと、こっちから名乗るのが礼儀ってものッスよね。あっしはシェーダ。『猫又商会』の傘下ギルド、『黒猫の錬金工房』のリーダーで、
「そうか。……七猫評議会とは何なんだ?」
そう言われても、七猫評議会というものが何なのかを知らないからな。
まずはそれについて聞いてみることにする。
「七猫評議会っていうのは、『猫又商会』の方針なんかを話し合ったりする、七人の代表ッスね」
「つまり、『猫又商会』のトップに立つ七人ということか」
「まあそういうことッスね」
どうやら、七猫評議会というのは『猫又商会』のトップの七人のことらしい。
「それで、噂の二人と言ったが、話題にでも上がっているのか?」
「またまたー。ネムカから聞いたッスよ? コロッセオスに最速到達したらしいッスね」
「ああ、そのことか」
まあ何せ最速到達だからな。注目されるのも当然か。
「いやー……ログインしたら報告を受けて驚いたッスよ。『
「……さあな。と言うか、『
俺は『
そう言われても、こちらからは何とも言えない。
「知らないんッスか? トップギルド候補の一つで、一言で言ったらガチ勢の廃人集団ッスね。ギルドに入る条件が毎日十二時間ログイン必須だとか、プレイ時間を合わせるだとか……まあそんな感じのギルドッス」
「そうか」
どうやら、最前線での攻略をガチで目指しているギルドらしい。
「それで、何しに来たんッスか? 敵情視察ッスか?」
「さて、どうだろうな」
「うーん……こういうのって、追い出した方が良いんッスかね?」
「……それで追い出されたら、こちらも
「そうですよ、シェーダ」
と、ここで聞き覚えのある声がスタッフ専用の扉の先から聞こえてきた。
「あ、ネムカじゃないッスか。戻ってたんッスね」
そこから現れたのはネムカだった。
先程まで闘都コロッセオスにいたはずだが、どうやら、こちらに戻って来ていたらしい。
「はい。転移先の登録だけして、一度戻って来ました」
「そうだったんッスね。それで、ネムカはどう思うッスか?」
「……入店拒否するのは迷惑客だけです。ですので、その必要はありません」
「そうッスか」
それを聞いたシェーダはそう言って俺達への警戒を解く。
「それで、何か用ですか?」
「いや、様子を見に来ただけだ」
「そうですか」
ネムカは興味なさげに、相変わらずの乾いた声でそう答える。
「ネムカは相変わらずッスね」
と、その様子を見ていたシェーダは、そう言いながらネムカの肩にポンと手を置いた。
「……戻りますよ」
だが、ネムカはそれを振り解くと、そのままスタッフ専用の扉の方に向かってしまった。
「……昔から変わらないのは別に良いッスけど、愛想がなさすぎるッスよ。そう思わないッスか?」
「いや、俺に聞かれても困るのだが?」
その口振りから察するに、二人は現実世界の方で知り合いのようだが、当然俺は知らないからな。
まあ愛想がないという点については同意できるが、あまり俺が言うようなことでもない。
「……まあその話は良いッス。二人ともフレンド登録しないッスか?」
と、ここでシェーダがそんな提案をしてきた。
「俺は別に構わないぞ? リッカはどうだ?」
「……別に良い」
「決まったッスね。それじゃあ申請を送るッス」
そして、俺達がそれを了承したところで、申請が送られてきた。
俺は申請を承認して、フレンド登録する。
「では、俺達はそろそろ帰らせてもらおう。リッカ、行くぞ」
ここでの用は済んだからな。そろそろ素材集めに戻ることにした。
「……うん」
そして、『猫又商会』が経営している店を見終わった俺達は、そのまま素材集めに戻ったのだった。
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