Origins Tale Online ~物質使いと神速竜姫~
鳥びゅーと
第1章 ログイン初日
episode1 ログイン
ゴールデンウィークも終わり、皆が束の間の休息を終えて日常に戻る頃、とあるマンションの一室には普段と変わらぬ日常を過ごしている一人の男がいた。
彼の名は
「これは売り。これも……売りだな」
彼はいつものように部屋で株価のチャートを眺めながら取引を進めていく。
だが、ここで彼は取引を進めながらパソコンの画面の右下に視線を移した。
(もうすぐか)
日常を過ごしている彼だったが、普段と違うところが一つあった。
そう、普段と違ってやたらと時間を気にしていたのだ。
「取引も終わったし、ちょうど良いな」
取引が終わったところで開いていたウィンドウを全て閉じて、そのままパソコンをシャットダウンする。
「……む?」
と、ちょうどパソコンをシャットダウンしたそのとき、スマホにメッセージが届いた。
彼はすぐにスマホを手に取ってその内容を確認する。
『起きてるか?』
メッセージは彼の友人からのものだった。
彼はすぐにそのメッセージに対して返信をする。
『当たり前だろ。今は何時だと思っているんだ?』
『十五時前』
『分かっているじゃないか』
『やっぱり、お前も「Origins Tale Online」のサービス開始と同時にログインするつもりか?』
『まあな』
「Origins Tale Online」は今日の十五時からサービスが開始されるフルダイブ型のVRMMORPGだ。
このゲームは専用のヘルメット型の装置を使ってゲームの中の世界に入って遊ぶゲームで、VR型のゲームとしては初のMMORPGのジャンルのゲームとなっている。
『ところで、大学の講義はどうした? 休みか?』
と、ここで影月はそんな質問を友人にぶつけた。
平日のこの時間なので、その友人は大学の講義があるはずだった。
まあ彼にはその答えにおおよその予想はついていたのだが、一応聞いてみることにしたのだ。
『サボった』
『だと思った』
そして、返って来た答えは想定通りのものだった。
『単位を落としても知らないぞ?』
『一回ぐらいサボっても大丈夫だろ』
『だと良いがな』
影月はため息をつきながら一言そう返信する。
(まあ単位を落としたとしても自業自得というだけの話だし、俺が口を出すようなことではないか)
そして、そう思った彼はこれ以上このことには触れないことにした。
『それにしても、お前がここまでやる気なのは珍しいな』
『まあ興味はあったからな』
(興味はあったとは言っても、初めは別の意味でだったがな)
最初の彼の「興味」というのはあくまでトレーダーとしてだった。
VR型のゲームでこれほどまでに大規模な物は初なので注目度が非常に高く、これが当たるかどうかで開発社の株価にも大きな影響を与えるからだ。
『そうか。まあその話は置いといて、ログインしたら合流しないか?』
ここで友人がログイン後に合流することを提案して来る。
『それは構わないが、ギルドの方はどうするんだ? ギルドの方での用があるので、初日は無理だと言っていなかったか?』
『ギルメンで集まるのは二十時になったからな。それまでなら大丈夫だぞ』
『そうか』
(まあこの時間だからな。サービス開始と同時に集まるのは難しいか)
今は平日のこの時間なので、サービス開始と同時にログインできない人も多い。
なので、友人のギルドは全員が集まることのできる時間に集まることとなったのだ。
『それじゃあログインしたら中央広場の噴水のところに来てくれるか?』
『分かった』
『そろそろ時間だな。じゃあまた後でな』
『ああ』
そして、影月はそこでやり取りを終えてスマホを机の上に置いた。
「……ちょうど十五時になったな」
スマホを置いた直後、その画面に表示されている時刻が十四時五十九分から十五時に変わった。
「早速、ログインするか」
そう言って、影月は専用のヘルメット型の装置を被ってベッドに寝そべると、装置を起動してゲームにログインした。
◇ ◇ ◇
ログインすると床、壁、天井が一辺が一メートルほどの大きさの正方形のタイルによってできている、一辺が三十メートルほどの立方体の空間の中にいた。
ここにいるのは自身と一人の女性だけで、他には誰もいないし、物すら置かれていない。
(またここか)
だが、この場所に来るのは初めてではない。二週間前に一度だけここに来ている。
サービスが開始されたのはつい先程だが、サービス開始と同時にすぐに始められるように、プレイヤーのアバターを登録しておくことができる事前登録期間というものがあったので、そのときに一度ここに来ているのだ。
「ようこそ、『Origins Tale Online』の世界へ。シャムさんで間違いありませんね?」
と、そんなことを考えていたところで、空間の中央にいた女性、いや、人型の管理AIが口を開いた。
「ああ」
シャムというのは俺のプレイヤーネームだ。
この名前は友人に付けられたニックネームで、友人達からはいつもそう呼ばれている。
その由来は俺の名前「影月」を英語、つまり「シャドウムーン」にして略したもので、先程ログイン前にやり取りをしていた彼が付けたニックネームだ。
一応、言っておくと、シャム猫が好きだからといった理由でそのような名前にしたわけではない。
そのよく分からない名付け方と言い、ネーミングセンスは少々どうかとは思うが、何だかんだでこの名前は気に入っているので、ここでもこの名前で遊ぶことにしたのだ。
「アバターの設定に間違いはありませんか?」
管理AIがそう言うと、目の前に俺のアバターの立体映像が表示される。
「確認しよう」
ミスがあると困るからな。事前に設定した通りになっているかどうか、しっかりと確認してみることにした。
(初期習得アビリティは【風魔法】、【調合】、【鍛冶】。竜人なので、尻尾と角があって、瞳は紫色、髪は紺色で……設定通りだな)
一つ一つ確認していくが、設定に問題はなさそうだった。
種族は人間、獣人、エルフ、竜人の四つから選ぶことができるが、俺が選んだ種族は頭部に竜の角、腰に竜の尻尾の部位を持っていることが特徴の竜人だ。
種族によって初期状態でのステータスへの補正値が異なったりするなど、それぞれに特徴があるのだが、それは今は関係のない話なので、置いておくことにする。
「確認できましたか?」
「ああ」
「まだ初回ログイン前なので、設定を変更することができますが、どう致しますか?」
「変更はない。このまま進めてくれるか?」
「かしこまりました。それでは、これでアバター情報を確定します」
アバターを確認した上で変更がないことを伝えると、俺のアバターの立体映像が消滅した。
「それでは、これより基本説明を始めますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないぞ」
そして、アバターに問題がないことを確認したところで、チュートリアルとなる説明が始められた。
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