episode13 エルリーチェ

 集合場所に向かうと、そこではソールとクオンの二人が待っていた。


「待たせたな」

「お、やっと来たな。遅かったけど、何かあったのか?」

「ああ。NPCに話し掛けられてな」


 ここで先程のエルリーチェというNPCとあったことについてを二人に話す。


「そんなことがあったのか」

「ああ。それで、【シルバーコッコの嘴】を渡すべきかどうかを考えているのだが、ソールはどう思う?」


 ここに来るまでの間にも【シルバーコッコの嘴】の扱いについて考えていたが、ひとまず、ベータテスターで知識の多いソールに相談して、彼の意見を聞いた上で考えるという結論に至った。

 なので、まずは彼がどう思うのかを聞いてみる。


「報酬が不明なのがあれだが、まあ渡すのもありなんじゃないか? 研究所の所長だし、それなりに良い物をくれる可能性もあるぞ」

「む? 彼女は所長なのか?」

「そうだぞ。ベータテストのときは名前のみの登場だったけどな」


 どうやら、彼女は研究所の所長だったらしい。

 研究所に持って来いと言われたので、研究所に所属する人物であることは分かっていたが、まさか所長だったとはな。


「そうか。それにしても、名前だけの登場だったのに、よく覚えているな」

「わざわざ他のNPCが名前を出すぐらいだからな。掲示板でも重要人物なんじゃないかって話に上がってたぐらいだぞ」

「なるほどな。それで覚えていたのか」


 ゲーム内では登場すらしていなかったので、目立たなかったかもしれないが、掲示板で話に上がっていたというのであれば、覚えていたことにも納得だな。


(重要人物か……)


 重要人物というのは、このゲームにおいてストーリーに関わってくるほどの人物ということだろう。


 このゲームはMMORPGなので、当然ストーリー的な要素は存在する。


 だが、その内容までははっきりとしていない。

 と言うのも、公式でもこのゲームの世界観については特に語られていないからだ。


 公式サイトには「小説のようなファンタジー世界をその五感で味わおう!」といった旨のキャッチコピーがあるが、世界観に触れるようなことはそれぐらいしか書かれていない。


(まあ見た感じだと、敢えてそのあたりは伏せているようだし、それを解き明していくこともこのゲームの目的の一つということなのだろうな)


 ネットの記事で開発者インタビューなどを見てみたが、そこでも世界観に関してのことは語っておらず、自分の目で確かめてくれといった旨の発言をしていたからな。

 それを追及するのも、このゲームの目的の一つにしているものだと思われる。


「まあそういうことだ。それで、どうするのかは決めたのか?」

「ああ。とりあえず、渡してみることにした」


 相応の報酬は貰えそうだからな。【シルバーコッコの嘴】を渡す方針で行くことにした。


「そうか。じゃあ始都セントラルに戻るか」

「そうだな。……と言いたいところだが、少し待ってくれ。アイテムを整理する」


 使った分の消費アイテムを補充する必要があるからな。

 買い足したので倉庫にはあるが、まだ手持ちには入れていないので、すぐに補充することにする。


「この際だし、アイテムセットを登録しておいたらどうだ?」

「アイテムセット?」

「まあ一言で言うと、テンプレの作成だな。アイテムセットを登録しておけば、そのセットを呼び出して一瞬でアイテムを整理できるぞ」

「それは便利そうな機能だな」


 そんな機能があるとは初耳だ。


(言われてみれば、アイテムの項目の中にアイテムセットというものがあったな)


 だが、そう言われてメニュー画面のアイテムの項目の中にアイテムセットという項目があったことを思い出した。

 早速メニュー画面を開いてアイテムの項目を開いてみる。


 すると、その項目の中にアイテムセットという項目があった。

 そして、その項目を開いて内容を確認すると、そこには「未登録」と表記された項目が並んでいた。


「ここに登録すれば良いんだな?」

「そうだぞ。登録したいアイテムを図鑑から選んで、個数を設定していけば良いだけだな。右上の虫眼鏡のマークをタップすれば絞り込みや検索、並べ替えなんかの機能が使えるから、それを使うと楽に登録できるぞ」

「分かった」


 図鑑から登録するということは、図鑑に登録済みのアイテムしか登録することができないようだが、図鑑に登録済みのアイテムであれば、手元になくともアイテムセットに登録することができるようだ。


(とりあえず、適当に試してみるか)


