episode42 スピリア荒原
スピリア荒原に出た俺達は急ぎ気味に闘都コロッセオスを目指していた。
「ゲーム内の時刻は……十四時か」
急いでスピリア荒原を抜けようとしているのにも理由がある。
急いでいる理由は夜の時刻になるとゴースト系のモンスターが出現するからだ。
ゴースト系のモンスターは魔法攻撃に対して弱い代わりに、物理攻撃に対して非常に高い耐性を持っている。
そのため、リッカの攻撃がほとんど効かず、対処が難しいのだ。
一応、俺は風魔法を使えるが、武器が初期装備な上に相手は格上だからな。
魔法攻撃に弱いと言っても、まともにダメージが通らないと思われるので、対抗することはできないと思われる。
なので、ゴースト系のモンスターが出現する夜の時間帯になる前に突破しようとしているのだ。
「……順調に行けば間に合う」
「まあそれもそうか」
このマップは割と広いが、順調に行けば間に合うぐらいの広さではあるからな。
悠長にする暇はないが、そこまで時間を気にする必要はなさそうだった。
「ところで、防具は必要ないのか?」
それはそうと、リッカは相変わらず防具を装備していなかった。
自分の意思でそうしているので、聞くまでもないかもしれないが、それで良いのか聞いてみる。
「……うん。この方が速い」
「……そうか」
被弾すると一瞬でHPが消し飛びそうだが、そうなったらそうなったで、仕方ないと割り切ることにする。
「相変わらず、プレイヤーがいなくて広々としているな」
ドラガリア荒野のときもそうだったが、他のプレイヤーがいないので、マップはかなり広々としていた。
「……早く」
「そんなに焦るな。分かっている」
リッカに急かされたところで、俺もすぐに歩き始める。
「……む?」
と、歩き始めてすぐに俺は上空の影の存在に気が付いた。
(鳥系のモンスターか?)
その影は見たところ鳥系のモンスターのようだった。
(調べることは……できないな)
そのまま詳細を確認しようとするが、距離があるせいか調べることはできなかった。
「……たぶんハンターバード」
「ハンターバード……確か、戦闘をしていると乱入して来て、急降下して攻撃を仕掛けて来るのだったな?」
「……うん」
ある程度は情報を調べているので、ハンターバードのことは知っている。
ハンターバードは基本的に上空を飛んでいて、攻撃を仕掛けて来ることはないが、戦闘状態だと乱入して攻撃を仕掛けて来るモンスターだ。
耐久力は低いので、攻撃を当てることができれば比較的容易に倒せるが、普段は上空にいて攻撃が届かないので、基本的に事前に片付けておくことはできない。
なので、乱入を予防することは難しく、戦闘中は上空に気を配っておく必要があるので、存在そのものが厄介なモンスターだ。
「まあ今は気にする必要はないし、さっさと行くか」
だが、逆に言えば、戦闘中でない限りは襲って来ないので、今は警戒する必要がないということになる。
なので、このまま気に留めずに移動することにした。
「……うん」
そして、話が済んだところで、俺達は敵に見付からないように移動を再開したのだった。
◇ ◇ ◇
「……待って」
それからしばらく移動を続けていた俺達だったが、ここでリッカが俺のことを制止してきた。
「ふむ……これは避けられそうにないな」
前方にはいくつかの敵の集団がいるが、見晴らしの良い荒原なので、見付からずに通過することはできなさそうだった。
「どうする?」
「……前の集団を倒す」
「まあそれが妥当か」
前方にいる集団は他の集団から一番離れているからな。
それを倒して行くのが一番良さそうだった。
「敵はスケルトン系で、ウォリアー二体、ナイト一体、アーチャー一体か」
確認すると、敵は斧を持ったスケルトンウォリアーが二体、剣と盾を持ったスケルトンナイトが一体、弓を持ったスケルトンアーチャーが一体の計四体だった。
「問題はアーチャーをどうするかだな」
この中で一番厄介なのは遠距離攻撃ができるスケルトンアーチャーだ。
