episode26 スクロール
光が晴れると、俺達はどこかの小屋の中央に立っていた。
「……ここが竜都ドラガリアか?」
「……出る」
「それが良いか」
ここではどこなのかが分からないからな。
とりあえず、外に出て確認してみることにした。
「これは……中世ヨーロッパ風だったセントラルとは大違いだな」
「……うん」
小屋を出ると、そこには和風の街並みが広がっていた。
俺達がいるこの場所は大通りのようで、周囲には木造の建物が並んでいる。
「で、どうする? このまま外に行くか? それとも、街を見て回ってみるか?」
目的は【竜脈鉱】なので、このまま街を出てしまっても良いのだが、折角街に来たわけだからな。
街を見て回るのも一興なので、どうするのかを聞いてみる。
「……見て回る」
「分かった。マップは……見れないな」
マップを確認しようとメニュー画面を開くが、この街の地図は持っていないので、マップを確認することはできなかった。
「地図は……店で買えるのか?」
始都セントラルの地図はチュートリアルで入手した物だし、サウシアやイストールでは地図を買っていないからな。
地図を買ったことがないので、地図の入手場所が分からなかった。
「……適当に回る?」
「そうするか」
地図がない以上は仕方がないし、街を回っていれば地図が売られている場所が見付かるかもしれないからな。
ここはこのまま街を見て回ることにした。
「行き先はリッカの好きにして良いぞ」
「……じゃああっち」
「分かった。では、行くか」
そして、そのままリッカに行き先を任せて、街の散策を始めたのだった。
◇ ◇ ◇
街を見て回っていると、俺達は店が立ち並んでいる場所を発見した。
「ここが商業区画か?」
「……知らない。店はある」
「とりあえず、見て回ってみるか」
「……うん」
この街が区画ごとに分けられているのかどうかは不明だが、ここが店が立ち並ぶ場所であるということに変わりはないので、このまま店を見て回ってみることにした。
「この店は……スクロール屋か」
最初に目に付いたのはスクロール屋だった。
スクロールというのは、使用することでスキルやアビリティを習得することができる消費アイテムのことだ。
スクロールで習得できるスキルは基本的に他の習得方法がないので、スクロールを買って習得するしかないようになっている。
また、アビリティに関してだが、スクロールで習得できるのは基礎アビリティと一部の決められたアビリティのみになっている。
基礎アビリティというのは、アバター作成時に初期習得アビリティとして選択できるアビリティのことだ。
このスクロールの存在によって、ゲーム開始後でも路線変更をすることが可能になっている。
「少し覗いてみるか」
「……うん」
有用なスキルのスクロールがあるかもしれないからな。折角なので、少し店を覗いてみることにした。
「ふむ、これがスクロールか」
店に入ると、棚には商品であるスクロールが並べられていた。
「スキルの詳細は……ちゃんと見られるようだな」
適当なスクロールに意識を向けて調べてみると、スキルの詳細が記されたウィンドウが表示されていた。
ひとまず、調べたスキルの詳細を確認してみる。
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【コストソウル】
MPを消費するスキルの使用時に使用可能。
MPの代わりにHPを最大値の20%消費する。
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俺が調べたスクロールのスキルは【コストソウル】で、MPをHPで肩代わりするスキルだった。
(MPを大量に消費するスキルはないし、現状では使えそうにないな)
説明を見た感じだと、消費するMP量に関わらずにHPの最大値の20%で肩代わりできるようなので、MPを大量に消費するスキルがあれば有用かもしれない。
だが、MPを大量に消費するようなスキルはまだ持っていないので、現状では使えそうになかった。
「……これは?」
と、ここでリッカが使えそうなスキルを見付けたらしく、見てくれと言わんばかりにある一つのスクロールを指差していた。
ひとまず、そのスキルの詳細を確認してみる。
━━━━━━━━━━
【ホーンヘッドバット】
竜人の角を活かした頭突きを放つ攻撃。竜人専用スキル。
打撃系の物理ダメージを与えて対象を怯ませて、確率でスタンを付与する。
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確認してみると、それは頭突きによる攻撃を放つスキルだった。
「確かに、有用そうではあるな」
頭突き攻撃なので使用武器に関わらずに使えるし、何より追加効果が優秀だからな。
スタンの発生率にもよるが、中々使えそうなスキルだった。
「と言うか、種族専用のスキルもあるのか」
竜人の角を活かした頭突き攻撃とだけあって、このスキルは竜人専用のスキルに設定されていた。
どうやら、スキルの中には種族専用の物もあるらしい。
「買っても良さそうだが……って、百五十万⁉」
値段を確認するが、百五十万ゼルという想定外の値段を見て、つい声を上げてしまう。
「と言うか、他のスクロールも軒並み高いな……」
ここで他のスクロールの値段も確認してみるが、百万超えはもはや当たり前で、中には五百万する物もあった。
「……じゃあこれは?」
「これは……【テイム】のアビリティか」
リッカが指差した先にあったのは【テイム】のスクロールだった。
【テイム】は初期習得アビリティとして候補には上げていたが、結局、選択せずに見送ったアビリティだ。
初期習得アビリティとして選択できるのは三つだけだからな。
最低限の戦闘能力とアイテムの生産を考えて、【風魔法】、【調合】、【鍛冶】の三つを選択したので、【テイム】は見送ることにしたのだ。
(値段も何とかなりそうなぐらいの金額だな)
こちらは十万ゼル……と言うより、基礎アビリティのスクロールは全部十万ゼルなので、こちらならまだ手が出せる範囲だった。
「……いる?」
「いや、やめておく。まだ必要ないからな」
今の段階での十万ゼルは大金だし、今すぐに欲しいアビリティでもないからな。
お金に余裕ができてから購入を考えることにする。
「……そう」
「では、もう行くか」
「……うん」
スクロールは俺達にはまだ早いようだからな。
これ以上の長居は無用なので、さっさと他の場所に行くことにした。
そして、店を後にした俺達はそのまま近くの店舗を見て回ったのだった。
◇ ◇ ◇
買い物を終えた俺達は南の門の前にまで来ていた。
「結局、買ったのは街の地図だけだったな」
「……うん」
店を見て回ってみたが、最初から来ることができる街なせいか、売り物は始都セントラルの店とあまり変わりがなかったからな。
特に買う物もなかったので、結局、ここでの買い物は一万ゼルでこの街の地図を買っただけで終わった。
「さて、確認しておくが、南門からドラガリア荒野に出て、東にあるドラガリア峡谷に向かう。そして、そこで【竜脈鉱】を採掘する。これで良いな?」
「……うん」
今回の目的地はドラガリア荒野の東の方にあるドラガリア峡谷という場所だ。
目的の【竜脈鉱】自体はドラガリア荒野の採掘ポイントならどこでも採れるらしいが、ドラガリア峡谷には採掘ポイントが大量にあるらしいからな。
今回はそこで採掘を行うことにしたのだ。
「それと、敵は倒せそうなら倒しても良いが、極力避けて行くぞ」
敵の強さがどの程度なのかは分からないが、今の俺達にとって強敵なのは間違いないからな。
敵との戦闘は可能限り回避しながらドラガリア峡谷に向かうことにする。
「では、行くぞ」
「……うん」
そして、方針を確認し終わったところで、門を潜ってドラガリア荒野に出たのだった。
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