episode3 ゲームの世界へ!

 光が収まると、目の前には石造りの中世のヨーロッパのような街並みが広がっていた。

 ファンタジー世界の街と言われて想像するような感じの街の景色で、イメージにぴったりだ。


 ゲーム内の時刻は二十一時過ぎなので日は落ちているが、街灯やライトが設置されているからなのか、暗くはない。


(いや、明かりのおかげというわけではないか)


 確かに、明かりの周りは特に明るくなっているので、明かりのおかげで街が明るくなっているようにも見える。

 だが、よく見ると明かりに関係なく全体的に明るいので、ゲームの設定で明るくなっているようだった。


(ここにいるのはあの門番以外はプレイヤーか?)


 周囲を見渡してみると、次々とプレイヤーがログインしてきていて、街の出入り口である門に立っている門番以外はプレイヤーのようだった。


「まあ他のプレイヤーのことを気にしていても仕方ないし、さっさと合流するか」


 とりあえず、俺には友人との約束があるので、まずは彼と合流することにした。


「地図はメニュー画面だったな」


 メニュー画面を開いて確認すると、そこには街の地図が表示されていた。


「……地図を確認するまでもなかったな」


 地図で現在地を確認すると、ここは南門で、集合場所である中央広場にはこの通りを真っ直ぐと行くだけで着くことが分かった。


「まあ地図を見ずとも迷わないで済むのはありがたいな。とりあえず、行くか」


 そして、地図を確認し終わったところでメニュー画面を閉じて、集合場所である中央広場へと向かった。



  ◇  ◇  ◇



「……多いな」


 中央広場に向かうと、そこにはプレイヤーが溢れ返っていた。

 どうやら、考えることは皆同じだったらしい。


「まあそれでも探すしかないか」


 ゲーム内で連絡が取れれば良いのだが、まだフレンド登録ができていないので、それはできない。

 なので、ここは事前に送ってもらった画像で確認しておいた、彼のアバターを元に彼を探すことにした。


 彼のアバターは茶色に近い色の瞳に赤色の短髪といった感じのものだったはずだ。


「おーい! こっちだ!」

「……む?」


 だが、ここで左後ろの方向から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「そこにいたのか」


 振り返って声の主を確認すると、そこには目的の人物がいた。

 彼は中学時代からの友人で、名前は火坂ほさか陽太ようた。このゲームでのプレイヤーネームはソールだ。


 種族は人間で、タンク役をするつもりなのか、重厚な鎧を装備しているのに加えて大きな盾を持っている。


「中央広場は見ての通りプレイヤーでごった返してるからな。入口で来るのを待ってたぞ」


 確かに、彼の言う通りに中央広場にはかなりの数のプレイヤーが集まっているからな。

 事前に決めた通りに広場の中心にある噴水の前で待っていると、中々合流できなかった可能性はある。


「それもそうだな。それで、この後どうするのかは決めているのか?」

「決めてはいるが、それはもう一人が来てからだな」

「もう一人? アッシュか?」


 もう一人というのは恐らくアッシュのことだろう。

 アッシュはソールと同様に中学時代からの友人で、本名は灰島はいじま唯人ゆいとだ。


 ソールが誘う人物と言えば彼ぐらいなので間違いない。

 そう思ったのだが……。


「いや、違う。アッシュは大学の講義が終わってからログインするって言ってたし、まだ来ないぞ」

「では、誰なんだ?」

「それは……お、ちょうど来たぞ」

「む?」


 そう言われて南側を見てみると、一人の女性がこちらに駆け寄って来ているのが確認できた。

 その女性の種族はエルフで、琥珀色の瞳に黄緑色のショートヘアをしていて、半袖の服にショートパンツという軽装だった。

 もちろん、このような軽装ではあるが、初期装備の革製の防具は装備している。


「ごめん、待たせた?」

「誰かと思えばクオンだったか。今来たところだし、別に待ってはいないぞ」


 彼女の名はクオン。本名は狛犬こまいぬ久遠くおんで、彼女も同様に中学時代からの友人だ。


「アッシュは来ないから、これで全員だよね?」

「そうだぞ。早速、行くか?」

「うん、お願い。ベータ組としてとっておきの攻略情報を教えてよね!」

「おう、任せとけ!」


 ベータ組というのはベータテスト参加者のことで、ソールはその数少ないベータ組だ。

 ベータテストは五千の枠に対して百万近い応募があったらしく、抽選倍率がとんでもないことになっていたので、参加は困難だった。


 ちなみに、今は来ていないアッシュもベータ組だ。


「いや、待ってくれ。俺の連れがまだだ」


 彼には言っていなかったが、俺にも一人連れがいる。

 なので、出発は俺の連れも揃ってからだ。


「連れ? 誰か呼んだのか?」

「ああ。……リッカ、こちらに来たらどうだ?」


 ここで路地裏からひょっこりと顔を出して、様子を伺っている少女にこちらに来るように促した。


「…………」


 すると、彼女は無言のまま俺の前にまで歩み寄って来た。

 少女の種族は竜人で、僅かに青みがかった白いショートヘアに青い瞳をしていて、その身長は小学生かと思うほどの低身長だった。


「紹介する。彼女はリッカだ」

「えっと……シャムに妹なんていたっけ?」

「いや、いないぞ。こう見えても彼女は俺達と同い年だぞ?」


 彼女は背が低く、その見た目から小学六年から中学生ぐらいに見えるが、こう見えても俺達と同い年だ。

 ゲームのアバターなので、現実とは違う見た目をしている可能性もあると思うかもしれないが、実際の身長や体型と異なると違和感が生じてしまうので、アバターの身長は変更することができず、体型も少ししか変えられないようになっている。

 なので、彼女は現実世界でもこの身長だ。


「そうなの? あたしはクオン、あなたは?」

「っ……!」


 クオンが自己紹介をするが、リッカはすぐに俺の後ろに隠れてしまった。


「……彼女は極度の人見知りでな。気を悪くしないでくれ」

「……分かったよ」

「代わりに俺が紹介する。彼女はリッカ。とりあえず、ゲーム内では俺と共に活動をする予定だ」

「あたしはクオンだよ」

「俺はソールだ」


 そして、改めてそれぞれが自己紹介をした。

 まあリッカには二人のことを伝えてあって既に知っているので、その必要はなかったのだがな。


「それにしても、二人は竜人を選んだんだね」

「まあ俺はリッカに合わせただけだがな」


 俺は選んだと言うより、種族を合わせておいた方が共に活動するのに都合が良いという理由で、リッカに合わせただけだからな。

 別に選んだというほどのことはない。


「そうなんだ。……それで良かったの?」

「……何が言いたい?」

「ほら、ネットを見た感じだと、竜人は不遇って言われてるじゃん」

「らしいな」


 クオンの言うように、ネットの評判では竜人は不遇だと言われている。

 その理由は色々とあるが、長くなるので今は深くは語らないことにする。


「良かったの?」

「俺は生産メインでやるつもりだからな。そこまで戦闘面を気にする必要はないので、あまりそこには拘っていない」


 戦闘はリッカに任せるぐらいのつもりではあるからな。

 そこまで大きな問題にはならないと思われるので、特に気にしていない。


「ふーん……そう。それにしても、こう見えて同い年なんだね」


 クオンはリッカと目線の高さが同じになるように屈んでから、そんなことを言う。


「まあ、中学では同じクラスだったしな」

「え? そうなの?」

「……そのことについても話しておくか」


 二人はリッカについての事情を知らないので、ここでそのことについて話しておくことにした。

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