episode9 初めての戦闘

 街を出た俺達は次の街を目指して真っ直ぐと南下していた。


「他のプレイヤーも多いな」


 周囲を見渡すと、他のプレイヤーの姿も見受けられた。


「まあ最初は南門からしか出れないからな」

「そうなのか?」

「他の門から出ようとしても、実力が足りないって言われて門番に止められるからな。次の街まで行けば、西門が解放されるぞ」

「なるほどな」


 それでこちらにプレイヤーが集中しているということか。


「他の門はどうなの?」

「北門と東門はベータ版では解放されてないエリアだったから、解放条件は不明だな」

「そうなんだ」

「ところで、前方に鶏がいるが、あれがモンスターとやらか?」


 それはそうと、前方を見ると五十メートルほど先には三羽の鶏がいた。

 鶏冠とさかなどは明らかに豪華になっていて違いは見られるが、その見た目は鶏そのものだった。


「あれは『コッコ』だな」

「……そのままだな」


 どうやら、あれは『コッコ』というモンスターらしい。

 名前が安直過ぎる気がするが、そこは気にしないことにする。


(詳細は……確認できないな)


 モンスターについての情報を確認しようとしたが、名前以外の欄は全て「???」と表記されていたので、詳細を確認することはできなかった。


「何か特徴はあるのか?」

「特に特徴の無い雑魚だな。と言うか、このエリアのモンスターは基本的にどれも特徴の無い雑魚だぞ」

「そうか」


 まあここはこのゲームを始めて最初に来るフィールドマップだからな。

 いきなり搦め手を使ってくるモンスターがいても困るか。


「一応、弱点は頭部だぞ。適当に殴れば倒せるし、あまり気にしなくて良いけどな」

「そうか」

「とりあえず、タンクの俺が最初に行ってタゲ取りするから、リッカは後に続いてくれ。シャムとクオンは俺がタゲを取ったのを確認してから攻撃してくれ」

「分かった」

「分かったよ」

「……うん」


 そして、方針が決まったところで、早速それぞれの行動に移った。

 ソールがコッコに向かって真っ直ぐと突っ込んで行き、リッカがその後に付いて行く。


「こっちだぞ!」

「コケーーッ!」


 そして、ソールが盾を構えてコッコ達の攻撃を受け始めた。


「……ここだな。『ウィンドシュート』」


 ソールがターゲットを取ったことを確認したところで、言われて通りにスキルによる攻撃を仕掛けることにした。

 スキルを発動して右手を勢いよく前に突き出すと、そこから風の弾が放たれる。


「『パワーショット』!」


 さらに、クオンも弓でスキルを使って攻撃を仕掛ける。


「コケーーッ⁉」


 俺達の攻撃は見事に命中して、コッコ達にダメージを与えた。


「……『スラッシュ』」


 そして、最後にリッカが刀を使って三体のコッコを纏めて斬り裂くと、コッコ達は倒れて蒸発するようにして霧散して消滅した。


「あっさり片付いたな」

「まあ最初のフィールドマップのモンスターだからな。ここのモンスターは大体こんなものだぞ」

「そうか」

「とりあえず、ドロップ品を確認してみるか」

「そうだな」


 ひとまず、戦利品であるドロップ品を確認してみることにした。

 確認すると、ドロップ品は【コッコの羽】七個、【コッコの嘴】二個、【コッコの鶏冠】一個、【コッコの鶏肉】三個だった。


「鶏冠と嘴が少ないね」

「鶏冠と嘴は確定ドロップじゃないからな。ちなみに鶏肉は一個、羽は二個か三個確定でドロップするぞ」

「そうなんだ」

「分配は後で良いか?」

「ああ」

「良いよー」


 この後もまだまだアイテムは手に入るだろうからな。

 その度に分配するのは面倒なので、アイテムは後で纏めて分配することにする。


「それにしても、情報の確認が役に立たなかったな」


 戦闘前に情報を確認したが、名前以外の欄が全て「???」になっていたので、何の役にも立たなかった。


「図鑑情報はそのモンスターの討伐数を増やすか、情報を得たりすれば埋まっていくぞ」

「そうなのか」


 どうやら、一度出会えば図鑑に情報が載るというわけではなく、自力で埋めていく必要があるようだ。


「それにしても、結局シャムは魔手甲にしたんだな」

「まあな」


 ここで話は変わって、武器に関しての話になる。

 魔手甲というのはその名の通り魔法を使えるようになる手甲で、手の甲の部分に魔法を補助する宝珠が埋め込まれている手甲だ。


「杖にはしなかったんだね」

「こちらの方が動きが軽いし、サポートには向いていると思ってな」


 杖を使った方が攻撃力は高くなるが、魔手甲には動きが軽いという利点がある。

 何故、魔手甲の方が動きが軽いのかと言うと、この武器には装備状態での行動速度低下補正が無いからだ。


 このゲームでの基本の行動速度は敏捷値と装備品の総重量によって決定されるが、武器を装備していると、武器種に応じて行動速度にマイナス補正が掛かるようになっている。

 その補正値は武器種ごとに決まっていて、大剣のような重い武器の方が補正値は大きくなり、逆に短剣のような軽い武器は補正値が小さく設定されている。


 しかし、魔手甲には武器を収めるという概念がなく、基本的には常時装備した状態だからなのか、装備時の補正値がゼロに設定されているのだ。

 そのため、杖よりも圧倒的に軽い動きをすることができる。


 また、装備品の重量に関してだが、このゲームでは装備品には重量というパラメーターがあり、この合計値に応じて行動速度にマイナス補正が掛かるようになっている。

 ただ、重量が上がるほどノックバックへの耐性も上がるので、こちらに関しては一概に重量が小さい方が良いとは言えない。


「……あれ」

「……む? どうした、リッカ?」


 と、ここでリッカは俺の左腕を軽く掴んで、何かを伝えようとしていた。


「……あれ、何?」


 リッカの指差した先を見てみると、そこには一体のコッコがいた。

 だが、そのコッコは今まで見てきたコッコとは違って、銀色に輝いていた。


「あれはシルバーコッコじゃないか! すぐに倒しに行くぞ!」


 それを見たソールはそう言ってすぐに駆け出そうとする。


「待て、まずはあれが何なのかを説明しろ!」


 だが、俺達はあれが何なのかを分かっていないので、まずはそのことについて説明してもらうことにする。


「あれはシルバーコッコっていう、このエリアで稀に出現するレアモンスターだ」

「強いのか?」

「普通のコッコよりは強いが、まあ大したことはないな。だが、ドロップ品は専用の物がドロップするぞ」


 どうやら、あのモンスターは低確率で出現するレアモンスターで、倒せばレアな素材が手に入るようだ。


「とりあえず、他のプレイヤーが来る前に倒すぞ」

「分かった。普通に戦えば良いのか?」

「いや、HPが半分以下になると逃げるから、半分の手前まで削って、そこから一気に倒すぞ」

「分かった」

「じゃあ行くぞ!」


 そして、方針が決まったところで、シルバーコッコとの戦闘を始めたのだった。

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