episode27 リザードマン

 ドラガリア荒野に出た俺達は予定通りにドラガリア峡谷を目指して東に進んでいた。


「この調子なら問題なさそうだな」


 敵はたまに見掛けるが、大回りして避ければ見付からないので、この調子が続けば問題なく目的地まで辿り着けそうだった。


「……敵」


 と、ここでリッカは敵を見付けたらしく、敵がいる方向を指差して知らせてきた。


「ふむ、またリザードマンか」


 そこにいたのはリザードマンという人型の蜥蜴とかげのモンスターだった。

 このマップにはリザードマンが多いのか、見掛けたのはこれで五回目だ。


「一体だけか……」

「……倒すの?」


 リッカは俺の心中を見透かしたのか、そんなことを聞いてくる。


「それも考えている」


 ここまで見掛けた敵はいずれも複数体でパーティを組んでいたので避けるしかなかったが、今回の敵は一体だけだからな。

 一体だけであれば、慎重に立ち回れば何とかなる可能性もあるので、討伐を考えていたのだ。


「……良いよ」


 リスクがあるので却下してくるかとも思ったが、意外にもリッカは乗り気で賛同してくれた。


「分かった。俺が先に仕掛けるので、リッカはその後に動いてくれ」


 敵はまだこちらのことに気付いていないからな。

 ここは遠隔攻撃ができる俺が先制攻撃を仕掛けて、リッカにはその後に動いてもらうことにする。


「……ダメ」


 だが、リッカはその案を即座に却下した。


「……何故だ?」


 何か理由があるようなので、ひとまず、その理由を聞いてみることにする。


「……ヘイト向く」


 どうやら、リッカは俺が狙われることを懸念しているらしい。


「ふむ……確かに俺が狙われるのはまずいか」


 リザードマンには何種類かのタイプがあるが、そこにいるのは剣を持った剣士タイプのリザードマンだからな。

 遠隔タイプの俺は接近されてしまうと勝ち目がないので、リッカが言うように俺がターゲットにされるのは避けたい。


 さらに、本来このマップは今の段階で来るような場所ではなく、敵がかなり強いことが想定されるからな。

 一回の被弾でも致命傷になる可能性が高いことを考えると、ゲームという物自体に慣れていない俺よりも、リッカがターゲットを取った方が良さそうだった。


「……先に行く」

「分かった。俺はそちらがターゲットになっていることを確認してから援護に入ろう」


 と言うことで、先にリッカが攻撃を仕掛けて、彼女がターゲットされたことを確認してから俺も加わるという方針で決定した。


「……うん。もう行く」


 そして、俺が岩陰に隠れたところで、リッカは歩いてリザードマンに接近し始めた。


「……シャッ? シャーー!」


 だが、二十メートルほどのところにまで近付いたところで、振り返ったリザードマンに気付かれてしまった。

 リッカの存在を認識したリザードマンは彼女に駆け寄って、そのまま一文字に斬撃を放つ。


「……っ!」

「シャッ!」


 リッカはそれを後方に跳んでかわすが、リザードマンの攻撃はそれだけでは終わらない。

 そのまま連続で斬撃を放って、一方的に攻撃し続ける。


(流石に厳しいか?)


 リッカは攻撃を躱し続けているが、余裕がないのか反撃できずにいた。


(そろそろ援護に入るか)


 このままだと押し切られてしまいそうなので、そろそろ援護することにした。


「『ウィンドシュート』、『ウィンドショット』!」


 俺は岩陰から飛び出して、スキルによる攻撃を連続で放つ。


「シャッ⁉」


 俺が放った風魔法は狙った通りに真っ直ぐと飛んで行って、リッカと戦っていたリザードマンの横っ腹に直撃した。


「……全然効いていないな」


 だが、その攻撃ではほとんどHPを削ることができていなかった。

 ただの雑魚敵のはずだが、スキルによる攻撃を二発入れてもHPは一割も減っていない。


「もう一発行くか。『ウィンドシュート』、『ウィンドショット』!」


 とは言え、ダメージが一切通らないというわけではないし、このダメージであれば削り切ることができそうだった。

 俺は先程と同じようにスキルによる攻撃を連続で放つ。


「シャーーーッ!」


 だが、その攻撃を受けたリザードマンはこちらにターゲットを変えて、襲い掛かってきた。


「これは……まずいか?」

「……やりすぎ。ヘイト管理して」

「……ゲームに慣れていない俺がそんなことをできるとでも?」


 そもそも俺はこのゲームに限らず、ほとんどゲームをしたことがないからな。ヘイト管理ができるほどゲームという物には慣れていない。

 ゲーマーのリッカと同じにされても困る。


「避けて。すぐ行く」

「そのつもりだ」


 リッカが追ってはいるが、リザードマンの方が先にこちらに着くからな。

 どうしても一回は攻撃を避ける必要がありそうだった。


(まあやるしかないか)


