episode5 各種族の特徴
商業区に向かうと、通りにはNPCの店舗が並んでいた。
素材アイテムを売っている店から装備品を売っている店まで、様々な店がある。
「それじゃあそろそろ録画を始めるけど、良いかな?」
商業区に着いたところで、クオンが撮影を始めても良いかどうかをソールに尋ねる。
このゲームにはゲーム内で写真や動画を撮る機能があるので、簡単に動画を撮ることができる。
もちろん、そのデータを外部に出力することも可能だ。
「ああ、良いぞ」
「それじゃあ始めるよ。録画開始を押してっと……。こんにちは、こんばんは、初めましての方は初めまして、いつも見てくれてる方はいつも見てくれてありがとう! ついにゲーム実況者歴も五年になったクオンだよ!」
そして、いつもの冒頭の挨拶と共に投稿用の動画の撮影を始めた。
彼女は動画サイトに動画を投稿していて、広告で稼ぐことを生業としている。
投稿している動画はゲームの実況プレイ動画がメインで、いわゆるゲーム実況者というものだ。
彼女のチャンネルのチャンネル登録者数は九十万人を超えていて、それなりに人気の実況者だ。
動画の投稿は中学二年の頃からやっていて、高校を卒業後は本格的にその道を歩み始めている。
「と言うことで、今日は話題の『Origins Tale Online』の世界にやって来ましたー! 驚くことに、これがゲームの中の世界です! ゲームとは思えないほどのクオリティーで、凄いですよね」
そう言って右に一歩移動してから左に六十度ほど向きを変えると、左手でその街並みを指し示す。
「VR型のゲームとしては初のMMORPGで注目度が高いゲームだし、みんな楽しみにしてたよね? 少なくともあたしは楽しみにしてたよ」
街並みを軽く見せると、元の位置に戻って話を続ける。
「それじゃあ早速プレイしていきたいところだけど、今日は何とゲストに来ていただいてます! それではどうぞ!」
クオンに促されたところで、画面外にいたソールがすっと画面内に入る。
「何と彼は百万を超える応募に対して枠はたったの五千、受験生もびっくりな倍率を潜り抜けたベータテスターなのです! それでは自己紹介をお願いします!」
「俺はソール。今日はベータテストのときの知識を活かして、序盤の攻略情報を届けるぞ。と言うことで、よろしくな」
「今日は彼に色々と聞いて、いち早く攻略情報をお届けしたいと思います。早速、質問良いですか?」
「それは良いが、少し場所を移動しないか? その方が都合が良いからな」
「分かりました。それじゃあ場所を移動したいと思いまーす。せーの……」
そして、クオンのその一声に合わせて、二人はその場で同時に跳んだ。
どうやら、動画ではここでカット編集を入れて、一瞬で移動するつもりらしい。
「……はい、オッケーだよ」
そして、オープニングの撮影が済んだところで、一旦録画を止めた。
「いやー……打ち合わせ通りに進めてくれて助かったよ」
「まあこのぐらいはな」
随分と流れが良いと思ったら、どうやら、二人は事前に打ち合わせをしていたらしい。
「ところで、二人はどうする? 話は聞くんだよね?」
「ああ。俺達は映らないところで話を聞いておくぞ」
俺達は動画に出るつもりはないし、出る必要もないからな。適当に画面外で話を聞くことにする。
「分かったよ。それじゃあ行こっか」
「ああ」
そして、そのままソールに案内されて、とあるNPCの店に向かった。
◇ ◇ ◇
ソールに案内されて着いたのは、主に消耗品を売っているNPCの店だった。
「案内したかったのはこのお店?」
「そうだぞ。それじゃあ録画を再開するか?」
「そうだね。録画開始を押してっと……。それじゃあ行くよ。せーの……」
録画を再開したところで、先程と同じようにクオンの一声に合わせて二人はその場で同時に跳ぶ。
「はい、着きましたー! と言うことで、早速、質問していきたいと思いまーす。質問は事前に募集しておいた物の中から多かった質問をしていくよ。それじゃあ最初の質問、ずばり、どの種族がおすすめですか?」
最初の質問は種族に関してのことだった。
種族は一度決めると変更できない上に、最初に決める必要があるからな。その質問が多いのにも納得だ。
まあ事前登録期間があったので、もう決めているプレイヤーが多いだろうが、初回ログインまでの間であれば変更可能だからな。
それに、攻略サイトの掲示板を見てみると、ギリギリまで様子を見ようとしていて、まだ種族を決めていない者もいるようだったしな。
まだこの情報を必要としている者もいるので、遅くはない。
「基本的には好きな種族で始めて良いぞ。種族によって初期ステータスが違うが、ステータスはプレイスタイル次第で変化していくしな」
ソールの言うように、このゲームにはプレイスタイルによってステータスが変わっていくシステムがある。
なので、種族によるステータス補正の影響が大きいのは最初の方だけで、その内種族に関係なく自由なプレイスタイルで遊べるぐらいにはなるとのことだ。
そのため、実は種族ごとのステータスの差はあまり気にする必要がなかったりする。
「まあ最初から効率良く進めたいのなら、まずはプレイスタイルを決めることだな。生産メインの場合は生産一本にするのか、冒険もしたいのかも決めると良いぞ」
「ちなみに、あたしは戦闘メインで弓を使うつもりだよ。それで、プレイスタイルが決まったら、次はどうするの?」
「プレイスタイルが決まったら、それに合ったステータスの種族を選ぶと良いぞ」
