episode23 竜の巣
西セントラル平原の北側に沿って移動しながら素材を集めていたが、ついにそれも終わって、無事に次の街であるイストールに辿り着いた。
「特に苦戦することはなかったな」
「……うん」
敵は少し強くなっていたが、しっかりと装備を整えたおかげで、二人でも問題なくここまで来ることができた。
「時間は……まだあるな。もう一回ぐらいなら外に出られそうだが、どうする?」
ここで時間を確認してみたが、ログアウト予定の時刻にまではまだ余裕があるので、後一回であれば外に行くことができそうだった。
「……じゃあ西セントラル平原の南の方に行きたい」
「分かった。それは良いのだが、そこに何か用があるのか?」
「……竜の巣に行きたい」
「竜の巣? 確か、ホーリーホーンドラゴンがいる場所だよな?」
竜の巣に関しては攻略サイトで話題になっていた場所なので、このゲームについて下調べした際にその情報は得ている。
竜の巣は西セントラル平原の南の方にある場所で、そこにはホーリーホーンドラゴンというモンスターがいるとの話だ。
「そんなところに何をしに行くんだ? 倒すことは不可能だと思うが」
その名前から察しはつくと思うが、今の装備でどうにかなるような相手ではない。
攻略サイトの掲示板を見ていると、ベータ版のときに挑んだという話はいくつかあった。
だが、タンク役が一撃で消し飛んだ、十秒でパーティが全滅したなど、その報告を見た感じだとまともに戦うことすらできなかったらしい。
そんな相手を俺達二人だけでどうにかできるかと言われれば、間違いなく不可能だ。
なので、そんな敵がいる場所に向かう理由はないように思える。
「……【聖角竜の古鱗】が欲しい」
「【聖角竜の古鱗】か。確かにそんな話もあったな」
そう思ったが、一つだけ竜の巣に向かう理由があった。
そう、それは【聖角竜の古鱗】の入手だ。
【聖角竜の古鱗】は竜の巣にある採取ポイントで低確率で入手することができるアイテムで、その名の通りホーリーホーンドラゴンの古くなって抜け落ちた鱗だ。
竜の巣でしか拾えない稀少なアイテムとだけあって、素材として使うとそれなりに強い装備品が作れるらしい。
「だが、どうやって拾うつもりなんだ? 一撃でも受けたら終わりだぞ?」
だが、問題はそれを拾う方法だった。竜の巣には前述の通りホーリーホーンドラゴンがいるので、そう簡単には拾うことができない。
「……死んででも良いから拾う」
「なるほどな。それで、わざわざこのタイミングで行きたいと言ったのか」
次の冒険を終えたら一度ログアウトする予定だからな。
このタイミングで行けばログアウト中にデスペナルティーの時間が切れるので、何かと都合が良い。
「竜の巣の正確な場所は分かっているのか?」
「……マップ上での位置は覚えてる。西セントラル平原の中心から真っ直ぐ南に行った場所にある」
「そうか。ならば、案内は頼んだぞ」
「うん」
そして、必要最低限のアイテムの補充だけ済ませてから再び西セントラル平原に出て、今度は竜の巣を目指して南に向かった。
◇ ◇ ◇
西セントラル平原に出た俺達は南東方向に歩き続けて、竜の巣があるという森の中にまで来ていた。
「そう言えば、竜の巣にいるというホーリーホーンドラゴンのことを聞いていなかったな。少しそのことを聞いても良いか?」
竜の巣にホーリーホーンドラゴンがいるということは知っているが、俺はそのことに関して詳しくは調べていないので、あまり情報を持っていない。
なので、詳しく調べているリッカに少しこのことを聞いてみることにする。
「……大した情報はない」
「それでも良いから教えてくれ」
「……分かった。使ってくる属性は光。ブレス以外に魔法攻撃もして来る」
まず、その名前から来るイメージ通りに、使ってくる属性は光属性らしい。
本格的に挑むのであれば有益な情報ではあるが、今の俺達では対策すればどうにかなるような相手でもないので、この情報は割とどうでも良いな。
「他には?」
「……それぐらい」
「それだけか? 随分と情報が少ないな」
「……勝てる相手じゃないから、みんな詳しく調べようとしてなかった。だから、全然情報なかった」
「なるほどな」
確かに勝てる相手でないことは明白なので、誰も攻略しようと思わないのも当然と言えば当然か。
「結局のところ、使えそうな情報はブレスや魔法による遠距離攻撃ができるということぐらいか」
結局、リッカの話から得られた情報の中で有益なものは、敵は遠距離攻撃をすることができるということぐらいだった。
「……森が
ここで前方を見てみると、そこには森が開けている場所があった。
「……多分この先が竜の巣」
「慎重に行くか」
「うん」
気付かれたらそれで終わりなので、できるだけ音を立てないようにしながら慎重に開けた場所に近付く。
そして、開けた場所の手前にまで来たところで、木の裏に隠れて先の様子を確認した。
「ここが竜の巣なのは間違いないようだな」
円形に開けたその場所の中心にはドラゴンが立っていた。
二本足で立っているそのドラゴンは体長が七メートル近くもあり、体は白をベースとした色になっている。
また、ホーリーホーンドラゴンという名の通りに、頭部には特徴的な一本の大きな角を持っていた。
「採取ポイントは……全部で四か所か」
確認してみると、採取ポイントは巣の中心付近に四か所あることが確認できた。
「それで、どうするつもりなんだ?」
だが、そこにはホーリーホーンドラゴンがいるので、採取ポイントまで移動する方法を考える必要がありそうだった。
「……二手に別れる。シャムは反対側に行って」
「分かった」
「通話も繋いでおいて」
「ああ」
俺はリッカの指示通りに通話を繋いでから反対側に向かう。
「着いたぞ。次はどうすれば良い?」
「注意を引き付けて。やり方は任せる」
「分かった」
どうやら、俺を囮にしてその隙に採取する作戦のようだ。
「では、行くぞ?」
「うん」
「『ウィンドショット』」
そして、準備ができたことを確認したところで、ホーリーホーンドラゴンに向けてスキルによる攻撃を放った。
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