episode41 スピリア荒原への出発準備
「戻ったか」
拠点でしばらく待っていると、リッカが拠点に戻って来た。
「……どう?」
「一応お前の武器はできたぞ」
俺は先程作った【リザードマンの爪の刀】をリッカに渡す。
「……シャムは?」
「作ろうと思ったが、【裁縫】のアビリティは持っていないからな。【リザードマンの皮】が加工できなかったので、作れていないぞ」
皮の加工には【裁縫】のアビリティが必要だからな。俺の分の武器は作れていない。
「……NPCは?」
「加工費用で五万要求された」
NPCに依頼してみたが、五万ゼルの代金を請求されたからな。
流石に五万は出せないので、結局、俺の武器は作れていない。
「……そう」
「プレイヤーに頼むか?」
【裁縫】アビリティ持ちのプレイヤーに頼めば、NPCに頼むよりも安く作れるだろうからな。
生産系のプレイヤーに依頼するという選択肢もある。
「……他のプレイヤーには知られない方が良い」
「そうか」
だが、他のプレイヤーにリザードマンの素材を持っていることを知られることを嫌ってか、その案は却下されてしまった。
「それで、この後はどうする?」
「……このままスピリア荒原に行く」
「コスタル平野から行かなくて良いのか?」
イストールから闘都コロッセオスに向かうには二つのルートがある。
何故ルートが二つあるのかと言うと、イストールと闘都コロッセオスの間には岩山があって、真っ直ぐと向かうことができないからだ。
つまり、岩山を北か南から迂回する必要があるので、ルートが二つあるということだ。
そして、北ルートがスピリア荒原、南ルートがコスタル平野になっている。
となると、どちらから行くかという話になるが、普通は迷う余地もなくコスタル平野から向かうことになる。
その理由は単純で、スピリア荒原は難易度が高く、攻略が難しいからだ。
スピリア荒原は闘都コロッセオスの先のエリアよりも難易度が高く、エリアに進入可能になった時点での攻略は厳しい。
なので、普通はコスタル平野を通って闘都コロッセオスに向かうことになる。
「……うん。この武器あれば行ける」
どうやら、【リザードマンの爪の刀】の性能を見て、行けると踏んだらしい。
「だが、俺の武器はできていないし、防具も作っていないぞ?」
そうは言っても、作ったのはリッカの武器だけで、俺の武器はおろか、防具も作れていないからな。
この状態で攻略するのは難しいように思える。
「……私が全部何とかする」
「ドラガリア荒野で狩りができるぐらいなので、攻略できないことはないかもしれないが……狩りができているのは、倒しやすい相手を狙っているからだろう?」
確かに、ドラガリア荒野で狩りができてはいるが、それはあくまでも倒しやすい相手を狙って狩りをしているからだ。
エリアの攻略となると、狩りをするよりも難易度は上がるので、そう簡単に行くとは思えない。
「……大丈夫」
「……そうか。ならば、任せたぞ」
だいぶ自信はあるようだからな。そこまで言うのであれば、任せることにする。
「……これ、もう一本作って」
「もう一本?」
「……うん。耐久度考えると、もう一本欲しい」
まあ最初に作った【アイアンの刀】と同程度の耐久度しかないからな。
一本だと途中で破損してしまう可能性が高いので、もう一本作っておいた方が良さそうだった。
「だが、それを一本作るのにも【リザードマンの爪】を二十個使っているからな……。もう一本は作れないぞ?」
しかし、この武器を作るためには、【リザードマンの爪】が二十個必要だからな。
もうそんなに【リザードマンの爪】はないので、もう一本同じ物を作ることができない。
「……ある」
そう言うと、リッカは追加で手に入れていたリザードマンの素材を渡してくる。
「……分かった。すぐに作るので、待ってくれ」
俺は先程と同じようにして、もう一本同じ物を作製する。
「これで良いか?」
「……うん。じゃあ行こ」
「ああ」
そして、必要な準備を整えたところで、スピリア荒原に向かうために、イストールに転移したのだった。
◇ ◇ ◇
イストールに向かうと、そこにはかなりの数のプレイヤーがいた。
「やはり、ここはプレイヤーが多いな」
順当に行くのであれば、サウシアへの到達後はイストールに向かうことになるからな。
時期も時期なので、この街には多くのプレイヤーが集まっていた。
「……コロッセオスには早く行きたい」
「まあそういうプレイヤーが多いのだろうな」
闘都コロッセオスに到達できれば、解放される要素もあるようだからな。
やはり、早く到達しようと考えているプレイヤーは多いらしい。
「……コロッセオスは都市。拠点にしやすい」
「まあそれもあるか」
始都セントラルや闘都コロッセオスのような街は都市となっているからな。
活動拠点にするには都合が良いので、その目的で動いているプレイヤーも多い。
(他のプレイヤーは……コスタル平野で装備品を整えているといったところか?)
ここで他のプレイヤーの様子を見てみると、闘都コロッセオスへ向かうために装備品を整えているところのようだった。
「……シャムは戦闘スタイルは決めた?」
と、ここでリッカがそんな質問を投げ掛けてくる。
「いや、まだ決まっていないな」
もはやSPも全然振っていないしな。戦闘スタイルはまだ定まっていない。
「リッカはどんな感じなんだ?」
「……敏捷中心」
リッカはそう言いながら自分のステータス画面を見せてくる。
「敏捷に偏っているな」
彼女のスタイルのグラフを確認すると、補正が敏捷に偏っていた。
ここでスタイルの説明をしておくと、スタイルというのはプレイスタイルによって自動的に変化する補正のことだ。
補正はレーダーグラフの形で示されて、初期値は種族によって決まっている。
補正の変化は自動的に行われて、例えば、リッカのように回避を前提とした速度特化の戦闘スタイルで戦っていれば筋力や敏捷が上昇して、靭力や理力の補正は低下する。
「……うん。SPも敏捷寄りに振ってる」
「……そのようだな。と言うか、知らない内にステータスボードもアビリティも増えているな……」
あまり戦闘をしていない俺とは違って、リッカはかなり戦闘をこなしているからな。
俺の知らない内にステータスボードもアビリティもだいぶ増えていた。
「……シャムが戦闘しなさすぎなだけ」
「仕方がないだろう? お前がほとんど片付けてしまうのだからな」
基本的にはリッカが先行して、それを俺がサポートする形になるからな。
元々の戦闘能力がリッカの方が高いことも相まって、どうしても俺は戦闘の機会が少なくなってしまう。
「まあ良い。さっさと行くぞ」
「……うん」
ステータスの詳細を見ていると、少々時間が掛かりそうだからな。
ステータスの確認は後回しにして、出発してしまうことにした。
そして、話が済んだところで、そのままスピリア荒原に向かったのだった。
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