episode38 エルリーチェの研究所

 三人と別れた俺とリッカは依頼の品を納品するために研究所へと向かっていた。


「ここは研究所だ。許可された者以外は……む、お前達か。調子はどうだ? 依頼していた物は集まったか?」


 研究所の前に来たところで、兵士に話し掛けられる。


「【自然の結晶】以外は集まったぞ」


 ここで俺は警備をしている兵士の男に依頼の品である【メタルローズ】と【原初の石】と【竜脈鉱】を取り出して見せる。


「確かに依頼の品だな。では、預かっておこう」

「ああ」

「それならあたしが預かるよ」


 兵士の男に依頼の品を渡そうとしたそのとき、後方から声を掛けられた。

 振り返って確認すると、そこには研究所の所長であるエルリーチェが立っていた。


「帰って来ていたのですね、所長」

「ちょうどさっきね。二人とも悪いね。追加の依頼も出しちゃって」

「いや、気にするな」

「それじゃあ渡してくれる?」

「ああ」


 俺はそのままエルリーチェに【メタルローズ】と【原初の石】と【竜脈鉱】を手渡す。


「【自然の結晶】は手に入ったら渡してくれれば良いよ」

「そう言ってくれると助かる」

「さて、報酬の話だけど、折角だし中で話さないかい?」

「良いのか?」


 研究所は許可された者しか入ることができないようだが、当然、俺達にはそんな許可は下りていない。

 なので、本当にそれで良いのかと確認を取る。


「所長のあたしが良いって言ってるんだから、大丈夫だって」

「まあそれもそうか」


 所長である彼女がそう言うのであれば許可が下りたも同然だし、何も問題はないか。


「それじゃあ付いて来て」

「ああ」

「……うん」


 そして、所長であるエルリーチェに許可をもらった俺達は、研究所に足を踏み入れたのだった。



  ◇  ◇  ◇



 研究所に入った俺達は研究室らしき部屋に案内されていた。

 室内には研究用の設備の他、研究に使う物だと思われる素材アイテムがあちこちに置かれている。


(【氷角兎の纏氷角】、【鉱石亀の宝珠鉱】、【炎竜の爪】……どれも聞いたことのないアイテムばかりだな)


 置かれているアイテムの名前を確認していくが、どれも聞いたことがないアイテムだった。


「とりあえず、適当に座りなよ」

「ああ」

「……うん」


 エルリーチェに促されたところで、ちょうど近くにあった椅子に座る。


「ここは研究所らしいが、何の研究をしているんだ?」


 研究所内に案内されたのは良いが、俺達は研究の内容など、この研究所のことをよく知らない。

 なので、少しそのあたりのことを聞いてみることにする。


「色々と研究してるけど、モンスターの生態の調査や素材の活用方法の研究がメインだね」

「素材の活用方法か……」


 聞いた感じだと、彼女は装備品やアイテムの作製方法に詳しそうだった。


「まああたしは古代技術の研究がメインだけどね」

「そうなのか」

「さて、その話は置いておいて、そろそろ本題に入ろうか。報酬についてだけど、何か希望はある?」


 ここで話は本題である報酬に関してのことになる。

 報酬はある程度こちらの希望に沿ってくれるようなので悩み所だが、希望する報酬はもう事前に決めてある。


「情報はどうだ?」


 そう、俺が報酬として要求しようと考えていたものは情報だ。

 普通にお金やアイテムを要求するという選択肢もあったが、始まったばかりのこのゲームにおいて、情報には大きな価値がある。


 それに、どうせお金やアイテムを得ても大したアドバンテージにはならないからな。

 ここは情報を報酬として要求することにしたのだ。


「内容によるかな。何の情報が欲しいの?」

「これに関しての情報はないか?」


 俺はそう言いながら【風化した剣】を取り出す。

 聞く情報には優先度を付けていくつか候補を用意していて、研究所の研究内容を聞いてからどれを聞くか決めるつもりだったが、古代技術の研究をしているという彼女であれば知っている可能性が高いので、風化した武器のことについて聞いてみることにした。


「あるよ。それについても研究したからね。よく知ってるよ」

「では、聞いても良いか?」

「うーん……流石にこれだけで教えるわけにはいかないかな」


 だが、今回の依頼をこなした程度では情報料としては足りないらしい。


「どうすれば良い?」

「そうだね……じゃあこれらの素材を届けてくれない?」

「……つまり、運搬依頼か?」

「まあそういうことだね。本当は【炎竜の真紅核】の納品依頼を出したかったけど、あんた達の実力だとまず無理だからね。依頼をこなせるだけの実力を付けたら、改めて依頼を出すよ」

「そうか。とりあえず、依頼の内容を聞かせてくれるか?」


 依頼の内容を聞かないことには判断できないからな。まずは依頼の詳細を聞いてみることにする。


「分かったよ。依頼は闘都コロッセオスにいるミルファに素材を届けることだよ」

「ミルファ?」

「この研究所の副所長だよ。今は別件で闘都コロッセオスにいてね。錬金は彼の担当だから、素材を届けて欲しいってことだよ」

「なるほどな」


 先程エルリーチェは古代技術の研究がメインと言っていたしな。

 錬金は彼女の担当ではないようで、素材を錬金の担当であるミルファに渡しに行って欲しいらしい。


「それで、どうするんだい?」

「もちろん、受けさせてもらう」


 闘都コロッセオスにはその内向かうことになるからな。

 そのついでと考えれば手間は掛からないので、喜んで受けさせてもらうことにする。


「分かったよ。それじゃあミルファについて話しておくね」

「ああ、頼んだ」


 ミルファについてのことを聞いておかないと、渡しに行けないからな。

 まずはその男の特徴などを聞いておくことにする。


「ミルファはあたしと歳は同じぐらいだけど、エルフだから見た目は若いよ。そこのリッカと同じぐらいだね。闘都コロッセオスにある研究所に籠ってるか、スピリア荒原で調査をしてると思うから、そこを探してみると良いよ」

「スピリア荒原か……」


 スピリア荒原はイストールの北西側、闘都コロッセオスの北東側にあるエリアで、行こうと思えば行けるエリアなので、問題ないように思える。

 だが、ドラガリア荒野ほどではないが、敵が強いので今の段階で行くには少々厳しい場所だった。


(まあ闘都コロッセオスの方で待てば問題ないか)


 とは言え、闘都コロッセオスへはスピリア荒原を通らずとも行けるし、闘都コロッセオスで待っておけばスピリア荒原に行く必要はないからな。

 そう考えると、特に問題はなさそうだった。


「ドラガリア荒野に行ったことのあるあんたらには何の問題もないだろう?」

「まあそれはそうだが……って、何故そのことを知っているんだ?」


 ドラガリア荒野での件はエルリーチェには話していないからな。彼女はそのことを知らないはずだ。


「アリカから聞いたからね」

「知り合いなのか?」

「まあね。それじゃあそろそろ話を始めようか」

「ああ、頼んだ」


 そして、話が纏まったところで、報酬である風化した武器の話に移ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る