episode37 初めてのダンジョン攻略を終えて

「ふぅ……やっと終わったね」

「そうだな」


 くまなくダンジョンを探索してマップを全て埋めた俺達は、最深部である部屋の前にまで来ていた。

 最後の部屋には中央に宝箱が一つ置かれているだけで、それ以外の物は特に見当たらない。


「何と言うか、呆気なかったな」


 最初に攻略することを想定してか、特にギミックもなかったからな。

 攻略はあっさりと終わってしまっていた。


「だね。それにしても、持ち物がパンパンになるなんて思わなかったね」

「そうだな」


 全ての採掘ポイントで採掘していたので、モンスターのドロップ品も含めて、持ち物は一杯の状態になっていた。

 採掘のハズレ枠である【石ころ】を捨てて枠を空けていたが、それももう限界に近い。


「まあ初期のリュックだと枠が二十枠しかないからな。それも仕方がないか」


 俺達が今使っているリュックは初期のリュックで、枠が二十枠しかないからな。それも仕方がない。


 ちなみに、二十枠とは言っても、二十個しか持てないということではない。

 一枠で一スタック分のアイテムを持つことができるので、最大で二十スタック分のアイテムを持つことができる。


 スタック数はアイテムによって異なるが、基本的に素材アイテムは九個であることが多い。

 もちろん、あくまでそれは基本なので、例外は存在する。

 今回入手したアイテムの中であれば、【風化した弓】が素材アイテムであるにも関わらず、スタック数が一に設定されていた。


「これだと、ツール類も必要最低限にしないと、すぐに溢れそうだね」

「そうだな」


 ピッケルなどのツール類は一個で一枠使うので、採集メインの場合は必要最低限の物に絞らないと、すぐにアイテムが溢れてしまいそうだった。


「今回はアイテムの種類が少ないので何とかなったが、この様子だともっと枠の多いリュックにした方が良さそうだな」


 アイテムスタックの仕様の関係で、アイテムの種類が増えるとすぐに枠が埋まってしまうからな。

 アイテムの種類が少なかった今回でもこのような状態なので、できるだけ早くもっと枠の多いリュックに変えた方が良さそうだった。


「コッコアイアン製のピッケルが大活躍だったな」

「だね。まさか、シャムが新素材を開発してたなんてね」

「新素材?」

「あれ? 知らないの? コッコアイアンっていう新素材を使ったピッケルが売られてるって話題になってたよ」


 俺はあまり情報を調べられていないので知らなかったが、ネット上ではコッコアイアン製のピッケルが話題になっていたらしい。


「そうだったのか。ソール、聞くがベータ版のときはコッコアイアンはなかったのか?」

「ああ、なかったぞ。本リリースで実装されたんじゃないか?」

「ふむ、そうか」


 どうやら、ベータ版のときには未実装の素材だったらしく、俺が最初に発見したことになっていたようだ。


「ねえ。話はそれぐらいにして、宝箱を開けてみない?」

「それもそうだな」


 ここで話をしていても仕方がないので、早速、宝箱の中身を確認してみることにした。

 俺が代表して宝箱に近付いて、宝箱を開ける。


「ふむ、【風化した剣】か。お前達はどうだ?」


 宝箱の中身はプレイヤーごとに受け取ることができるので、他のメンバーが何を手に入れたのかを確認してみる。


「……【坑夫の御守り】だった」

「あたしも【坑夫の御守り】だったよ」

「俺も【坑夫の御守り】だな」

「俺は【風化した刀】か……」


 どうやら、アッシュ以外の三人が入手したアイテムは【坑夫の御守り】という装飾品だったようだ。


「でも、これは『坑夫の技術』が付いてないし、ハズレかな」

「……同じく」

「俺は付いてたぞ」


 ソールはそう言いながら手に入れた【坑夫の御守り】を見せ付けてくる。


「『坑夫の技術』? 何なんだそれは?」

「えっと……ダンジョンの宝箱で手に入る装備品は付与される効果がランダムっていうことは知ってる?」

「ああ」


 もちろん、そのことは知っている。

 鍛冶などで作製した装備品に付与される効果は決まっているが、ダンジョンの宝箱で入手できる装備品にはいくつか効果があり、その中からランダムに決定されるという仕様になっている。


「それなら話は早いね。『坑夫の技術』は【坑夫の御守り】の固有の効果だよ」

「なるほどな。どんな効果なんだ?」

「採掘のときに確率でピッケルの耐久度の消費を抑えてくれるっていう効果だよ」

「そうか」


 どうやら、採掘専用の装飾品のようで、採掘に便利な効果を持っているようだ。


「とりあえず、ダンジョンの攻略は無事に終わったし、帰ってアイテムを分けるか」


 アイテムスタックの関係で、同じアイテムは同じプレイヤーが持った方が枠を節約できるので、今はそれぞれで担当するアイテムを決めて持っている。

 なので、それらを全員で分ける必要があるが、帰ってからの方が良さそうなので、まずは街に戻ることにした。


「そうだね。それじゃあ脱出ポイントからから外に出よっか」


 ダンジョンの最深部には脱出ポイントという、調べると外に出ることができるポイントがあるので、ダンジョンクリア後はそのまま外に出ることができる。

 なので、そこから外に出て、街に戻ることにした。


「そうだな」


 そして、ダンジョンの攻略を終えた俺達は、奥にあった脱出ポイントである光球を調べて、ダンジョンを後にしたのだった。



  ◇  ◇  ◇



 セントラル坑道の攻略を終えて街に戻った俺達は、ギルド拠点でアイテムの整理をしていた。


「結構集まったな」

「だね」


 今回集まったアイテムを床に並べて置いてみると、リュック一杯に持ち帰ったとだけあって、かなりの量になっていた。


「特にレア素材の【原初の石】が五つも手に入ったのは大きいな」


 その中でも特に大きな収穫は【原初の石】だ。

 これまで全然出なかった分の反動が来たのか、今回だけで五つも手に入った。


「それにしても、結局これは何なんだろうな」


 俺はそう言いながら宝箱で手に入れた【風化した剣】を手に取る。


 【風化した○○】シリーズのことは調べてみたが、結局使い道は分からなかったからな。

 これが何なのかは不明なままだった。


「磨いたら何とかなったりしないかな?」

「一応試したが、無理だったぞ」


 以前手に入れた【風化した刀】を磨けそうな物で磨いてはみたが、何の変化も無かったからな。それは既に実験済みだ。


「そうなんだ」

「結局のところ、分かっていることは適当な素材を使って直すと、武器として使えるようになるということだけだな」


 攻略サイトで調べてはみたが、分かったことは適当な金属類や鉱石類などの素材を用いて直すと、「古代の」という名を冠する武器になって、武器として使えるようになるということだけだった。


 しかも、武器として使えるとは言っても、錆び付いているせいなのか使い物にならないレベルに弱い。

 加えて、強化することもできないらしいからな。もはや救いようがないレベルだ。


 ちなみに、何故か耐久度だけは異常に高いらしいが、残念ながらこれだけ弱いと利点にもならない。


「レア素材に設定されているぐらいだし、何か大きな秘密があることは間違いないだろうが、それが何なのかは不明といったところだな」


 恐らく、何かしらの手段で錆びを取って元の状態に復活させられるのだろうが、今のところその方法は不明だ。


「で、分配はどうするんだ?」


 ここでソールが今回のダンジョン攻略で得られた報酬の分配についてのことを聞いてくる。


「それはソールとアッシュに任せるぞ」


 基本的にはベータテスターだったソールとアッシュの方が詳しいからな。

 こういうことは二人に任せることにする。


「分かった。じゃあ少し待っててくれ」


 任された二人は各アイテムの個数を確認して、それぞれに分配していく。


「それじゃあこんなところでどうだ?」


 そして、分配が終わったところで、アイテムを渡してきた。


「【原初の石】を全部もらって良いのか?」


 渡されたアイテムを確認してみると、レア素材である【原初の石】が五つ全てこちらに分配されていた。

 ミスではないとは思うが、念のためにそれで問題ないのか確認を取る。


「俺達が持ってても、売るぐらいしかないからな。別に構わないぞ」

「そうか」

「それと、ついでにこれも渡しておくぞ」

「これは……【メタルローズ】か。良いのか?」


 ソールが渡してきたものは【メタルローズ】だった。

 これもレア素材のはずなので、本当に受け取ってしまっても良いのかどうか確認を取る。


「別に良いぞ」

「そうか。では、遠慮なく受け取っておこう」


 断っても仕方がなさそうだからな。ここは素直に受け取っておくことにした。


「じゃあ俺達はもうログアウトするぞ」

「ああ。またな」


 ソールとアッシュは大学の講義があるからな。

 俺が別れの言葉を言うと、二人はそのままログアウトして姿を消した。


「じゃああたしももう行くね」


 それに続いて、クオンもログアウトする。


「……この後どうする?」

「一度エルリーチェの元に向かってみるぞ」


 【自然の結晶】はまだ手に入っていないが、【竜脈鉱】と【自然の結晶】はできればと言っていたからな。

 一度エルリーチェの元に向かって、頼まれていた【原初の石】、【メタルローズ】、【竜脈鉱】の三つを渡しに行くことにした。


「……分かった」

「では、行くぞ」


 そして、方針が決まったところで、研究所へと向かったのだった。

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