episode2 チュートリアル
「では、説明を始めます。まず、現実世界とこの仮想空間での時間の経過の差についてですが、こちらでの体感時間と現実での時間の経過に差があることはご存じですか?」
「ああ、知っている。ざっくり言うと、こちらにいると現実の時間の経過が三分の一になるんだよな?」
「その通りです。この仮想空間での体感時間と実際の経過時間には差があるので、こちらで三時間過ごしても、現実では一時間しか経過しません」
これは有名な話なので、もちろん知っている。
この仮想空間は感覚情報の処理速度に補正を掛ける仮想領域になっているので、体感時間と実際の経過時間には差があり、こちらでの三時間は現実世界での一時間に相当する。
なので、かなり長い時間遊ぶことができるようになっている。
「次にログイン時間に関してですが、一日の合計ログイン時間には制限があり、十二時間が上限となっています。この時間は午前零時にリセットされます。また、連続ログイン時間にも制限があり、こちらは四時間が上限となっています」
「らしいな」
この仮想空間にログインしている間は当然、現実世界では身体は放置された状態になる。
なので、あまり長時間ログインしていると問題が発生する可能性があるので、このようなフルダイブ型のVRゲームには連続ログイン時間に制限が設けられているのだ。
……まあその制限はフルダイブ型のVRゲームに限らず、感覚情報の処理速度に補正を掛ける仮想領域にアクセスするタイプのものには付与することが義務付けられているので、それらの共通の制限と言った方が正しいが。
また、一日のログイン時間の制限も同じような理由だが、こちらは依存症対策の一面も兼ねている。
「ログアウトすればこの時間はリセットされますが、ログアウトしている時間が短時間だった場合にはリセットされないのでご注意ください。これらの時間は現実時間換算の時間となります」
「分かった」
ログアウトしてから即座にログインされると、連続ログイン時間を制限している意味がなくなるからな。
それを防ぐために、再ログインできるようになるまでの時間も設定されている。
ちなみに、連続ログイン時間の制限である四時間に達すると、三十分はログインできないという話は聞いた。
「それでは、メニュー画面を開いていただけますか? 念じるような感じにすれば開けるはずです」
「分かった。……こうか?」
言われた通りにメニュー画面を開くよう念じると、目の前にメニュー画面が現れた。
「無事にメニュー画面が開けたようですね。では、画面の右上を見ていただけますか?」
「右上……時間のことか?」
画面の右上を見ると、そこには時間らしきものが表示されていた。
だが、その表示は全部で四つあって、左上から順に「21:03」、「15:01」、「0:01」、「00:01」と表示されていた。
「はい。これらは左上から順にそれぞれ、ゲーム内の時刻、現実世界の時刻、現在の連続ログイン時間、本日の合計ログイン時間となっています」
「そうか」
先程、説明された通り、仮想空間と現実世界とでは体感時間に差があるので、当然、二十四時間を基準にするとゲーム内の時刻と現実の時刻に違いが出てくる。
なので、わざわざ両方の時刻を表示してくれているようだ。
(現実世界の午前零時がその基準になっているようだな)
ゲーム内の時刻が二十一時のときに現実の時刻が十五時なので、現実世界の零時を基準としてゲーム内の時刻が設定されているようだった。
「メニュー画面は設定の項目のメニュー画面カスタマイズからカスタムすることができるので、使いにくいと感じた場合には自分が使いやすいようにカスタムしてみると良いでしょう。他にも設定の項目では様々なことを設定できるので、自分がプレイしやすいように設定することをおすすめします」
「分かった」
「それでは、次は拠点エリアでの必要最低限のことを説明します。ひとまず、これを渡しておきますね」
そう言って渡して来たのは一枚の地図だった。
どこの地図なのかは分からないが、受け取らないことには話が進まないので、そのまま地図を受け取る。
【始都セントラルの地図を手に入れた】
しかし、地図を受け取ると、そのメッセージが記されたウィンドウが表示されると同時に地図が消えてしまった。
「地図が消えたのだが?」
「地図は持ち物の中に入りましたので。メニュー画面の『アイテム』の項目内にある『貴重品』の項目から確認できます」
「そうか」
言われた通りにメニュー画面の左側にある項目の中から『アイテム』を選択して、その中にある『貴重品』の項目を開いて確認すると、そこには先程受け取った【始都セントラルの地図】があることが確認できた。
「地図はメニュー画面の右下にある『Map Data』のウィンドウ内に表示されます。今はチュートリアル用のマップにいるので『No Data』と表示されていますが、ゲームを開始すればちゃんと地図が表示されます」
「そうか。ところで、拠点エリアとは一体何なんだ?」
それはそうと、まだ拠点エリアについての説明がなされていないので、まずはそのことを説明してもらうことにした。
