episode51 猫又商会
近くにあった岩に腰掛けた俺はネムカと話を始めていた。
「『猫又商会』と言えば最大規模と言われているギルドだよな? 素材でも採りに来たのか?」
「それも目的の一つですが、今回の目的はコロッセオスへの到達ですね」
「まあそれもそうか」
素材を採るためにこんな奥の方には来ないだろうからな。聞くまでもないことだったか。
「あなたはソロでここまで?」
「いや、コロッセオスまでは二人で行って、今は素材を集めているところだな」
闘都コロッセオスに向かっているわけではなく、向こう側から来たからな。
ソロでここまで来たわけではない。
「やはり、コロッセオスへの最速到達者でしたか」
「最速到達者?」
「一時間ほど前に公式情報板に情報が出ていましたよ」
「公式情報板……そう言えば、そんなものもあったな」
メニュー画面のお知らせの項目の中には公式情報板という、公式からゲーム内の情報が発信されている項目があるが、そこで情報が出ていたらしい。
(確認してみるか)
ここでも公式情報板は見ることができるからな。
ひとまず、その内容を確認してみることにした。
(……これか)
確認してみると、そこには闘都コロッセオスへの到達者が現れたという、運営からのメッセージが記されていた。
「そちらは最速到達を目指していたのか?」
「いえ、別にそういうわけではありません。単にコロッセオスにできるだけ早く到達しようとした結果、最速クラスの到達速度になっただけです」
「そうか」
どうやら、闘都コロッセオスへの到達で解禁される要素を解禁するために急いだ結果、最速に近い到達速度になっただけらしい。
「それにしても、この段階でリザードマン素材の武器を使っているとは思いませんでしたね」
「む、分かったか」
「ベータテスターですし、それぐらいは分かります」
「そう言えば、そういうギルドだったな」
『猫又商会』はベータテスターが集まって作られたギルドらしいからな。
リザードマンの素材ぐらいは見たことがあったか。
「……ベータ組以外のメンバーもいますよ?」
「む、そうだったか。失礼した」
「確かに、元々はベータ組だけでギルドを結成する予定でした。ですが、ベータテスト終了後に複数のギルドによって形成される大きな生産系ギルドを構想しまして、実行に移しました」
「なるほどな」
それでベータ組以外のメンバーもいるということか。
「それで、どうしたんだ?」
「本リリース組からさらに六十人を集めて、『黒猫の錬金工房』と『白猫のレストラン』という傘下ギルドを結成しました」
「そうか。そんなに規模を大きくして大丈夫なのか?」
規模が大きくなると、管理が難しくなるからな。考えなしに規模を大きくするのはあまり良くないように思える。
「今のところは管理できる規模なので、特に問題はありません」
「そうか。それにしても、よく三ギルド分も管理できるな」
人数が多いことはもちろんだが、基本的にはギルド単位で活動するので、足並みを揃えるにはうまく全体をまとめる必要があるからな。
そのあたりのことについて、少し聞いてみることにする。
「基本的には私とサブリーダーのメンバーが指示を出して管理していますので。今のところはそれでうまく行っています」
「ふむ……何かと有能なようだな」
それなりにできる者でなければ管理はできないだろうからな。ネムカはそれなりに優秀な人物らしい。
「いえいえ、あなたほどでは」
「む、俺が何かしたか?」
「【基本HP回復ポーション】を使って、安く効果的に宣伝。そして、利益を上げる商品を絞っての経営。見事な手腕ですよ」
「そうか。……よく調べているのだな」
「ソロの生産系プレイヤーの中では一番台頭していますからね。その動向には注目していますよ」
「そうだったか」
特に意識はしていなかったが、生産系プレイヤーの中では上位に入っていたらしい。
なので、その動向に注目すべく、俺のことを調べていたようだ。
「『三毛猫の鍛冶場』という傘下ギルドを追加で作って、メンバーの二次募集を近い内に始める予定なのですが、どうですか?」
「……誘ってくれるのはありがたいが、俺は大人数でやるのは性に合わなくてな」
「そうでしたか」
「悪いな。折角の誘いを断って」
誘ってくれるのはありがたいが、今のところは知らない他人と一緒に遊ぶつもりはないからな。
誘ってくれた彼女には悪いが、断らせてもらうことにする。
「いえ、お気になさらず。折角ですし、フレンド登録をしませんか?」
「フレンド登録か……。それなら構わないぞ」
生産系ギルドのトップであるネムカと繋がれることによるメリットは大きいだろうからな。
フレンド登録しておけば連絡も取れるので、喜んでそれを受けることにした。
「それでは、申請を送りますね」
ネムカはそう言うと、メニュー画面を操作して俺にフレンド申請を送る。
「……これか?」
通知が来たところで、メニュー画面を開いてフレンドの項目を確認すると、フレンド申請を送られてきていた。
俺はそのままそれを承認する。
「承認したぞ」
「ありがとうございます。それはそうと、一つ頼みごとがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「それはまあ内容によるな」
内容を聞かないことには何とも言えないからな。まずはその内容を聞いてみることにする。
「見ての通りに私達はコロッセオスに向かっているのですが、消費アイテムも装備品の耐久度も厳しい状態です」
「……つまり、俺にコロッセオスまで案内して欲しいと?」
「はい」
どうやら、消耗してこれ以上進むことが難しい状態らしく、俺に手伝って欲しいようだ。
「一応聞くが、準備はしていたんだよな?」
「はい。可能な限り準備はしていましたが、このメンバーでは厳しかったようで」
「サブウェポン用のアビリティは……取っていたらこんなことにはなっていないか」
生産がメインだと、戦闘用のアビリティを一つしか取っていない場合が多いらしいからな。
このメンバーではここの敵とは相性が悪かったようで、闘都コロッセオスまで辿り着けなかったらしい。
「突破しやすいように、他の相性の良いメンバーで編成しなかったのか?」
「それぞれの都合がありますので」
「む、それもそうか」
ほぼいつでも空いている俺とは違って、普通は仕事や学校なんかがあるだろうからな。それも仕方がないか。
「……一応言っておくが、俺はニートではないぞ?」
「まだ何も言っていませんが?」
「まあその話は良い。コロッセオスまでの案内についてだが、知られたくないような情報もあるので、そう簡単には了承できないな」
マテリアルクラフターのこともあるからな。あまり見せたくはないので、正直あまり乗り気ではない。
「もちろん、協力いただいたことでこちらが得た情報は口外は致しません」
「ふむ……少し考えさせてくれ」
俺の一存で決めるわけにはいかないからな。ここはリッカに相談して決めることにした。
俺はメニュー画面を開いて、リッカに通信を繋ぐ。
「リッカ、今話せるか?」
「……うん」
「実はだな……」
そして、リッカに今の状況を説明した。
「……そう」
「リッカはどう思う?」
「……別に良いと思う」
「分かった。その方向で話を進めておこう。では、またな」
話が済んだところで、通信を切る。
「と言うことで、その依頼を受けさせてもらおう」
「ありがとうございます」
「では、行こうか」
そして、リッカの許可も得て一時的にパーティに加わった俺は、率先して敵を倒しながら闘都コロッセオスに向かったのだった。
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