episode50 ネムカ
コスタル平野に向かった俺は【砂】が採れる場所を探して歩き回っていた。
「さて、今回はリッカはいないが……まあ大丈夫か」
俺が使っている武器はここよりも二段階ほど敵が強い、ドラガリア荒野で手に入った素材を使って作った物だからな。
リッカはいないが、これなら何とかなりそうだった。
「……モンスターがいるな」
と、適当に歩いていると、俺はモンスターを発見した。
そこにいたのは、ビッグクラブという体長が一メートルほどもある蟹のモンスターだった。
「早速、試してみるか」
敵は一体だけで、新武器を試すにはちょうど良いからな。
早速マテリアルクラフターを使っての攻撃を試してみることにした。
「『マテリアルソリッド』」
まずは『マテリアルソリッド』という、【クラフトマテリアル】を立方体の形状にして飛ばすスキルで先制攻撃を仕掛ける。
すると、その攻撃でHPを半分以上も削ることができた。
(二段階ほど先の武器を使っているおかげで、かなり火力が出るな)
【リザードマン素材のマテリアルクラフター】は本来この段階で使うような武器ではないからな。
かなりの火力があるので、このエリアの敵は一人でも問題なさそうだった。
「こちらも試してみるか」
今度は【ウィンドボム】の方も試してみることにした。
俺は【ウィンドボム】を取り出して、それをそのままビッグクラブに向けて投げ付ける。
すると、着弾点で爆風が発生して、ビッグクラブの残っていたHPを一気に削り取った。
「火力はそれなりにあるし、問題なく戦えそうだな」
これまでは戦闘はリッカに任せ切りだったが、これからは俺も戦力になれそうだった。
「対応力もあるし、運用コストが掛かるだけはあるな」
この段階でも『マテリアルブレード』で斬撃、『マテリアルアロー』で刺突、『マテリアルソリッド』で打撃と、物理攻撃は三種類の攻撃が揃っているからな。
相手の弱点に合わせて攻撃を選べるので、対応力は現時点でも十分ある。
加えて、魔法道具が増えれば、その分だけ選択肢も増えて、対応力はさらに上がるからな。
今後にも期待できるので、マテリアルクラフターを選んだのは中々良さそうだった。
「さて、【砂】が採れる場所は……この辺りにはなさそうだな」
周囲を見渡してみるが、この辺りには【砂】が採れる場所がなさそうだった。
「もう少し奥に向かうか」
なので、このままもう少し奥に向かうことにした。
そして、そのまま【砂】が採れる場所を探しながら探索を続けたのだった。
◇ ◇ ◇
「……あったな」
適当に敵を倒しながらコスタル平野を探索していた俺は、【砂】が採れそうな場所を発見していた。
「そんなに遠くはないし、往復に時間は掛からないか」
ここに来るまでに十五分も掛かっていないからな。
往復にそこまで時間は掛からないので、集めるのにそこまで苦労はしなさそうだった。
「早速、採取するか」
とりあえず、【砂】が採れる場所は分かったので、採取を始めることにした。
「ふむ……いくらでも採れるようだな」
いくら採っても採取ポイントが消えないからな。
【砂】は無限に採取できる仕様になっているようだった。
「……さて、リュックに詰められるだけ詰めたし、一度戻るか」
これ以上はもう持てないからな。一度戻って、拾ったアイテムを倉庫に入れておくことにした。
◇ ◇ ◇
それからさらに一往復して【砂】を集めた俺は、マテリアルクラフターの扱いに慣らすことも兼ねて、コスタル平野を探索していた。
あれだけあれば、【砂】はしばらく持つだろうからな。【砂】集めを切り上げて、探索をすることにしたのだ。
スピリア荒原やドラガリア荒野に行くという選択肢もあったが、こちらよりも難易度が高く、パーティを組んでいる敵も多いからな。
リッカのように複数の敵を捌く技術もないので、コスタル平野で戦闘をすることにしたのだ。
「本当は防具を作ってから来たかったが……まあ大丈夫か」
防具を新調してから来たかったが、【リザードマンの皮】が不足していたからな。
先程、戦闘をしてみた感じからすると、防具はそのままでも大丈夫そうだったので、結局このまま冒険に出ていた。
