episode36 初めてのダンジョン

「ここがセントラル坑道みたいだね」


 俺達は目的地であるセントラル坑道に一直線に向かって、その前にまで来ていた。


「ふむ、内部はある程度は明るいようだな」


 中を覗いてみると、通路には等間隔で明かりが吊り下げられていたので、坑道内は必要な明るさが確保されていた。


「そう言えば確認していなかったが、ここはどんな感じのダンジョンなんだ?」


 それはそうと、まだこのダンジョンのことについて聞いていなかったので、ソールに聞いてみることにする。


「その名の通りに坑道のダンジョンだな。あまり広くないし、ボスもいないから攻略は簡単だぞ」

「そうか」


 最初に攻略することを想定してなのか、難易度はかなり低く設定されているらしい。


「では、行くか」


 問題がないことを確認したところで、早速ダンジョンに足を踏み入れる。


「早速、採掘ポイントがあるな」


 ダンジョンに入ると、すぐに採掘ポイントを発見した。


「そう言えば、シャムは【原初の石】が欲しいんだったよね?」

「ああ」


 エルリーチェに【原初の石】の納品を依頼されているからな。

 採掘ポイントが多いこのダンジョンで何とか確保しておきたいところだ。


「それじゃあ採掘してみよっか」

「そうだな」

「俺も採掘するぞー」


 話をしているだけでは何も進まないので、採掘を始めることにした。

 俺は取り出したピッケルを採掘ポイントに向けて勢いよく振り下ろす。


「やはり、一回で採掘できるのは楽だな」


 【竜脈鉱】の採掘のときには何度もピッケルを振り下ろす必要があったからな。

 一回振り下ろすだけで採掘できるのはやはり楽だ。


「ふむ、出ないか」


 そのまま採掘できるだけ採掘したが、目的の【原初の石】は出なかった。


「【竜脈鉱】はすぐに出たし、文句は言えないか……」


 【竜脈鉱】は数回の採掘で手に入ったからな。

 その分で確率が集約しているだけだと言われると、文句は言えない。


「【竜脈鉱】? もしかして、竜人用のエリアに行ったのか?」


 ここでそれを聞いたソールがそんなことを聞いてくる。


「ああ。エルリーチェに頼まれた【竜脈鉱】を採りに行っていてな」

「どこまで行ったんだ?」

「ドラガリア峡谷まで行ったぞ」


 少し調べてみたが、ドラガリア荒野の採掘ポイントは点在しているだけで、纏まった数の採掘はできそうになかったからな。

 わざわざドラガリア峡谷まで行って採掘をした。


「よくそこまで行けたな」

「まあ敵は避けて行ったからな」


 敵はとてつもなく強かったが、戦闘は避けたからな。

 手間は掛かったが、そこまで大きな問題はなかった。


「ついでに色々あったが……まあその話は後で良いか」


 少し長くなりそうだからな。

 ドラガリア峡谷での出来事についての話は後ですることにする。


「ねえ、早く行こー」


 と、そんな話をしていたところで、クオンが急かしてきた。


「……そうだな。リッカ、ソール、先頭は頼んだぞ」


 俺、クオン、アッシュは前衛には向いていないからな。

 真っ先に接敵することになる先頭はリッカとソールに任せることにする。


「……分かってる」

「任せておけ!」


 そして、リッカとソールを先頭にして、坑道の奥へと足を踏み入れたのだった。



  ◇  ◇  ◇



「……いる。止まって」


 坑道を進んでいると、早速敵を発見した。

 そのモンスターは体長が四十センチメートルほどのコウモリのモンスターで、今は天井からぶら下がっている。


「ふむ、洞窟コウモリか」


 確認すると、このモンスターの名前は洞窟コウモリだった。

 ここは洞窟ではなく坑道なのだが、ここでしか出ないモンスターというわけではなく、実際に洞窟でも出るモンスターらしいので、そこには突っ込まないことにする。


「全部で五体か。どうする?」

「……二人で先制して。私とソールがその後に行く」

「分かった」

「分かったよ」


 作戦は遠距離攻撃ができる俺とクオンが先制攻撃を仕掛けて、その後にリッカとソールが突っ込むという、至ってシンプルなものだった。


「風属性で攻撃して」

「風属性?」

「うん。風弱点だし、落ちて隙できる」

「……後半をもう少し詳しく説明してくれないか?」


 とりあえず、風属性が弱点ということは分かるのだが、後半の「落ちて隙ができる」という部分はこれだけだと詳細が掴めない。


「それはあたしが説明するよ! 洞窟コウモリは天井にいるときに風属性のダメージを受けると落下して、そこで隙ができるんだよ。さらに、地面に落ちてる間は行動不能扱いになるから、攻撃がクリティカルになって大ダメージを与えられるよ!」

