第2章 二日目
episode31 二日目の朝にて
「……起きて」
「む……」
俺はその声で目を覚ます。
「……六華か」
目を覚ますと、ベッドの隣には六華が立っていた。
どうやら、わざわざ起こしに来てくれたらしい。
ここで時計を確認すると、普段の起床時刻よりも少し早い時間だった。
「どうしたんだ?」
普段は起こしに来るようなことはないからな。
何か用があるようなので、ひとまず、用件を聞いてみる。
「……朝食作って」
どうやら、早く朝食を済ませて、『Origins Tale Online』にログインしたいらしい。
「仕方がないな……」
一日のログイン時間には上限が設定されているので、早めにプレイを始める必要はないのだが、起こされた以上は仕方がないので、さっさと朝食を済ませてしまうことにした。
「とりあえず、着替えてこい」
六華は起きてからそのまま俺の部屋に来たらしく、まだ寝巻のままだからな。
まずは着替えてもらうことにする。
「……外には出ない」
だが、外出の予定がないことを理由にそれを拒否してきた。
「そういう問題ではない。早く着替えてきてくれ」
「……非効率」
「そこは効率を求めるようなところではない」
「むぅ……」
再度、着替えるよう言うが、彼女は不満そうに頬を膨らませるだけで、動こうとはしない。
「……寝るか」
俺は寝返りを打って反対側を向いて、そのまま布団に潜る。
「……分かった。着替える」
すると、その様子を見て理解したのか、着替えをしに部屋を出て行った。
「全く……手間が掛かるな。……とは言え、最初の頃と比べるとだいぶ成長はしたか」
最初の頃は好き勝手にしていてあまり言うことは聞かず、俺が世話をしてやらなければならないような状態だったからな。
まだまだ手間は掛かるが、成長は見られるので、それに期待してこれ以上は特に何も言わないでおく。
「……さっさと着替えて行くか」
この後は朝食も作らなければならないからな。
軽く情報収集もしておきたいので、さっさと着替えてからリビングに向かうことにした。
そして、その後は手早く着替えを済ませて、机の上に置いてあるスマホを手に取ってからリビングに向かったのだった。
◇ ◇ ◇
リビングに向かうと、そこでは先に着替えを終えた六華がソファーに座ってスマホを弄っていた。
「とりあえず、簡単なもので良いか。六華、インスタントのスープを作っておいてくれるか?」
朝食で大層なものを作るつもりもないし、情報収集もしておきたいからな。
朝食のメニューは食パンとベーコンエッグ、それとインスタントのオニオンスープという簡単なものにすることにした。
「……分かった」
六華はスマホをテーブルの上に置くと、電気ケトルに水を入れてお湯を沸かし始める。
「さて、さっさと作るか」
インスタントのスープは任せて良さそうなので、俺は他のものをぱぱっと作ってしまうことにした。
まずはフライパンを取り出して、油を引いてから加熱を始める。
このフライパンはフッ素樹脂加工のフライパンだからな。
空焚きはフッ素樹脂塗膜が剥がれる原因になるので、忘れずに先に油を引いておく。
そして、温まるのを待っている間に食パンをトースターに入れて、冷蔵庫から卵とベーコンを取り出した。
「……そろそろか」
油の粘性がなくなって、温まったことを確認したところで、ベーコンを投入して卵を割り入れる。
「皿は……む?」
と、ちょうど卵を割り入れたタイミングで、スマホにメッセージが届いた。
「……火坂か」
皿を取り出しながら確認してみると、メッセージは火坂からのものだった。
(後で確認するか)
今は調理中で手が離せないからな。
内容は調理が済んでから確認することにした。
「……こんなところか」
それから少し待って、ちょうど良い焼き具合になったところで、火を止める。
そして、そのまま焼き上がったベーコンエッグを皿に移した。
「ちょうどパンも焼けたな」
ここでトースターがチンと鳴って、パンが焼けたことを知らせていた。
俺はすぐにトースターからパンを取り出して、それをそのまま皿に移す。
そして、パンとベーコンエッグが揃ったところで、皿を持って食卓に向かった。
「六華、できたぞ」
食卓に向かうと、そこには出来上がったオニオンスープと必要な食器が用意されていて、いつでも朝食が摂れる状態になっていた。
食卓に着いたところで、俺は持ってきた皿を並べる。
(メッセージの内容を確認しておくか)
早速、朝食にしたいところだが、その前に火坂からの確認することにした。
ポケットからスマホを取り出して、メッセージを確認する。
『今時間空いてるか?』
メッセージの内容は時間があるかどうかを確認するものだった。
『ああ』
時間はあるからな。適当にそのことを伝える旨を含んだ返答をする。
すると、すぐにメッセージが返ってきた。
『一緒に「Origins Tale Online」やらね? 灰島もいるぞ』
返ってきたメッセージは予想通りのもので、「Origins Tale Online」を一緒に遊ばないかと誘ってきた。
『大学の講義はどうした?』
今日も平日だからな。大学の講義があるはずだが、そこは大丈夫なのかどうかを聞いておく。
