episode33 アッシュ
始都セントラルに戻った俺達は店に戻って、アイテムを作成しながらソール達が来るのを待っていた。
「む?」
と、アイテムの作製をしていたところで、以下のようなことが記載されたダイアログが表示された。
【このエリアへのアクセス権限を持たないプレイヤーからアクセスの申請がありました。以下三名のアクセスを許可しますか? プレイヤー名:【ソール】、【アッシュ】、【クオン】】
何かと思って確認してみると、どうやら、三人がこのエリアにアクセスしようとしているところのようだった。
当然のことではあるが、店や拠点などのプライベートエリアは、本人や関係者にしかアクセスすることができない。
だが、許可があれば関係者でなくともアクセスすることが可能になる。
ただし、与えられるのはアクセスの許可だけで、そこにある施設を利用したりすることはできないので、その点は注意が必要だ。
「アッシュも来たか。とりあえず、許可しておくか」
そして、選択肢の「はい」を選択すると、三人が入口から拠点に入って来た。
「見に来てやったぞー。そっちは順調か?」
「まあな」
「ふーん……これがシャムの買った店なんだ」
そう言って、クオンは店内を見回す。
「何か内装は寂れてるって感じだね」
「見ての通り、裏路地にあるような店だからな。内装は資金に余裕ができるまではお預けだな」
店内は必要最低限の棚などが置かれているだけなのに加えて、それらも少し古びているので、クオンの言うようにかなり寂れているような印象を受ける。
だが、内装を変えるにしても資金が必要になるので、お金にある程度余裕ができるまではこのままにしておくことにする。
「……あれ、誰?」
ここでリッカが見覚えのない眼鏡を掛けた男に視線を向けながら、そんなことを尋ねてくる。
「アッシュ、リッカに自己紹介してやってくれるか?」
俺が紹介しても良いが、折角なのでここは本人に自己紹介させることにした。
「分かった。俺はアッシュ。ソールと同じくベータテスターだ。見ての通り、ソールと同じギルドでヒーラーをやっている」
紺色の短髪にダークブラウンの瞳をしたアバターの彼は、ソールと同じく俺の友人の
「と言うか、こちらでも伊達眼鏡をしているのか」
彼は現実世界でも伊達眼鏡をしているが、この仮想空間内でも伊達眼鏡をしていた。
このゲームでは眼鏡を掛けたところで視力に補正が掛かるような効果はなく、彼が掛けている眼鏡は装備品でもないので、その眼鏡が伊達眼鏡なのは明らかだった。
「何か問題はあるか?」
アッシュはそう言いながら中指で眼鏡を軽く押し上げる。
「いや、別に」
とは言え、特に何か問題があるわけでもないので、これ以上このことには言及しないことにする。
「それで、彼女がリッカか?」
「ああ。リッカ、自己紹介してやれ」
「…………」
リッカに自己紹介するよう促すが、彼女は一言も発せずに俺の後ろに隠れてしまった。
「……リッカ、俺以外の者とも話せるように、少しは努力したらどうだ? このままだと、いつになってもそのままだぞ?」
少なくとも、このままだと彼女のコミュ障は一生直りそうにないからな。
それを改善するためにも、少しずつ他人とも話せるように努力して欲しいところだ。
「……シャムがいる」
だが、それでも他人とは話そうとせずに、そう言って俺の左腕に抱き付いて来た。
「……いつまでも俺が何とかしてくれると思うなよ?」
「むぅ……」
「不貞腐れても変わらないぞ? いい加減、自立できるぐらいにはなってもらわないと困る」
いつまでも面倒を見るわけにはいかないからな。最低限、自立できるぐらいにはなってもらいたいところだ。
「…………」
それに対してリッカは無言のまま抱き付く力を強める。
「……安心しろ。しばらくは面倒を見てやる。生活態度も少しずつ改善されていって、確実に良い方向に進んでいるし、お前ならその内できるようになるはずだ」
俺はそう言って空いている右手で優しくリッカの頭を撫でる。
すると、リッカは俺の左腕を放して、今度は正面から抱き付いて来た。
「……うん!」
リッカはそれを聞いて安心したのか、安らいだ表情をしながら体重をこちらに預けてくる。
「ふーん……随分と仲が良いんだねー」
ここでその様子を見ていたクオンが、じっとこちらを見ながらそんなことを言ってくる。
「一応、二年半は一緒に住んでいるからな」
「そうだよね。二年半も同棲してたら、そうなるよね」
「……そういう関係ではないのだが?」
「ホントにー?」
クオンはそう言って疑いの目を向けてくるが、俺達は彼女が思っているような関係ではない。
「リッカも言ってやってくれるか?」
「…………」
リッカにも否定するよう求めるが、彼女は何も言わずに、こちらから視線を外して
「……? どうした?」
だが、その反応には少々違和感があり、いつもと少し様子が違うような気がした。
「シャムってこういうのに疎いとは思ってたけど、まさかここまで鈍感なんてねー」
「何の話だ?」
「別にー? 何でもないよー?」
クオンは何か分かっているようだが、教えるつもりはないようだった。
「なあ、その話はそのぐらいにして、アッシュをフレンド登録したらどうだ?」
「それもそうだな。アッシュ、リッカも登録するが良いな?」
「構わないぞ」
ソールの言うように、アッシュのフレンド登録がまだなので、ひとまず、彼をフレンド登録をすることにした。
メニュー画面からフレンドの項目を選択すると、アッシュからの申請があったので、それを承認する。
「これで良いな」
「それで、店の方はどうだ? 経営はできそうか?」
「ある程度方針は決まっているし、多分何とかなると思うぞ」
一応、店の経営方針は既にある程度決まっているからな。
後はそれが軌道に乗ってうまく行くかどうかといったところだ。
「少しそのあたりについて話しておくか」
三人とも気になっているようだからな。
ここで俺は店の経営方針について話しておくことにした。
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