「む、採掘ポイントがあるな」
と、探索をしていたところで、岩場に採掘ポイントを発見した。
「基本的に鉱石はいくらあっても困らないし、採れるだけ採っておくか」
ピッケルや鍛冶用のハンマーの改良には金属が必要だからな。
そのためには様々な鉱石が欲しいので、採掘ポイントでは採れるだけ採っておくことにした。
「ここの採掘ポイントは問題ないが、新しい素材の開発を急いだ方が良さそうだな」
俺達はドラガリア荒野でも戦えるだけの装備が整っているからな。
そこで手に入る素材を大量に手に入れるためにも、早く新しい素材を開発したい。
「優先順位としては、新素材の開発、ピッケルの改良、ドラガリア荒野で素材集め、新装備の開発といったところか?」
新装備の開発は可能な限り上位の素材を集めてから行いたいからな。
今後の予定としては、こんな感じの流れになりそうだった。
「さて、採掘は済んだし、他の場所に……む?」
採掘が終わったところで周囲を見てみると、戦闘しているプレイヤーらしき姿が見付かった。
この距離だとよく見えないので、もう少し近付いて様子を見てみることにする。
(パーティはフルメンバーより一人少ない五人。敵はビッグクラブの集団のようだな)
そこにいたプレイヤーのパーティが相手していたのは、ビッグクラブの集団だった。
(少し苦戦しているようだな)
魔法攻撃を行えるメンバーが一人しかいないので、物理攻撃が効きにくいビッグクラブを相手に苦戦しているようだった。
一応、打撃系の攻撃であれば通りやすいが、打撃系の攻撃ができるメンバーもいないからな。
中々倒せずに苦戦を強いられていた。
(まあ普通はあんなものか)
俺は範囲魔法攻撃ができる【ウィンドボム】があるし、『マテリアルソリッド』で打撃系の攻撃もできるので、ソロでも簡単に倒せるが、普通はそうではないからな。
装備も俺よりも弱いので、ああなるのが普通だ。
(サブウェポンは用意していないのか?)
普通は初期習得アビリティで複数の武器のアビリティを取って、対応力を上げるらしいからな。
一点特化しているリッカが異端なのであって、普通はサブウェポンを用意している。
「……終わったようだな」
そして、そのまま様子を見守っていると、彼女達は何とか敵を殲滅して戦闘を終えていた。
「……む?」
と、戦闘を終えた彼女達は何故かこちらに近付いて来ていた。
「少し良いですか?」
そして、近くにまで来たところで、先頭にいた女性が感情の薄い声で話し掛けてきた。
ここで改めて彼女の姿を確認してみる。
まず、アバターの見た目の年齢は十代後半から二十代前半ぐらいだった。
胸のあたりまで長さがあるチェリーピンク色の髪は、横髪がまとめられてツインテールになっていて、潮風によって揺らめいている。
そして、その朱色の瞳はこちらのことをしっかりと捉えていた。
また、白色と髪の色と同じチェリーピンクを基調とした色の服は専用にデザインされていて、見た目にも拘っていることが分かる。
「構わないが、何か用か?」
「その前に自己紹介を。私はネムカ。『猫又商会』のリーダーです」
俺は用件を尋ねるが、その前にとそのまま彼女は自己紹介してくる。
(『猫又商会』……確か、最大規模の生産系ギルドだったな)
『猫又商会』は最大規模と言われている生産系ギルドで、始都セントラルの一等地に店を構えているのもこのギルドだ。
「俺はシャム。一応『永夜の初雪』のリーダーではあるが、まあ別にギルドらしい活動はしていないな」
ひとまず、こちらも軽く自己紹介をする。
「立ち話も何ですので、座りませんか?」
ネムカがそう言って指し示した方向を見てみると、そこには近くに座るのにちょうどいい大きさの岩があった。
「そうだな」
彼女の言うように、立ち話も何だからな。ここはあそこに座って話を聞くことにした。
「それでは、行きましょうか」
「ああ」
そして、そのままネムカの他のパーティメンバーと共に、その場所に移動したのだった。
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