第14話 山縣有朋が嫌われる理由

 山縣有朋が嫌われる理由はいろいろ言われる。


 大物政治家ゆえに……と言いたいところだが、実は若い頃からそういう話はあった。


 これは山縣有朋が奇兵隊の軍監という立場だったときの話である。


 奇兵隊には後に陸軍中将・陸軍少将になる人間たちが複数いた。


 その一人・三浦梧楼はある日、公用で出張することになり、会計係にところに行くと、五百匁という額のお金をもらった。


「お、気前がいいじゃないか」


 三浦は奇兵隊の中の一隊の隊長だったが、隊長も兵卒も一律で月三十匁という給料だった。


 出張とはいえ、結構な額をもらったと喜んでいると、会計係が怪訝そうな顔をした。


「出張ならそもそも五百匁でしょう?」

「え?」

「山縣軍監らは前からそうですよ」


 話が噛み合わないと思った三浦は、会計係に奇兵隊のお金事情を尋ねた。


 すると、隊長や兵卒の真の給料は月六十匁だった。

 

 給料の半分が内緒で取られていたのである。


 何事にも細かい、しかも責任ある立場にある山縣が、それを知らないはずがない。


 三浦はそう不満に思ったが、そういうことは一度だけではなかった。


 幕末維新後、朝廷から出た功労金。


 それもはなはだ不公平な分配だった。


 三浦は奇兵隊で地位を握った山縣が、給料をピンハネしていた恨みを忘れず、後々になっても「我輩が平生山縣に対して不快の感情を抱くに至ったのは、全くこの一事に起因する」と話している。


 もっともこれは三浦側からの話だけであり、正確な情報ではないと言えるかもしれないが、ただ、元奇兵隊の軍人の多くが山縣を嫌っており、お金に汚いわりに自分は「一介の武弁」と綺麗に見せようとしてまた嫌われるということがあったようである。

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