「なるほどな。丁寧な説明で助かる」


 スタン状態や怯み中など、行動不能の相手に攻撃を当てると、攻撃を当てた部位に関係なくクリティカル判定になるからな。

 その仕様はうまく利用したいところだ。


「アッシュはどうする?」

「俺は適当に後方から補助する。まあこの程度の相手では俺の出番はないと思うがな」


 アッシュはヒーラーだからな。まだ始まったばかりで、補助系のスキルも習得できていないと思われるので、彼には適当に後方で見ていてもらうことにする。


「分かった。では、やるか。クオン、合わせろ」

「分かってるよ」

「『ウィンドショット』」

「『スピニングアロー』!」


 そして、方針が決まったところで、二人でタイミングを合わせてスキルによる攻撃を放った。


「……!」


 すると、風属性による攻撃を受けた洞窟コウモリは落下して、地面に叩き付けられた。

 落下した洞窟コウモリは地面をじたばたとして、起き上がろうともがく。


(風属性さえ入っていれば、ダメージ量に関係なく落下して隙ができるようだな)


 クオンの放った『スピニングアロー』は矢をドリルのように回転させることで風を纏わせて、攻撃が当たった相手に微弱な風属性の追加ダメージを与えるというスキルだ。

 そして、その微弱なダメージでも洞窟コウモリは落下したので、風属性のダメージさえ入れば落下するようだった。


「……斬る」


 俺とクオンが攻撃を放つと同時に飛び出していたリッカとソールは、既に攻撃が届く位置にまで接近していた。

 リッカは居合斬りから流れるようにそのまま連撃を放って、地面に落下した二体の洞窟コウモリのHPを一気に削っていく。


「じゃあ俺はこっちを相手するぞ」


 ソールは残った三体の洞窟コウモリのターゲットを取って、そちらの相手をしていた。

 盾で攻撃を防いで、隙を見て剣で攻撃を叩き込んでいく。


(リッカの方は問題なさそうだな)


 彼女は動けない洞窟コウモリを一方的に攻撃している状態だからな。

 ここはソールの方を援護することにした。


「援護するぞ。『ウィンドショット』」

「行くよ。『スピニングアロー』!」


 俺とクオンはソールが相手している洞窟コウモリに向けて攻撃を仕掛ける。


「……片付いた」


 ここで自分が担当していた洞窟コウモリを倒したリッカは、ソールの方に加勢した。

 そのまま着実に敵のHPを削っていって、後一撃というところまで敵のHPを削る。


「これで終わりだよ! 『スピニングアロー』!」

「『ウィンドショット』!」

「……『居合斬り』」

「『スラッシュ』!」


 そして、それぞれで攻撃を放って、洞窟コウモリにトドメを刺した。


「ふぅ……何とか片付いたね」

「そうだな」

「回復するぞ」


 戦闘が終わったところで、アッシュがソールを回復させる。


「ヒーラーが一人いると便利だな」


 【HP回復ポーション】を使わなくて済むからな。ヒーラーがパーティに一人いると、かなり便利だ。


「だろ?」

「とりあえず、洞窟コウモリは何とかなりそうだが、他の敵は大丈夫なのか?」


 洞窟コウモリは風属性の攻撃を受けると落下して動けなくなるという、致命的な弱点があるので何とかなるが、他の敵はどうなのか分からない。

 なので、少しそのあたりについてソールに聞いてみることにする。


「洞窟コウモリ以外にはたまにアースモールが出るぐらいだし、この戦力なら余裕だぞ」

「そうか」

「と言うか、シャムは調べてないのか?」

「誰かさんが家事を押し付けるせいで、あまり時間が取れなくてな」


 リッカは普段ならある程度は手伝ってくれるのだが、今はこのゲームに夢中なせいか、情報収集ばかりをしていてあまり手伝ってくれなかったからな。

 そのせいで俺は普段よりも家事で忙しかったので、あまり調べることができなかった。


「……悪い?」


 それを聞いたリッカはこちらの方を見て睨んでくる。


「……いや、何でもない」


 ここで注意してしまうと、不貞腐れて面倒なことになりそうなので、今は注意するのを止めておくことにした。


「それにしても、構えは居合メインなんだね」


 リッカの戦闘スタイルを見たクオンがそんなことを言う。


「……うん。早めに決めた方が良いし、これに決めた」

「攻略サイトでは他の構えの方が評価されてたけど、それでも居合の構えを選んだんだね」

「うん。試したけど、これが一番使いやすかった」


 どうやら、一般の評価とは違って、リッカにとっては居合の構えが一番使いやすかったようだ。


「まあ結局のところ、自分に合うスタイルでやるのが一番良いということだな」

「それもそうだね。それじゃあこの調子で行こっか」

「ああ」


 そして、そのままダンジョンのマップを埋めながら、最深部を目指したのだった。

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