第9話 松方正義の女房役
伊藤博文に井上馨あり。また、部下として井上毅・伊東巳代治という双翼あり。西園寺公望、陸奥宗光といった人物あり。
大隈重信に小野梓あり。また、矢野龍渓のような参謀、犬養毅、尾崎行雄といった人物もあれば、小野を母とする高田早苗ら早稲田の面々もあり。
山縣有朋に長州閥あり。桂太郎のような軍人だけでなく、清浦奎吾・平田東助ら警察・内務省にも、地方にも勢力あり。
されば、松方正義に誰があるか。
松方の女房役は
「まめやかに松方に仕えた」と言われる、岐阜黒野出身の豪農の三男である。
幕末に江戸に出て、旗本に仕え、鳥羽伏見の戦いの直前に御家人株を買って、幕臣になる。
その後、明治維新が起き、明治政府に入った。
郷と松方が知り合ったのは、その新政府の大蔵省の中である。
明治元年にはもう43歳であった郷は渋沢栄一など前島密ら旧幕臣の登用を大蔵省の伊藤博文や大隈重信に勧め、旧幕臣の道を開くが、その結果、大久保利通に嫌われ、大久保は盟友・岩倉具視宛てに、郷を断然免職するか転勤にさせたいとまで言われていた。(大久保は幕臣が嫌いだったらしい)
このあたり、故郷の先輩である大久保との関係もあり、松方としては困ったかもしれない。(松方はだいたいいつも何かの板挟みで困ってる)
幕府の先例や古来からの方法に詳しかった郷は、松方にとって公務上の最高の補佐役であった。
ふたりの関係は公務上だけでなく、私生活でも郷は松方の忠実な番頭だった。
松方家の財産については郷の関わる面が多く、松方家との縁は、郷の死後、息子・郷誠之助まで続く。
松方の息子・松方巌公爵はライプツィヒ大学で学んだ実業家の英才だったが、昭和金融恐慌により、代表を務めていた十五銀行が破綻。
十五銀行は岩倉具視の呼びかけによって始まった華族銀行であったため、多くの華族が大損害を受け、巖はその責任を取って、資材の大半を放出、爵位を返上する。
その時の破綻整理に駆けつけたのが、郷誠之助である。
郷家は二代に渡って、松方家に尽したのだ。
松方には子分と言われる人は少ない。
本来ならば政界にいる薩摩の人間は少ないのだから、松方のところに集まって良さそうでもあるが、そういったことはなかったようである。
しかし、二代に渡って尽してくれる人物がいたというのは、それだけ近しい相手に松方は親身だったのかもしれない。
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