「拠点エリアとは拠点にアクセスすることができるセーフティエリアのことです。そして、セーフティエリアとは敵が出現せず、戦闘を行うことのできない安全地帯のエリアのことです」
「なるほどな」
とりあえず、基本的には拠点エリア=街と捉えておいて問題はなさそうだな。
「では、次は拠点でできることを説明します」
「ああ、頼んだ」
「拠点には拠点エリアからアクセスすることができ、初期状態では倉庫とベッドの二つの施設があります。倉庫はその名の通りアイテムを保管しておく施設で、ベッドはログアウトして休むことでHPやМPを回復することができる施設です」
「倉庫の容量に上限はあるのか?」
「上限はありますが、拡張可能ですし、初期状態でも序盤は容量を気にしなくても大丈夫なぐらいの容量はあります」
「そうか」
ひとまず、倉庫の容量をそんなに気にしなくて良いのは助かるな。
生産活動をメインにする予定なので、限られた容量の中でアイテムを管理することになるかとも思っていたが、それは杞憂だったようだ。
「HPが0になって戦闘不能になると、強制的にこの拠点に送られた上でデスペナルティを受けるのでご注意ください」
このゲームでは戦闘不能になった場合、拠点でHPが1の状態で復活できるが、一定時間デスペナルティというデメリット効果を受けてしまう。
デスペナルティはあらゆる効果で解除不可能なデバフ効果で、ステータスの大幅低下や回復量の低下などの効果がある。
そのため、デスペナルティを受けた状態だと、戦闘や生産活動などを行うことが難しくなってしまう。
さらに、一日の間に受けたデスペナルティの回数に応じて、デスペナルティの時間は長くなっていくので、無理をしないことは重要だ。
ここで一つ補足を入れておくと、ここで言う「一日」は現実時間換算での一日になる。
また、そのカウントは現実時間での零時にリセットされるので、零時を過ぎればデスペナルティの時間は戻る。
ちなみに、デスペナルティの時間はログアウト中でも経過するので、特にすることがないのであればログアウトしてしまった方が良い。
「次は街の主要な施設についての説明をしますね。説明のために始都セントラルの地図を表示します」
そう言って人型の管理AIが手をかざすと、俺の目の前に地図が表示された。
「始都セントラルは
管理AIは共通エリアと言ったが、このゲームには共通エリアと種族エリアという、二種類のエリアが存在している。
共通エリアは全てのプレイヤーが進入可能な通常のエリアで、種族エリアは特定の種族のみが進入可能な、進入に制限のあるエリアだ。
一応、特定のイベント中だったり、特別許可証があれば他の種族エリアに進入することも可能になるらしいが、今はその話は関係ないので置いておくことにする。
「街の中心にある中央広場から西に行ったところにあるのが商業区です。ここにはNPCの店や商人が集まっているので、最初はここを利用すると良いでしょう」
NPCの店に関しては少し調べたので多少は知っている。
NPCの店は一定の時刻になると在庫が補充されるので、プレイヤーの店と違って安定して特定のアイテムを購入することができる。
ただし、在庫自体に限りがあるのと、一人あたりの購入数には制限があるので、好きなだけ購入するといったことはできない。
基本的には在庫を補充するだけなので同じ物が販売されるが、たまにそうでない物が販売されることもあるらしい。
なので、ベータテストのときには確実に買うためだったり、掘り出し物を求めて在庫が補充される時間に待ち構えるプレイヤーもいたという話だ。
ただ、NPCの店で販売されている物は入手が容易な物ばかりなので、生産メインのプレイヤーによるアイテムの生産が安定して市場が回り始めると、あまり使われることはなくなったらしいが。
「中央広場から東に行ったところにあるのが市場です。ここでは場所を借りてアイテムを販売することが可能で、プレイヤー同士でのアイテムの取引が盛んに行われる場所になります」
どうやら、ここがプレイヤー同士の取引がメインに行われる場所のようだ。
一応、生産活動をメインにして遊ぶ予定なので、ここにはだいぶ世話になりそうだな。
「最後に運営からのお知らせはメニュー画面の項目の『お知らせ』から確認できます。イベント情報やアップデート内容、メンテナンスの時間など重要な情報もあるので、忘れずにご確認ください」
「ああ」
最新情報の発信場所でもあるからな。もちろん、忘れたりはしない。
「また、この項目は一日の最初のログイン時には自動的に開かれるようになっていますが、悪しからずご了承ください」
「分かった」
まあそうしておかないと、全然お知らせを確認しないプレイヤーも居そうだからな。
こちらとしてはどうせ一日に一回以上は確実に確認するので、自動的に開いてくれるのはありがたい。
「これでここでの説明は以上になります。何か質問はありますか?」
「いや、特にないぞ」
「では、最初の街である始都セントラルに転送しますが、よろしいでしょうか?」
「ああ」
そして、説明が終わって転送を了承すると、俺は白い光に包まれて最初の街である始都セントラルに転送された。
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