episode8 ステータスボード

 南門に向かうと、そこでは先に着いていたソールとクオンが待っていた。


「待ったか?」

「いや、そんなに待ってないぞ」

「そうか。クオンはこの後も撮影するのか?」

「うん。まだまだ撮影する予定だよ。二人は映っても大丈夫?」

「俺は問題ないぞ。リッカはどうだ?」

「…………」


 リッカは無言のまま頷く。

 どうやら、彼女も撮影されることについては大丈夫なようだ。


「大丈夫だそうだ」

「分かったよ。それじゃあ早速、行こっか」

「そうだな」


 そして、全員が集まったところで、門を出て冒険に出発した。



  ◇  ◇  ◇



 門を出ると、そこには広大な平原が広がっていた。

 メニュー画面を開いてマップを確認すると、マップ名は【南セントラル平原】となっていた。


「マップが確認できないな」


 街中では街のマップを全て確認できたが、こちらのマップは最北部の僅かな範囲以外は空白になっていた。


「まだマップを埋められてないからな。マップは踏破した部分が埋められて行って、一定の踏破率になったら地図が完成して、全て見られるようになるぞ」

「そうか」


 どうやら、チュートリアルで地図を入手できた街とは違って、こちらは自力で埋める必要があるようだ。


「この右上に表示されている『1%』というのが踏破率か?」


 マップの右上には街のマップにはなかったパーセンテージの表示があった。

 恐らく、これがマップの踏破率だろう。


「そうだぞ。ちなみに、マップの踏破判定はエリアごとに分けられていて、エリアの踏破率が一定以上になったらそのエリアのマップが表示されるようになってるぞ」

「エリア?」

「ここのマップだと、白い線でマップが四つに区切られてるだろ? それがエリアだ。表示されてるパーセンテージはあくまでも全体の踏破率だが、踏破判定はそのエリアごとだから覚えとくと良いぞ」


 マップを確認すると、確かに白い線によってマップは四つに区切られていた。

 線はざっくりとした十字になっていて、北西、北東、南西、南東の四つのエリアに区切られているようだ。


「分かった。それで、今回は何をするんだ?」

「最初のボスを倒して次の街まで行くぞ」

「……いきなりか?」

「最初のボスはソロで初期装備でも簡単に倒せるぐらい弱いし、大丈夫だぞ」

「そうか」


 まあ先程も次の街までは初期装備で行くことを推奨していたしな。

 このまま次の街を目指しても問題ないだろう。


「マップは埋めながら行くの?」


 ここでクオンがソールに道中での方針を尋ねる。


「いや、ここの地図は次の街で売ってるからな。マップ埋めはせずに次の街を目指すぞ」

「地図って普通に売ってるんだ」

「ベータ版のときと変わってなければ十万するけどな」

「高っ⁉」


 値段を聞いたクオンは想定外の金額で驚き声を上げる。


「フィールドマップの地図は街の地図とは違って高いからな」

「そうなんだ」

「まあマップを埋めるのは手間だからな。その手間を考えると悪くないぞ」


 ソールの言う通りにフィールドマップはかなり広いので、マップを埋めようと思ったらかなりの手間が掛かる。

 なので、それを考えると買うというのは案外悪くない選択肢のように思える。

 値段も序盤だと大金だが、ある程度進めれば普通に買えるようになるだろうしな。


「じゃあソールは買うの?」

「いや、買わないぞ」

「でも、マップ埋めはしないんだよね?」

「ああ。地図は埋めてる人からスクショをもらって、それを見れば良いからな。買う必要も埋める必要もない」


 確かに、攻略サイトから画像を引っ張って来て、それを見るだけでも事足りそうだしな。

 そう考えると、わざわざマップを埋める必要はなさそうだ。


「ここの地図の画像はあるのか?」

「いや、ないぞ」

「攻略サイトに情報はないのか?」

「ゲーム内で撮った画像や動画を外部に出力することはできても、その逆はできないからな。ベータテストのときに撮った画像もゲーム内では引き継げなかったから、今はないぞ」

「そうか」


 言われてみればゲーム外から画像を取り入れるような機能はないからな。

 攻略サイトから画像を引っ張って来ることは、確かにできないな。


「でも、次の街には真っ直ぐと南に行けば着くし、迷うことはないぞ」

「そうか。……そろそろ行くか?」

「そうだな。……と言いたいところだが、その前に持ち物を見せてくれるか? 必要な物が揃ってるかどうかを確認したいからな」

「分かった」


 俺はメニュー画面を開いて、他人にも見えるようにしてアイテム欄をソール見せる。


「……む?」


 しかし、そこには何もなく、買ったはずの【HP回復ポーション】や【MP回復ポーション】もなかった。


「基本的に入手した物は倉庫に送られるからな。ちゃんと倉庫から引き出さないと手持ちには入らないぞ」

「そうだったのか」


 そう言えば、買い物をした後は倉庫の確認もしていなかったな。


「そういうことは先に言ってよー」

「いやー、悪いな。言い忘れてた。とりあえず、一旦街に戻るか」

「そうだな」

「ところで、プレボのリリース記念プレゼントは受け取ったか?」

「いや、受け取っていないな。早速、確認してみる」


 ソールに言われてプレゼントボックスを確認してみると、そこにはリリース記念プレゼントとして三万ゼル、【基本HP回復ポーション】が五十個、【基本MP回復ポーション】が二十個、【ボードリセットの巻物】が一個入っていた。

 一つ見たことのないアイテムがあるので、ひとまず、その詳細を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【ボードリセットの巻物】

 選択したステータスボードのSPをリセットする。



━━━━━━━━━━


 確認すると、このアイテムはステータスボードに割り振ったSP、つまり、ステータスポイントをリセットして回収するアイテムのようだった。

 品質などの影響を受けないアイテムであるせいなのか、他のアイテムとは違ってそれらの項目自体がない。


 ステータスポイントというのはアビリティのレベルが上がると獲得できるポイントで、それをステータスボードに割り振ってパネルを獲得することで、ステータスを上げることができる。

 もちろん、どこに割り振るのかはプレイヤーの自由なので、高いステータスをさらに伸ばしても良いし、低いステータスを補っても良い。


 ステータスボードはツリー形式になっていて、SPを割り振ってパネルを獲得すると、その先のパネルを獲得できるようになる。

 そのため、先にあるパネルが欲しい場合は、それよりも手前にあるパネルを全て獲得する必要がある。


 また、ステータスボードは最初は十個しかないが、条件を満たすと新たなステータスボードが解放されるようになっている。

 そのため、各プレイヤーによって所持しているステータスボードも異なってくるので、必然的にプレイヤーごとに割り振りも変わることになる。


 このゲームは自由度が高いゲームではあるが、この要素もそれを助長する一因になっている。


「色々入ってるね」

「そうだな」

「って言うか、こんなにポーションがあるんだったら買う必要がなかったような……」


 確かに、クオンの言うようにこれだけポーションがあるのなら、わざわざ買う必要はなかったように思える。


「まあこの程度の量だとどうせ足りなくなって買い足すことになるし、特に問題ないと思うぞ」

「そうなんだ」

「それじゃあ一旦街に戻るぞ」

「ああ」

「オッケー」


 そして、一旦街に戻って、倉庫から必要なアイテムを取り出してから再出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る