このゲームには四つの種族があるが、種族はただ見た目が違うだけではない。
種族によってステータスなど、様々な違いがある。
ちなみに、ステータスには物理攻撃力に影響する「筋力」、物理防御力に影響する「靭力」、魔法攻撃力に影響する「魔力」、魔法防御力に影響する「理力」、行動速度に影響する「敏捷」、弓での攻撃力に影響する「器用」、一部のスキルの追加効果や魔法道具系アイテムの効果に影響する「効力」がある。
まあ他にも影響することはあるので、これが各ステータスによる影響の全てではないのだが、今はそこはそんなに重要な話でもないので、その話は置いておくことにする。
「じゃあそれぞれの初期ステータスを教えてもらって良いかな?」
「ああ。まず、人間は標準的なステータスをしてるな。とりあえず、迷った場合は人間を選ぶと良いぞ」
標準的ということは、様々な選択ができるということだからな。
プレイスタイルに迷っているのであれば、人間を選んでおけば困ることはなさそうだ。
「獣人はHP、筋力、靭力が高い代わりに、魔力、理力、器用が低いな。ステータスを見ての通り、近接物理アタッカーやタンク役に最適だな」
獣人は完全な物理タイプで、物理系のステータスが高い反面、魔法系には向いていない。
なので、主な役割は近接物理アタッカーやタンクになる。
「エルフは獣人の逆で、MP、魔力、器用が高い代わりに、筋力、靭力が低いぞ。理力も若干低いな。ステータスを見れば分かる通り、魔法系でやるならエルフ一択とも言われてるな」
エルフは獣人とは真逆になる魔法タイプだ。
器用のステータスも高いので、弓を使うのにも向いている。
つまるところ、遠隔アタッカー向きということになる。
「竜人は敏捷と効力が高いのと、MPと筋力と魔力が少し高めだな。ただ、靭力と理力は低いし、あまりオススメはしないな」
竜人は攻撃面で少し優れている代わりに、防御面が弱くなっている。
筋力と魔力が高めなので、物理と魔法の両刀アタッカーも可能で、特化している獣人やエルフにはできない芸当だ。
「オススメしないって言うけど、何でなの? 防御面が弱いことがそんなにデメリットになるの?」
「そういうわけじゃないぞ。オススメしない理由を一言で言うなら、器用貧乏だからだな。一番高いステータスが敏捷と効力っていう要らないと言われてるステータスなのも大きいな」
だが、特化していないということは、言い換えると器用貧乏だということになるので、どうしても火力が劣ってしまう。
さらに、竜人の一番高いステータスは敏捷と効力だが、この二つは優先度の低い、基本的には不要なステータスだと言われている。
効力はともかくとして、敏捷は重要そうに思えるが、ベータテスターの意見はそうではない。
まあ詳しいことは話すと長くなるので、この話は一旦置いておくことにする。
「さらに言うと、ステータス面以外でのデメリットがあるからな」
「ステータス面以外でのデメリット?」
「ああ。ステータス面以外でのデメリット、それは角と尻尾があることだ!」
ソールはカメラ側に向かって、決め台詞であるかのように言い放つ。
そう、竜人の最大の不遇ポイントはそこだ。
どういうことなのかと思うかもしれないが、それは今からソールが話すようなので、このまま黙って聞くことにする。
「えっと……どういうこと?」
「尻尾も体の一部、つまり、尻尾に攻撃が当たってもダメージを受けるってことだ」
当然のことではあるが、尻尾も体の一部なので、尻尾に攻撃が当たってもダメージを受けてしまう。
そのため、尻尾が無い人間やエルフと比べて当たり判定が大きいということになるので、その分、不利だということになる。
まあ尻尾に攻撃が当たっても掠り判定になるので、ダメージは大きくないが、他の種族であれば受けるはずのなかったダメージを受けることになるので、不利であることに変わりはない。
「確かに、それはそうだね。でも、それって獣人も同じだよね?」
「それはそうだが、重要なのはもう一つの問題の方だな」
だが、それは獣人にも共通することなので、竜人特有の不遇ポイントではない。
問題はもう一つの方の問題だ。
「もう一つの問題?」
「ああ。最大の問題は専用の装備品を作ってもらう必要があるってことだな」
「ええっと……詳しく説明してもらえるかな?」
「角や尻尾に干渉する装備品は装備できないってことだ。とりあえず、これを見てくれるか?」
そう言うと、ソールは初期装備として装備している木の兜を外して、それをカメラの前に来るように手で持った。
「これを竜人が装備しようとしたらどうなると思う?」
「そうだね……角が邪魔で被れなさそうかな」
「そう、つまり、そういうことだ。角や尻尾に干渉しないように装備品を作ってもらう必要があるせいで、その分、手間が掛かるってことだな」
そう、竜人特有の不遇ポイントは、角や尻尾に干渉しないように装備品を用意する必要があるので、手間が掛かるということだ。
素材を渡して作製を依頼する場合であればさほど問題無いかもしれないが、直接装備品を買った場合だと、そのままでは装備できない可能性がある。
まあその場合でも形状を変えてしまえば良いだけなのだが、手間が掛かって面倒なことには変わりない。
「まあ種族に関してはこのぐらいだな」
「そうなんだね。それじゃあそろそろ次の質問に行かせてもらうね」
そして、種族に関しての質問が済んだところで、次の質問に移った。
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