明治の総理大臣逸話
第8話 西園寺公望と前原一誠
前原一誠は松下村塾で学んだ長州出身の志士である。
勇気と知識があり、誠実で一徹な性格をしていた。
それゆえに、前原は明治維新後、新政府への任官を拒んだ。
後に維新十傑ともされる前原が新政府では働かないと拒み、三条実美は困ってしまって、西園寺公望に相談した。
「料亭に前原を呼んでいるので、説得してもらえませんか」
まだ十代の西園寺に頼むのは三条も気が引けたが、前原と西園寺は戊辰戦争で縁を深めていた。
上の人間が高圧的に言うよりもいいだろうと考え、三条は西園寺に頼むことにしたのだ。
西園寺は面倒ごとを意外と引き受ける性格で、かつ、同じ公家である三条にも親しみがあったので、前原の説得を引き受けることにした。
前原が待っているという料亭に行くと、奥座敷でお待ちですと案内された。
西園寺は奥座敷に行く途中で、脱ぎ捨ててあった女物の着物を拾った。
「お連れ様がお見えになりました」
その声に前原が答えると、その部屋に女性の着物を着た西園寺が入ってきた。
「ごめん遊ばせ」
声と仕草を着物に合わせて入ってきた西園寺に、前原は驚き、次に真面目な顔で注意した。
「そんなことをなさると御身体が穢れます」
おやめなさいと注意する前原のそばにより、西園寺はふっと笑った。
「いや、これを着て口説けば、あんたは私の云うことを聞くだろうと思って」
前原はそれまで維新の大義とか國の為とかそんな説かれ方をしてきたのだろう。
西園寺のやり方に微笑を浮かべ、話を聞き、新政府に出仕することを約束したのだった。
------------
解説:西園寺が前原さんを説得した話はいろんな本に書かれているのですが、その中でこの西園寺が女性ものの着物を着て「これを着て口説けば」という話があったのが一番好きだったので、それを採用しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます