episode12 サウシアの街

 エクスシードスネークがいた場所から数分ほど歩くと、次の街であるサウシアに着いた。


「ここがサウシアか」


 俺は街に入ったところで街の様子を軽く見て回す。


(最初の街と比べると小さそうだな)


 全体を見たわけではないので確実にそう言えるわけではないが、始都セントラルと比べると小さな街のようだった。


「それで、やることは決まっているのか?」

「まずは買い物だな。次の街に行くには初期装備だと手間取るし、一旦ここで装備を整えた方が良いぞ」

「装備か……自分で作ったのではダメなのか?」


 鍛冶をするための【鍛冶セット】はあるからな。

 わざわざ買わずとも装備品を作ることはできる。


「それでも良いが、今持ってる素材だと大した物は作れないと思うぞ」

「む……それもそうか」


 今持っているのはコッコの素材がメインなので、ソールの言う通りに大した装備品は作れそうになかった。

 鉱石類の素材でもあれば良かったのだが、採掘できるポイントにも寄らずにここまで来たからな。

 残念ながら、性能の良い物は作れそうにない。


「ところで、今回の冒険で手に入れたアイテムはどう分けるんだ?」


 それはそうと、今回の冒険で手に入れたアイテムをまだ分配していないので、ひとまず、その話をすることにする。


「そう言えば、その話がまだだったな。素材になるアイテムは全部二人に渡そうと思うが、クオンはそれでも良いか?」

「うん、別にそれで良いよ」

「……良いのか? そうなると、ほとんどのアイテムを俺達に渡すことになるとは思うが?」


 素材になるアイテムとなると、【コッコの鶏肉】以外のほとんどのアイテムが対象になるので、俺達が戦利品のほとんどを受け取ることになる。


「別に良いぞ。どうせこっちは売る以外で使い道はないし、大した値段にもならないからな。とりあえず、全部シャムに渡すぞ」

「分かった」


 まあベータ版から百万ゼルを引き継いでいるソールからすると、はした金のようなものだろうからな。そこまで問題でもないのだろう。


 そして、俺が代表してアイテムを受け取った。


「とりあえず、アビリティのレベル上げも兼ねて、色々と作ってみたらどうだ?」

「だが、素材がないぞ?」


 そう言われても、先程も言ったように必要な素材がないので、素材を採りに行かないと作ることはできない。


「素材ならNPCの店でもある程度は売ってるぞ」

「そうか。では、今回は買うことにするか」


 お金にならまだ余裕があるので、今回は素材を採取して集めるのではなく、NPCから買うことにした。


「じゃあシャムとリッカは素材を、クオンと俺は装備品を買いに行くということで良いか?」

「ああ、それで良いぞ」

「とりあえず、二手に別れるか」

「それが良さそうだな」


 目的が違うのに一緒に行動するのも効率が悪いからな。

 ここは素材組と装備組とで別れて買い物を行うことにした。


「それじゃあまた後でな」

「ああ」


 そして、方針が決まったところで、二手に別れて買い物に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 二手に別れた後はリッカと共にNPCの店で素材を買い集めて、手早く買い物を済ませた。


「こんなところか」


 とりあえず、この街ですべきことは済んだので、別れた二人に合流しに向かうことにする。


「そこの二人、ちょっと良いかい?」


 だが、合流しに向かおうとしたそのとき、後方から何者かが話し掛けてきた。


 振り返って確認すると、そこには三十代の女性が立っていた。

 エメラルドグリーンの瞳に金髪のロングヘアをした彼女はロングパンツに長袖の服を着ていて、その上には白衣を着ていた。

 その服装からは何となく研究者のような印象を受ける。


(エルリーチェ……NPCか)


 表示されたウィンドウを確認すると、「エルリーチェ」という名前の後にNPCだということを示す表示があった。


「何か用か?」


 俺達に何か用があるらしいので、ひとまず、用件を聞いてみる。


「【シルバーコッコの嘴】を持ってるよね? 研究に使うから是非とも譲って欲しいんだけど、良いかい?」


 用件は【シルバーコッコの嘴】を譲って欲しいとのことだった。

 何故、持っていることが分かったのかと聞きたいところだが、そこはゲームなので気にしないことにする。


「そう言われてもだな……」


 譲ってくれと言われても、レアモンスターのドロップ素材でそれなりに貴重な物なので、簡単に譲るわけにはいかない。


「もちろん、何かお礼はするよ」

「何かとは?」

「特に決めてないけど……まあ適当に何かお礼はするよ」


 適当に何かって……。そこは明言してもらわないと困るのだが。


「そもそも、何故【シルバーコッコの嘴】が必要なんだ?」


 NPCのことなので特に理由はないのかもしれないが、一応その用途を尋ねてみる。


「研究で【オリジンインゴット】が必要になりそうだから、その素材としてね」


 どうやら、これを直接使うのではなく、【オリジンインゴット】とやらの素材として使うらしい。

 これがインゴットの素材になるのかと思うが、【シルバーコッコの嘴】の説明にはこの素材が金属質であるということが書かれていたので、恐らくインゴットの素材として使えるというのは間違っていないのだろう。


「まあ無理にとは言わないよ。もし良かったら始都セントラルにある研究所に持って来て。それじゃあね」


 そして、彼女はそれだけ言い残すと、去ってしまった。


「……どうするの?」

「とりあえず、後で考える」


 今すぐに決めなければならないことではないので、ひとまず、この件は保留しておくことにした。


「ひとまず、二人と合流するぞ」

「……うん」


 そして、【シルバーコッコの嘴】の扱いを考えながら集合場所に向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る