episode16 初めての調合
店に入るとすぐ正面にはカウンターがあり、その奥には商品棚が設置されていた。
それ以外には特に設置されている物はなく、店として成り立つために必要な最低限の物だけが設置されていた。
「狭くシンプルな作りだが、小規模な販売になる俺達にはちょうど良いか」
安い店なだけあって、店内は狭くシンプルな作りになっているが、二人だけで経営する以上、小規模なものにならざるを得ないので、俺達にはこのぐらいでちょうど良い。
「直接拠点に行けるようになっているようだな」
また、カウンターの後ろの扉を確認すると、そこから直接拠点に行けるようになっていた。
「とりあえず、拠点に行って装備品なんかを作るか」
「……うん」
店の方も色々と確認しておきたいところだが、販売する商品がない以上、今はこちらに触れてもあまり意味はない。
なので、店の方は置いておいて、まずは拠点の方に向かうことにした。
◇ ◇ ◇
「何と言うか……殺風景だな」
「……だね」
ギルド拠点に向かうと、そこにあったのは何も設置されていない直方体の部屋だった。
まあまだ何も設置していないので、それも当然と言えばそうなのだが、流石にこれは寂しすぎる。
これを見ると、机や椅子の一つや二つぐらいはサービスして、初期状態から設置してくれていても良いのではと思ってしまう。
「とりあえず、これらを設置するか」
こんな殺風景な部屋では何もできないので、まずは【調合セット】と【鍛冶セット】を設置することにした。
「レイアウトは……後で考えれば良いか」
設置物の移動は簡単に行えるようなので、レイアウトは設置物が増えてから考えたので良さそうだった。
なので、邪魔にならないように適当に端の方に並べておくことにする。
「スペースも……問題ないな」
設備には大きさという項目が設定されていて、設置するには拠点の空きスペースが必要になるので、これが不足していると設置することができない。
一応、言っておくと、これはシステム的な問題なので、見た目上では設置できるだけのスペースがあったとしても、拠点に設定されているスペースが不足している場合は設置することができないようになっている。
確認してみると、拠点のスペースは十なのに対して、【調合セット】と【鍛冶セット】の大きさは一なので、問題なく設置することができそうだった。
「端の方に置いてと……これで良いな。では、早速、試してみるか」
設備を設置し終わったところで、早速、色々と試してみることにした。
「こうか?」
調合セットを調べてメニューを開くと、倉庫のメニューが開かれた。
恐らく、使用するアイテムを選択する画面なのだろう。
「素材は……【癒し草】で良いか」
俺はその中から【癒し草】を選択して、作業を始めようとする。
「リッカ、少し良いか?」
「……何?」
「俺達のアイテムは全てギルド倉庫で管理しないか?」
その画面を見て思ったことがあるので、ここでリッカに一つ提案をする。
提案というのは倉庫のことに関してだ。
倉庫には個人倉庫とギルド倉庫という二種類の物が存在している。
その名の通り個人倉庫は自分専用の倉庫で自分だけが使用することができる倉庫、ギルド倉庫は――設定で使用できるメンバーを制限することも可能だが――ギルドメンバー全員が利用することができる倉庫だ。
普通は使い分けるのだろうが、俺達にはその必要があまりないので、全てギルド倉庫に纏めてしまった方が何かと都合が良い。
「……良いよ。今から移す」
リッカはその提案に賛同して、すぐに自分の倉庫のアイテムをギルド倉庫に移してくれた。
「俺も移すか」
意見は一致したので、俺も全てのアイテムをギルド倉庫に移すことにした。
自分の倉庫の画面を開いて、全てのアイテムを選択して、それらをそのままギルド倉庫に移す。
「さて、今度こそ始めるか」
アイテムの移動が完了したところで、早速、調合を始めることにした。
「……で、どうすれば良いんだ?」
調合を始めようとしたは良いものの、肝心なやり方が分からなかった。
「説明もないし、色々と試してみるしかないか」
やり方の説明があれば良かったのだが、残念ながらそれはないようなので、手探りでやってみることにした。
(まずはこの器具を使って試してみるか)
俺が最初に手に取ったのはビーカーのような器具だった。
試しにこの器具に水を入れて、そこに【癒し草】を入れて加熱してみる。
すると、【癒し草】の成分が溶け出し始めたのか、水が緑色に変色し始めた。
(そろそろか?)