 この近くは障害物もない平坦な場所で、役に立ちそうな物もないので、ここは気合いで避けるしかなさそうだった。

 俺は覚悟を決めて、攻撃に対応できるように構える。


「シャッ!」


 そして、間合いにまで接近したリザードマンは、剣を水平に走らせて一文字に斬撃を放ってきた。


「っと……」


 俺はタイミングを合わせて後方に跳んで、それを躱す。


「っ……!」


 だが、タイミングが少し遅かったらしく、剣先を僅かに掠めてしまった。


(……って、火力高いな⁉)


 このゲームでは攻撃に当たっても、直撃しなかった場合は掠り判定となって、ダメージが大きく軽減されるようになっている。

 軽減率は掠り具合によって変化するが、今回はそれなりに掠り判定による補正が掛かっていたはずだ。

 だが、それでも先程の一撃でHPが半分以上も削られてしまっていた。


(直撃すれば確実に即死か)


 掠めただけでもHPを半分以上持って行かれるので、直撃したら即死なのは火を見るよりも明らかだった。


「……『居合斬り』」

「シャッ⁉」


 ここで追い付いたリッカがリザードマンに後ろからスキルによる攻撃を叩き込む。


「シャッ!」


 すると、その攻撃でリッカにターゲットが移った。

 俺はその隙にその場を離れて、最初に隠れていた岩陰に戻る。


「……そこにいて」

「リッカは一人で大丈夫か?」

「……行動パターンは見切った」


 そう言うと、リッカは抜刀攻撃でリザードマンの攻撃を弾いて怯ませた。


(今のは……『見切り』か)


 『見切り』は判定がかなりシビアで、狙って決めることは困難だと言われているはずだが、リッカは明らかに狙って決めていた。


(よくあんなことができるな……)


 『見切り』は一方的に攻撃を打ち消せる上に、近接攻撃であれば相手を怯ませることができるので、成功すればそのメリットは大きい。

 だが、向こうの方が遥かに攻撃力が高いので、失敗すれば逆にこちらの攻撃を打ち消されて、やられてしまう。

 なので、そのリスクとシビアな判定を越えていく必要があるが、リッカは一切臆することなく『見切り』を決めていた。


「シャッ!」

「……ふっ」


 そして、そのままリッカとリザードマンの一騎打ちが始まった。


「シャッ!」

「――そこ」

「シャァッ⁉」


 リッカは全ての攻撃を躱すか『見切り』で弾いて防いで、確実に反撃を受けないタイミングで攻撃を叩き込んでいく。

 最初のエリアで手に入るアイテムで作製した武器なので、少しずつしかダメージは入らないが、着実にHPを削っていた。


(そろそろだな)


 そして、気付けばリザードマンの残りHPが一割を切ろうとしていた。


「……ここだな。『ウィンドショット』!」


 俺はリザードマンの残りHPとタイミングを見計らって、スキルによる攻撃を仕掛ける。


「……『居合斬り』」

「シャ……」


 そして、それに合わせてリッカも攻撃を加えて、リザードマンにトドメを刺した。


「……やっと終わったな」

「……うん」


 敵が強いことは分かっていたが、まさか雑魚敵一体にここまで苦戦するとは思わなかったな。


「敵は全て避けて行った方が良さそうだな。リッカ、念のために【修理魔石】で武器の耐久度を回復しておいてくれるか?」


 今の戦闘でだいぶ耐久度が減っただろうからな。

 今後は戦闘は避けるつもりではあるが、避けられなかったときのことを考えて、耐久度はきちんと回復させておくことにする。


「……うん」


 そして、リッカは耐久度を回復させるアイテムである【修理魔石】を取り出すと、それを使って【コッコアイアンの刀】の耐久度を全回復させた。


「素材の詳細は……帰ってからでいいか」


 今考えても試すこともできないからな。

 どうせ他にも新素材が手に入ると思われるので、リザードマンの素材は帰ってからまとめて確認してみることにした。


「では、行くか」


 そして、何とかリザードマンの討伐に成功した俺達は、ドラガリア峡谷を目指して移動を再開したのだった。

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