『今日は十時半から』
『そうか』
どうやら、昨日とは違ってサボったわけではないらしい。
『三十分後で良いか?』
こちらは朝食がまだだし、その後片付けや家事もあるからな。
今からすぐには無理なので、三十分ほど待ってもらうことにする。
『良いぞ。じゃあまた後でな』
そして、火坂からの返答を最後に、そこでメッセージのやり取りを終えた。
「六華、俺は三十分後にログインする」
「……分かった。合わせる」
「では、さっさと朝食を済ませるか」
家事もあるし、情報収集もしておきたいからな。
さっさと朝食を済ませてしまうことにした。
そして、その後は朝食と家事を済ませて、約束の時間になったところで、『Origins Tale Online』にログインしたのだった。
◇ ◇ ◇
「っと……む? ここは……どこだ?」
ログインすると、俺達は拠点ではなく立方体の形をした白い空間内にいた。
「……最初のとこ……?」
だが、この場所自体には見覚えがあった。
そう、ここは最初にチュートリアルを受けた場所だ。
管理AIはいないが、あのときと同じ場所のように見える。
「いやー……悪いね。わざわざ来てもらって」
ここに来た理由が分からずに戸惑っていると、ここで部屋の中央にスーツ姿の男が現れた。
「とりあえず、立ち話も何だから、座ってくれるかな?」
男がそう言うと、どこからともなくテーブルと人数分の椅子が出現する。
「……分かった。リッカ、行くぞ」
「……うん」
このまま突っ立っていても話が進まないだろうからな。
ひとまず、椅子に座って話を聞いてみることにした。
俺達はそのまま歩いて移動して、用意された席に着く。
「それで、プロデューサーが直々に何の用なんだ?」
初対面ではあるが、俺はこの男が何者なのかは知っている。
彼の名は
公式生放送に出演していて、何度か見たことがあったので、すぐに分かった。
「自己紹介は必要なさそうだね。早速、本題に入るけど、話はストライクウルフについてのことだよ」
「……そうか。続けてくれ」
まあ心当たりはそれぐらいしかなかったからな。
予想通りの展開ではあるので、ひとまず、このまま話を続けてもらう。
「端的に言うと、想定外だったんだよね。ストライクウルフが討伐されたことも、
「……彼女は何者なんだ?」
ここで俺はあのとき加勢してきた「彼女」について尋ねる。
「それは言えないね。でも、ゲーム内でも特に有名なNPCだから、近い内に分かると思うよ」
「……そうか」
どうやら、彼女の正体については一切教える気がないらしい。
「それで、どうするつもりなんだ?」
「ストライクウルフの素材の一時的な回収を行うつもりだよ」
「一時的な回収? 詳しく聞いても良いか?」
それだけでは具体的なことが分からないので、詳しく聞いてみることにする。
「とりあえず、今回の対応に至った経緯について話しておくよ」
「ああ、頼んだ」
「まず、ゲームバランス的な問題があることは分かるかな?」
「ああ」
ストライクウルフは本来この段階で倒せるようなモンスターではないからな。
その素材を使えば、現段階では作り得ないような性能の装備品を作製することができるので、ゲームバランスに問題が発生することは容易に想像できる。
「だから、それを解消するために方法を考えたわけだけど、討伐に彼女が関わったことも考慮して、今回の対応に至ったということだね」
「それは分かるが……他に方法はなかったのか?」
「検討はしたけど、今回の対応のためだけに全体の調整を入れるのは割に合わないし、それだと対応に時間が掛かるからね。手っ取り早く素材の一時的な回収という手段に踏み切ったということだよ」
「ふむ、そうか」
まあゲーム自体の調整となると調整に時間が必要だし、対応に時間が掛かっては意味がないからな。
今回の対応が妥当なところではあるか。
「まあ本来プレイヤーにNPCが同行している場合、素材はそのNPCが回収することになっているからね。今回回収されなかったのが異例なだけだから、それで納得しておいてくれるかな?」
「……分かった。リザードマンの素材は回収しなくて良いのか?」
ゲームバランスの話をすると、リザードマンの素材も問題があるだろうからな。
そちらはどうするのかを聞いてみる。
「そちらはちゃんと倒して正規の手段で入手しているからね。回収するつもりはないよ」
「そうか。一時的な回収とは言うが、いつまで回収しておくつもりなんだ?」
「素材を扱うのが妥当なぐらいの時期になったら返却するつもりだよ」
「そうか。……リッカもそれで良いか?」
「…………」
リッカは完全には納得していないようだったが、別にそれで良いといった感じでこくりと頷く。
「その補填と言っては何だけど、ちょっとしたイベントを用意しておいたよ」
「イベント?」
「まあそれはログインしてみれば分かるよ。他に何か聞きたいことはないかな?」
「今のところは特にないぞ」
「分かったよ。それじゃあこのままゲーム送るよ」
そして、彼がそう言ってパチンと指を鳴らすと、俺達は白い光に包まれた。
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