episode15 エルリーチェからの追加依頼

 地図を見ながら研究所があるという場所に向かうと、そこには金網に囲まれた四角い建物があった。

 入口は閉ざされていて、そこに立っている二人の兵士が警備をしているようなので、勝手に入ることはできなさそうだった。


「とりあえず、兵士に話をしてみるか」


 このままだと入ることができないので、ひとまず、警備をしている兵士に話をしてみることにした。


「少し良いか?」

「何だ? ここは研究所だ。許可のない者の立ち入りは禁止されているが、ここに何か用か?」

「所長に用があるのだが、話を通してもらっても良いか?」

「エルリーチェ所長は出掛けている。用件なら聞くぞ」


 残念ながら、彼女は今は研究所にはいないらしい。

 まあ先程サウシアにいたので、それも当然と言えばそうなのだが。


「所長に【シルバーコッコの嘴】を届けてくれと言われていてな」

「【シルバーコッコの嘴】……そう言えば、そんな連絡を受けていたな。持って来てくれたのか?」

「ああ」

「では、こちらに渡してくれるか? 帰って来たら渡しておこう」

「分かった」


 いつ帰って来るのか分からない彼女を待つわけにもいかないので、ここはこの兵士に任せることにした。

 俺は【シルバーコッコの嘴】を取り出して、それを兵士に手渡す。


「確かに預かった。責任を持ってエルリーチェ所長に渡しておこう。それと、一つ頼みたいことがあるのだが良いか?」

「何だ?」

「そのエルリーチェ所長が研究で使う【オリジンインゴット】を作るための素材がまだ足りていないらしくてな。【メタルローズ】と【原初の石】、それと、できれば【竜脈鉱】と【自然の結晶】も持って来て欲しいのだが、引き受けてくれるか?」


 兵士からの依頼は不足している素材の調達だった。


(どれも聞いたことのない素材だな)


 しかし、どれも聞いたことのない素材アイテムで、少なくとも今まで見たNPCの店には売っていない物だった。


「……分かった。引き受けよう」


 だが、それでもこの依頼を引き受けることにした。

 聞いたことのない素材アイテムではあるが、ソールに聞くか調べるかすれば分かるだろうし、渡せば良いだけなので、市場などで買って渡したのでも問題ないはずだ。

 なので、難易度はそんなに高くないと踏んで、この依頼を受けてみることにした。


「引き受けてくれるか。では、集まったらここに来て渡してくれ」

「分かった。では、もう行くか……む?」


 と、ちょうど兵士との話が終わったところで、メッセージボックスにソールからのメールが届いた。

 早速メールを開いてその内容を確認してみる。


『アッシュに聞いてきたぞ。良いってさ』


 どうやら、俺達が兵士と話をしている間にログアウトして、アッシュに聞いてくれたようだ。


『分かった。あの店に集まったので良いか?』

『それで良いぞ。じゃあまた後でな』


 集合場所が決まったところで、やり取りを終えてメニュー画面を閉じる。


「リッカ、ソールからの連絡があった。先程の店に行くぞ」

「……分かった」


 そして、ソールからの連絡を受けた俺達は急いで例の店に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 集合場所である例の店の前に行くと、そこでは既にソールが待っていた。


「随分遅かったな。何してたんだ?」

「研究所に行って話をしていた」

「【シルバーコッコの嘴】の件か?」


 研究所と聞いたソールはエルリーチェからの依頼の件なのかと確認をしてくる。


「そうだ」


 まあそれ以外で研究所に行く理由はないからな。それぐらいはすぐに分かるか。


「それで、研究所から歩いて戻って来たのか?」

「そうだが?」

「【転移石】は使わなかったのか?」

「【転移石】?」

「【転移石】はどこでも使えるから、街中での移動にも使えるぞ」

「む、そういう使い方もできたのか」


 言われてみれば、転移先を中央広場に登録してあるので、使えばそこまで移動できたのか。

 他の街への移動手段として使うという印象が強かったせいか、完全に【転移石】の存在を忘れていた。


「便利だから覚えておくと良いぞ。ところで、報酬はもらったのか?」

「いや、依頼主がいなかったからな。まだもらっていない」


 依頼主がまだ帰って来ておらず、結局、依頼の品を兵士に渡しただけだったからな。報酬はまだ受け取っていない。


「代わりと言っては何だが、今度は【メタルローズ】、【原初の石】、【竜脈鉱】、【自然の結晶】の四つを持って来て欲しいと言われたな」

「その四つを? また面倒なのを要求されたな」

「そうだ。知っているのか?」

「【メタルローズ】と【原初の石】は南セントラル平原か西セントラル平原で採れるレア素材だな。【メタルローズ】は採取で、【原初の石】は採掘で採れるぞ」

「そうか」


 薄々感付いてはいたが、どれも入手できる確率の低いレア素材だったようだ。


「まあこの後は西セントラル平原に行くことになるだろうし、そのときに探してみたらどうだ?」

「そうだな」


 サウシアに到達したことで西門も解放されて、西セントラル平原に行けるようになったはずだからな。

 【メタルローズ】と【原初の石】は探索の際についでに探してみることにする。


「【竜脈鉱】と【自然の結晶】はどうなんだ?」

「【竜脈鉱】と【自然の結晶】は採掘で採れるが、【竜脈鉱】は竜人限定のエリアで、【自然の結晶】はエルフ限定のエリアでしか採れないぞ」

「む、そうか」


 俺とリッカは竜人なので、【竜脈鉱】は何とかなるだろうが、問題は【自然の結晶】の方だな。

 こちらはエルフ限定のエリアにあるので、直接採りに行くことができない。


(まあ市場で探して買えば良いか)


 探せば売りに出しているプレイヤーはいるだろうからな。

 【自然の結晶】はお金で手に入れることにする。


「さて、そろそろ本題に入るが、七十万を借りるぞ?」


 少々話が逸れてしまっていたので、ここで話を本筋に戻す。


「良いぞ。ほい」


 本題に入ったところで、ソールはすぐに七十万ゼルを渡してきた。


「助かる。後は入口の看板を調べて購入と……」


 そして、そのままその七十万ゼルを使って店を購入した。


「無事に買えたみたいだな。それじゃあ俺はもう行くぞ」

「まだ何か用があるのか?」

「ギルメンと一緒に冒険に行こうと思ってな」

「集合は二十時からと言っていなかったか?」


 ギルドメンバーと集まってプレイするとは確かに言っていたが、その時間は二十時からだったはずだ。


「それは全員で集まる時刻だな。それまでは各自で自由にしてて良いって言われてるから、自由時間を使ってログインしてるギルメンと冒険に行くって感じだな」

「そうか。では、今日はここでお別れだな」

「そうだな。それじゃあまた明日な」

「ああ」


 そして、無事に店を購入したところで、そのままソールと別れた。


「では、早速、入ってみるか」

「……うん」


 ひとまず、無事に店を購入することができたので、早速入って中を確認してみることにした。

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