 まずは試しに【基本HP回復ポーション】五十個、【基本MP回復ポーション】二十個をアイテムセットとして登録する。

 そして、登録したアイテムセットを呼び出すと、それぞれのアイテムがその個数になるまで補充されて、登録されていないアイテムは全て倉庫に送られた。


「確かに、これは便利な機能だな」

「だろ? ちなみに、設定で拠点エリアに帰還した際に自動的にアイテムセットの呼び出しを行う機能もあるから、それもおすすめだな」


 アイテムセットの呼び出しは通常は手動で行うが、どうやら、拠点エリアに戻った際に自動で行ってくれる機能もあるらしい。


(こちらも見てみるか)


 この際なのでこちらの方も見てみることにした。

 メニュー画面から設定の項目を開いて、アイテムセットの自動呼び出しに関しての項目を探す。


「これか」


 そして、画面を下にスクロールしていくと、その項目が見付かった。


「ねえねえ、他におすすめの設定とかないの?」


 ここでクオンが他にもおすすめする設定がないのかどうかをソールに尋ねる。


「基本的には好みで使いやすいように設定するのが一番だし、自分で設定してみるのが良いと思うぞ」

「それのおすすめを聞いてるんだけど……じゃあソールはどんな設定にしてるの?」

「色々と弄ってるが、そうだな……一つ挙げるなら時間表示の設定だな。連続ログイン時間とその日の合計ログイン時間をゲーム内時間換算の表示にしてるのと、その二つは基本は非表示にしてるな」

「基本は非表示?」

「ああ。常に表示する必要はないし、正直、時間の表示が四つもあると邪魔だからな。どちらも三十分前になったら通知と共に表示するようにしてるぞ」


 確かに、連続ログイン時間とその日の合計ログイン時間は時間が近くなったときに知れれば良いし、現実時間で表示するよりもゲーム内時間換算の表示の方が分かりやすいからな。

 俺もその設定にしておくか。


「そうなんだ」

「とりあえず、設定の話はこのぐらいにしてそろそろ行かないか?」

「それもそうだね」


 少々設定の話で時間を食ってしまったので、そろそろ話を切り上げて出発することにした。


「と言うことで、俺の【転移石】で移動するぞ」

「【転移石】?」


 だが、ここでソールの口から聞いたことのないアイテムの名前が出てきた。


「【転移石】は使うと登録しておいた場所にワープすることができるアイテムだな。初期所持のアイテムの一つとして全員一つは持ってるぞ」


 そう言われてメニュー画面を開いてアイテムの項目から貴重品の項目を開いて確認すると、それは一ページ目の一番上にあった。

 ひとまず、その詳細を確認してみることにする。



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【転移石】

 使用すると登録しておいた場所に一瞬で転移して移動することができる不思議な石。

 移動先は一つにつき一か所のみ登録可能。

 場所の変更をする場合は上書きする必要がある。

 ギルドメンバーやパーティメンバーの転移に同行することもできるが、その場合、自分が訪れたことのない場所が移動先の場合は同行することができない。

 何度でも使える。


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 どうやら、このアイテムは事前に登録しておいた場所にワープすることができる移動アイテムのようだった。

 一か所しか登録できないとは言え、使用制限などはないのでかなり便利なアイテムだ。


 一個しかない現状では一か所しか移動先を作ることができないが、わざわざ一つにつき一か所と書かれているということは、複数個入手可能なアイテムのようなので、その点はそんなに問題にならないだろう。


「場所の登録はどうやったらできるの?」

「登録できる場所にはクリスタルがあるから、それを調べれば登録できるぞ。始都セントラルの中央広場や南門、それとこの街の門にもあっただろ?」


 言われてみれば、門の近くには内部に紋章の描かれたクリスタルがあったな。

 中央広場に関しては人が多すぎてまともに見れていないので分からないが、あの中のどこかにあったのだろう。


「確かに、言われてみればそんな物もあったね。この街も登録しておいた方が良いかな?」

「いや、次にここに来るのは火山攻略のときだし、しなくて良いと思うぞ」


 この街からは南方向にしか行けないが、その先にあるのは煉獄火山というダンジョンだ。

 ソールの言うようにこのダンジョンは序盤に来るような場所ではなく、ここに来るのはまだ先になるので現時点で登録する必要ない。


「それもそうだね。ところで、いつ場所の登録をしてたの? 特にそんな素振りはなかったけど?」

「最初の集合のときにお前達が来る前に中央広場を登録しておいたぞ」


 まあソールは最初に集合場所に来ていたからな。そのときに登録していたのであれば、俺達には分からないか。


「そうなんだ」

「それじゃあ話はもう良いか? そろそろ行くぞ?」

「はーい」

「分かった」

「……うん」


 そして、ソールが【転移石】を使うと、俺達は【転移石】から放たれた白い光に包まれた。

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