そして、しばらく加熱していると、それ以上色が変わらなくなったので、そこで加熱を止めて成分を抽出し終えた【癒し草】を取り出した。
(できているかどうか確認してみるか)
これでできているのかどうか分からないので、ひとまず、詳細を確認してみることにした。
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【基本HP回復ポーション】
品質:5
効果:HP回復、希薄ポーション
付与:なし
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詳細を確認すると、調合に成功してポーションができていることが確認できた。
だが、何か効果が付与されているようなので、その詳細も確認してみることにする。
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【希薄ポーション】
濃度の薄いポーション。効果が30%低下する。
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確認してみると、それはデメリット効果だった。
(言われてみれば、店売りのポーションよりも明らかに色が薄いな)
ここで改めて完成したポーションを見てみると、店で買ったポーションよりも明らかに色が薄かった。
(抽出がうまくいっていなかったようだな)
加熱する時間が短かったのか、やり方に問題があったのかは分からないが、成分を抽出し切れていないことは確実だった。
(少し方法を変えてみるか)
なので、今度は少し方法を変えてみることにした。
(とりあえず、これを使ってみるか)
ここで俺が目を付けたのはすり鉢だった。
今度はすり鉢に【癒し草】を入れて磨り潰して、それを先程と同じように水を入れた器具に入れて加熱していく。
すると、先程よりも短い時間で水の色が変わっていき、濃い色のポーションができあがっていた。
(こちらも確認してみるか)
完成したところで、早速、詳細を確認してみる。
━━━━━━━━━━
【基本HP回復ポーション】
品質:5
効果:HP回復
付与:なし
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詳細を確認してみると、先程は付いていたデメリット効果がなくなっていた。
(作り方次第で完成度が変わるということか)
同じ素材を使っても、作り方によって完成度が変わるようなので、試行錯誤のし甲斐がありそうだった。
(次は……焙煎なんてどうだ?)
とりあえず、試しに次は焙じてみることにした。
「何か良い物は……これで良いか」
直接火で炙ると燃えてしまいそうなので、蒸発皿に乗せて焙じてみることにした。
三脚の上に三角架を乗せて、その上に【癒し草】を乗せた蒸発皿を乗せて加熱を始める。
(何だか化学の実験をしているみたいだな)
ポーション作成が気付けば化学の実験みたいになっているが、別に不都合があるわけでもないので、そこは気にしないことにする。
「……どっか行ってて良い?」
と、その様子を見ていたリッカは退屈だったのか、出掛けたいと言い出した。
「別に構わないぞ」
リッカはここにいてもすることがないだろうからな。
こちらとしても特に不都合はないので、このまま自由にさせてやることにした。
「……じゃあ行ってくる」
そして、それだけ言うと、リッカは拠点を出て行った。
「……もう焙るのは十分そうだな」
ここで調合台の方を確認すると、焙っていた【癒し草】がカラカラに乾燥して、黄金色に変色していた。
「では、作業に戻るか」
乾燥は十分なようなので、俺は作業に戻ることにした。
まずは焙して乾燥させた【癒し草】をすり鉢で磨り潰す。
そして、先程と同じようにビーカーのような器具に水を入れて、そこに磨り潰した【癒し草】を入れて加熱を始めた。
「……こんなところか」
そのまましばらく加熱して、液体がそれ以上変色しなくなったことを確認したところで、加熱を止める。
「さて、問題はこれでどうなっているかだが……」
完成したところで、早速、詳細の確認をしてみる。
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【基本HP回復ポーション】
品質:5
効果:HP回復、回復量上昇(微)
付与:なし
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確認すると、今度は効果に『回復量上昇(微)』が付与されていた。
「品質は変わらないな」
作成方法を変えたことで効果の方には変化があったが、品質の方は変化していなかった。
(そう言えば、完成品の品質は素材の品質に依存するのだったな)
ここで俺は完成品の品質は素材の品質に依存することを思い出す。
このゲームでは完成品の品質は素材の品質に依存するので、作り方を変えても品質は変化しない。
今回のように付与効果が変化するだけだ。
もちろん、アビリティのレベルを上げれば、完成品の品質を上げることができるようになるが、それにも限界はあるので、高品質なアイテムを作製するためには高品質な素材が必要になる。
「まあ品質に関してはその内考えれば良いか」
まだ始まったばかりで、できることも少ないからな。
品質に関してはもっとゲームを進めて、高品質な素材が手に入るようになってから考えることにする。
「さて、次は鍛冶をやってみるか」
ひとまず、調合の流れは分かったので、今度は鍛冶に挑戦してみることにした。
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