episode14 店の購入
光が晴れると、そこには見覚えのある光景が広がっていた。
「ここは……中央広場だな」
気が付くと、俺達は始都セントラルの中央広場にいた。
最初に集合したときと比べると人は減っているが、人が多く集まっていることに変わりはなかった。
「相変わらず人が多いね。ところで、これが例のクリスタルなの?」
ここでクオンの向けている視線の先に目をやると、そこには内部に紋章の描かれたクリスタルがあった。
「そうだぞ」
思った通り、これが【転移石】の移動先として登録することができるクリスタルのようだ。
「とりあえず、移動先として登録しておいたらどうだ?」
「そうだな」
この場所への転移は今後も利用することになりそうなので、移動先として登録しておくことにした。
早速クリスタルに近付いて調べてみる。
【転移ポイントがあります。始都セントラル(中央広場)を転移ポイントとして登録しますか?】
クリスタルに近付いて調べてみると、移動先として登録するのかどうかを尋ねるダイアログが表示された。
そして、選択肢の「はい」を選ぶと、登録する【転移石】を選択する画面に移ったので、そのまま登録する【転移石】を選択して――選択するとは言っても、【転移石】は一つしかないので選択の余地はないが――無事に登録を終えた。
「それで、この後はどうする?」
「特に決めてないが……クオンは何かやりたいことはあるか?」
「あたしは一旦ログアウトしたいかな。早速、動画上げたいし」
「そうか。じゃあ一旦解散にするか?」
「それが良さそうだな」
冒険に出るにしても、装備を買わなかった俺達は装備を作る必要があるからな。
少々時間が必要になるので、ここは一旦解散することにした。
「じゃああたしはログアウトするね。また後でね」
そして、クオンはそれだけ言い残してログアウトすると、その姿がかき消えた。
「とりあえず、拠点に戻るか」
「……その前に店見たい」
そのまま拠点に戻って装備品の作成に移ろうとしたが、リッカがその前に店を見て回りたいと言い出した。
「店か……確かに、店があった方が色々と都合が良いし、他のプレイヤーに買われる前に早く買った方が良いか」
店があれば販売や買い取りが簡単に行えるし、市場と違って手数料も掛からないからな。
今後のことも考えると、店は買っておいた方が良い。
それに、店を買うにしても早い者勝ちだからな。
良い立地の店は他のプレイヤーに買われる前に確保したい。
「だが、今の俺達の所持金で足りるのか?」
ただ、店を買うに当たって、一つ大きな問題があった。
そう、それは店の値段だ。そもそもお金が足りないのでは話にならない。
「店は普通に百万単位の値段はするし、高いところだと一千万するところもあるな」
「だとしたら、買えないな」
ベータテスターで所持金を引き継いでいるソールでも百万ゼルしか持っていないからな。
百万ゼル単位の値段だと、彼からお金を借りたとしても買えない。
「だが、それはあくまで表の通りなんかの立地の良い場所の話だ。裏路地なんかの立地の悪いところなら百万以内でも買えるはずだぞ」
「裏路地か……まあ見るだけ見てみるか」
立地が悪いと客足が伸びない可能性もあるので、買うかどうかは考えどころだが、見て検討するだけならタダなので、店を見に行ってみることにした。
「と言うことで、案内は頼んだぞ」
「おう、任せとけ!」
そして、ソールの案内で物件巡りをすることとなったのだった。
◇ ◇ ◇
ざっと中央広場付近の表の通りの店を見終わった俺達は、裏路地にある店を見て回っていた。
「やはり、立地の良い店は買えそうにないな」
中央広場付近はアクセスしやすく、立地条件が良いせいなのか値段が高く、安くても七百万ゼルもした。
なので、残念ながら立地の良い店は買えそうになかった。
「まあざっと見た感じだと、ベータテストのときと値段は変わってなさそうだな。さて、次の店に着いたぞ」
と、裏路地に入ってそんな話をしていると、道を二回曲がったところで次の売り物件に着いた。
「七十万か。安いな」
