第12話 桂園時代と文豪たち3 桂太郎と夏目漱石

 西園寺の話が2回続いたので、今回は桂太郎の話をしよう。


 もっとも文芸に関する本を見ると、西園寺は「風流を愛し、洒脱で趣味人で、文芸の理解者」とされるのに対し、桂太郎は「文芸の理解者とは言い難い」と敵視されている。


 それは桂内閣の時だと、文芸取り締まりが厳しかったせいだろう。


 社会主義、無政府主義側の文人からしたら、もっと、取り締まりが厳しかったので、桂太郎に不満があるのかもしれない。


 ところが、夏目漱石は、この桂内閣の文部大臣が開いた宴に出席している。

 

 西園寺の雨声会の招きは断ったのに、である。


 夏目漱石の親友というと正岡子規だが、他の親友として学生時代に一緒に暮らしていた中村是公がいる。


 是公は満州鉄道の総裁であり、是公の親分は桂内閣の逓信大臣・後藤新平である。

 というと、多少は西園寺より桂太郎のほうが縁があるように思えるが、是公も後藤新平もそれくらいで漱石に出席せよと強要するタイプでもない。


 漱石がしぶしぶと桂太郎内閣の小松原英太郎文相の宴に出席したのは訳がある。


 この文相の元に、漱石の大学予備門の時の同級生・福原がいたのだ。


 おまけに文部次官の岡田良平も、予備門に入学する前の一ツ橋の中学で、同級生だった。

 岡田は変則科で、漱石は正則科だったのだが、同級と言える。


 ちなみに岡田良平の弟が一木喜德郞である。


 他にも同学年として芳賀矢一が招かれており、文部省はわきを固め、漱石は旧友たちに説得され、それであきらめて、フロックコートを着て、宴に出席したのだ。


 このあたりの用意周到さが、桂太郎、という感じもする。

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