考えもなしに突っ込むと、一方的に攻撃される可能性が高いので、対処法を考える必要がある。
「……私が先に行く。シャムはアーチャーの注意を引いて」
「それは良いが……倒せないと思うぞ?」
火力が低く、俺の攻撃ではまともにダメージが通らないだろうからな。
俺には敵を倒すことはできないと思われるので、大したことはできない。
「……私が隙を見て倒す」
「そうか」
「ハンターバードに気を付けて」
「分かっている。では、頼んだぞ」
俺はリッカの動きに合わせられるように、いつでも行ける状態にして構える。
「はっ……」
俺が構えたことを確認したところで、リッカは隙を見て敵に接近した。
「……!」
リッカの存在に気が付いたアーチャー以外のスケルトン達は一斉に接近して、アーチャーは矢を放つ。
「ふっ……」
リッカはスケルトンアーチャーの放った矢を横に跳んで躱して、そのまま他のスケルトンの相手をする。
「……ここだな」
俺はスケルトンアーチャーのターゲットが完全にリッカに向いていることを確認したところで、素早く駆け出して接近する。
「はぁっ!」
そして、そのままスケルトンアーチャーに飛び掛かって、押し倒した上で弓を抑えた。
「……!」
スケルトンアーチャーは攻撃しようとするが、俺が両腕を抑えているので、動くことができない。
「一体そっち行った」
だが、その様子を見たスケルトンウォリアーがこちらに駆け寄って来ていた。
「……!」
スケルトンウォリアーはそのまま飛び掛かって、斧を振り下ろしてくる。
「よっと……」
「……⁉」
俺がそれを前方に跳んで躱すと、スケルトンウォリアーの斧での一撃がスケルトンアーチャーに直撃した。
「……『抜刀一閃』、『抜刀連撃』」
さらに、こちらに接近していたリッカが、抜刀攻撃による範囲攻撃スキルで二体をまとめて攻撃して、そのまま抜刀攻撃から繋がる連撃で一気に畳み掛ける。
すると、あっという間に二体のHPは削れて行って、スケルトンウォリアーとスケルトンアーチャーはHPがゼロになって倒れた。
「リッカ、上だ!」
だが、ここで上空からハンターバードが俺達に迫って来ていた。
「……こっちは任せて」
「分かった。っと……」
リッカの方にはスケルトンウォリアーとスケルトンナイトも迫っているが、俺にできることはないので、彼女の方は任せることにした。
俺はタイミングを合わせて跳ぶことでハンターバードの突進を躱して、リッカの方に注意を向ける。
「……遅い」
リッカはバックステップでスケルトンウォリアーとスケルトンナイトの攻撃を躱すと、ハンターバードに狙いを定めて構える。
「はっ……」
「ピィッ⁉」
そして、タイミングを合わせて抜刀攻撃を放つと、『見切り』が発動して、ハンターバードの攻撃が弾かれた。
「ふっ……」
リッカはそのまま怯んでいたハンターバードにトドメを刺す。
「……!」
これで敵は半分片付いたが、逆に言うと敵はまだ半分残っている。
残っていたスケルトンウォリアーとスケルトンナイトはそのままリッカに攻撃を仕掛けた。
「……遅い。『抜刀一閃』、『抜刀連撃』」
だが、リッカは最適な動きで二体を翻弄して、一方的に攻撃を当て続ける。
「……これで終わり」
そして、そのままHPを削り切って、スケルトンウォリアーとスケルトンナイトを倒した。
「ハンターバードは……もう下りて来そうにないな」
戦闘が終わったからなのか、ハンターバードはもう攻撃をして来る気配はなかった。
「思っていたよりも早く片付いたな」
想定よりもダメージが通っていて、かなりHPを削れていたからな。
先のエリアで手に入る素材で作られた武器なだけはある。
「……うん。案外余裕」
リッカは複数体の敵を同時に相手していたが、彼女にとっては余裕だったようだ。
「この調子で行くか」
「……うん」
そして、無事に敵を片付けた俺達は移動を再開したのだった。
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