百万単位の値段になる表の通りにある店とは違って、こちらは一桁少ない七十万ゼルだった。
「まあこんな目立たないところに店を構えたところで、誰も来そうにないけどな」
「そうか?」
「いや、普通に考えてこんな裏路地に来ると思うか? 普通は来ないだろ」
「だが、それはこの店の存在を知らないということが前提の話だろう?」
「どういうことだ?」
これだけだと分からなかったようで、ソールはそう聞き返してくる。
少し説明する必要がありそうなので、軽く説明することにした。
「確かに、この店の存在を知らないのであれば、こんな裏路地に来ることはないだろうな。だが、ここに店があることを知っていたとしたらどうだ? この店は中央広場から近い場所にあってアクセス自体は良いし、存在さえ認知されていれば十分に客足を見込めると思うぞ?」
ソールの言う通りに、こんな目立たない裏路地にある店に初見の客が来るとは思えない。
だが、この店の存在が認知されていれば話は別だ。
この店は中央広場を出てすぐの裏路地に入ったところにあり、アクセス自体は良いので、存在さえ知ってもらえれば客足は望める。
「なるほどな。そういうことか。確かに、中央広場からの距離自体は近いし、店の存在を知ってもらえれば客も来るかもな」
「そういうことだ」
「……で、その店の存在を認知させる方法は考えてるのか?」
「ある程度はな」
まだ詳細までは決めていないが、大体どうするのかは決めているからな。勝算はある。
「と言うことで、追加で七十万貸してくれ」
「いや、流石にそれはきついな。ギルドの運用資金として、ベータ組は一人五十万を出すことになってるし」
「む、そうか」
どうやら、ギルドの運用資金に回す分のお金が必要らしく、七十万の貸し出しはできないようだ。
「アッシュから借りたらどうだ?」
「それが妥当ではあるが、問題はそれまでこの店が残っているかどうかだな」
アッシュからもお金を借りるというのが一番良さそうな手だが、問題はそれまでこの店が売れずに残っていてくれているかどうかだった。
彼がログインするのは現実世界の時刻で二十時頃の予定なので、それまでの間に他のプレイヤーに買われてしまう可能性もある。
「この段階で店を買えるのはベータ組に限られるし、大丈夫じゃないか?」
「それはそうだが、確実に残っているとは言えないからな……」
確かにそれはそうなのだが、買われずに残ってくれるという保証はどこにもない。
「やはり、ギルドの運用資金とやらを後でアッシュに借りることにして、今七十万を貸してくれないか? もちろん、その分は後で俺が返す」
「……つまり、アッシュから借りる分を先に俺から借りるってことだな?」
「そうだ」
こうすれば今この店を買うことができて、お金も実質的にアッシュから借りることになるからな。
この案が一番良いように思える。
「問題は本人がそれを了承してくれるかだが……」
だが、問題はアッシュがお金を貸してくれるかどうかということだった。
本人にその意思がないのであれば、借りるわけにはいかないからな。まずはそれを確認する必要がある。
「確認なら俺がしておこうか?」
「良いのか?」
「ああ。大学の休み時間になったら、ログアウトして確認しておくぞ」
「では、頼んだ」
ソールはアッシュと同じ大学なので、もちろん休み時間がいつなのかは分かっている。
俺がその時間を確認してこのことを聞きに行っても良かったのだが、ソールが自分が行くと言い出したので、ここは彼に任せることにした。
「じゃあ俺はちょっと用があるから、一旦ここで解散にするか。アッシュからの返事を確認したら連絡するぞ」
「分かった」
「それじゃあまた後でな」
「ああ」
そして、方針が決まったところで、ソールと別れた。
「……その間どうする?」
「研究所に向かって、依頼の品を渡しに行くぞ」
早速、装備品作りをしたいところだが、その前にエルリーチェのから依頼を先に済ませてしまうことにした。
「……分かった」
そして、ソールと別れた俺達は二人で研究所へと向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます