第一幕第二場:コン・アモーレ『愛情をもって』(後編)
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──────ハッ、
あたしは真っ暗な部屋で目覚めた。そして頭上には、いつもの見慣れた紺のベルペットの夜空があり、いつものように小さな星々が微かな光を放っている。
もう夜? 一体どれくらい眠っていたのだろうか? ほんのちょっとのつもりが、どうやらグッスリ眠ってしまったらしい。
でも、変な話だ。 いつもなら夕食の香りで目が覚めるはずなのに、今日は全く気づきもしなかった。……いえ、そもそも夕食が出来たのであれば、婆やが必ずあたしを起こしにくるはずだ。それの様子もない、の?
ぐぅ~。
うん、どうやら夕食の時間になっているのは間違いないと知らせはあった。正直、夕刻を知らせる教会の鐘よりも、あたしにとってこちらの方が信頼度が高い。
──それにしても、こんなにぐっすり眠るなんて……、お疲れ様だったのかしら? まぁ良いわ、夕食をいただいてからお茶と手土産のチョコをまた頬張るとしましょうかね~。
そう言う訳で、あたしはルンルン気分でスキップしながら階下へ向かう。
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降りてみると、玄関広間は真っ暗だった。もちろん屋敷内は、シーンと静まりかえっている。
そして厨房を確認してみたけど、部屋の灯りは消えており、婆やの姿はそこにはなかった。でも夕食は既にできているようだった。完成品の野ウサギの肉と野菜煮込みスープを少し味見すると、ちょっとだけ温かった。
────やっぱり変だ。
もう一度、玄関広間に戻った時、あたしは改めて気づいた。 長椅子に誰かが横たわっている事に。
ゆっくり近づいてみると分かった。婆やが横たわっているのだと。しかし声をかけても、反応が無い……。
まさか!? ひょっとしてと思い婆やに近づき、手首をとって確認をすると脈はあった。でも目は見開いたままだ。婆やの両頬に手を添えて、ふたたび声を掛けてみるも、全く反応は無かった。一体どうしたのだろうか?
──ホー。
ん? 何の音?
外で何か物音がした気がしたので、あたしは忍び足で玄関扉に近づき、そっと少しだけ開けて外を覗く。
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玄関前の庭先には、月明かりに照らされた……ロバがいた。しかも三頭も。
一度、扉を閉めて考えてみる。 ……うん、分かった。確かに昨日、ミランダに頼んだ記憶があるわ。きっと、それに違いないよね……。
そして再度、扉を開けてみると。そこには三頭のロバと、血の海の中でたたずむ男が居た。 あ、目が合った?
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その男は、昨日マリーと一緒にいたシルバーグレイの髪をしたイケメンだった。彼は暗闇に溶け込むような漆黒色のマントをしていたので、気付けなかったのも仕方無い。
「驚かせてすまなかった。そこのお嬢さん」とあたしに向かって声を掛けてきた。
うん、驚くわ。だって……彼の足元、血の海の中には豚のように太った男が横たわっているからだ。しかもピクリともしない様子から、どう考えてもそれは死体でしょうよ。
「…………………………………………」
「この通り、賊は私の手で始末した。もっとも後三人いたのだが、そちらは逃げられてしまったよ。……あぁ、お嬢さんに危害を加えるつもりは無いから、安心してくれたまえ」
「……あなたは誰? 賊って、何があったの? 婆やをどうしたの?」
あたしが早口でまくし立てるように質問をすると、彼は足元の遺体を見下ろしながら、順を追って説明をしてくれた──。
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彼の話では、配達人を装った賊が押し込み誘拐を図って屋敷に乗り込んでいたらしい。そこへ偶然、あたしを訪ねてきた彼が居合わせて、危うい婆やを助けてくれたようだ。
しかもそこに転がる今はモノ言わぬブタ野郎が、事もあろうに動けぬ婆やに襲い掛かろうとしていた所だったとか。これはもう当然の報いよね! もしあたしがその場に居合わせたのならば、きっと蝋燭台で滅多打ちにした事でしょうね。
そして婆やが動けないのは、即効性がある麻痺毒の針で刺されたせいらしい。これについては明朝には動けるだろう、というのが彼の見立てだった。
「そして私は、グラティエールと言う名の騎「ガル様よね? 昨日、マリーはあなたをそう呼んでいたわよ?」
「…………そうか、覚えていたのか。私の名はガルガーノ、グラティエールは養父の名だ。この無礼を許してくれ」
彼はあたしに向かって深々と頭を下げるが、あたしは軽く首を横に振って、気にしてないわ、と応えた。
「──で、何故ここにいるの? 助けてくれたのは本当に嬉しいけど、これでは何が何だか……、事情がよくわからないわ……」
「正直、間に合ったのは偶然ではあるが。マリー……いや、マリアンナからあなたの事を頼まれていたのだ。狙われている可能性がある以上、助けて欲しいと」
「何で、あたしなんかを? それにマリーには何があったの?」
「ここで全てを話すには、
「また人さらいが襲ってくるかもしれないから、ちゃんと説明して欲しいわ。そして一緒に朝までいて欲しいのよ」
これは
「おそらくは、大丈夫だろう。あなたを狙ったのは、ついでみたいなものだから──本来であれば」
「──はぁん!? ついで? 本来であれば、何?」一瞬、ドスの利いた声がもれた気がするけど、気づかれる前に押し流そう。
「とうが立った──、いや妙齢の女性は対象ではないようだ。かの組織にとって」
「『とうが立った』ってところに、ものすご~く気に障るんだけど? 何? あたしが
「うっ、そ、そうではない……。これは、その──」
その後、相当気に障っていたあたしは、これがもし世が世なら連れ子の妹をネチネチとイジメる意地悪な姉の如く、しどろもどろに答える彼をイジメるように質問責めにしたのだ。彼の反応が楽しくて、ついついやってしまった。反省はしない!
(好きな人には、ついつい意地悪をしたくなるものよね……)
──彼の話では、年端のゆかぬ子供ばかりを狙った犯罪組織の手の者によるものとの事だ。先日のマリーも、父親についてこの街を訪れていた際、騙されて手籠めにされた所を彼が救い出したらしい。そして二人で逃げている所を、偶然にも公園通りであたしは出会えたのだ。
「──つまり未成年ばかりを狙った人身売買の組織にマリーは狙われ、彼女にそっくりなあたしも狙われたという事?」
「あぁ、そうだ。幸い……いや、不本意ながら私には奴らが逃げた先について目星が付いている。今から追いかけて、一泡を吹かせてやろうと思う」
「大丈夫なの? 犯罪組織って事は、そこらの野盗や強盗の類とは違うのでしょ?」
「………………、これは私の罪でもある。あなたにも、マリーにも、このような危うい目に遭わせてしまった責任を取らねばならない。大丈夫だ、この街に戻って来る時に覚悟を決めている」
あたしにはこの時の彼の顔が、覚悟を終えた者のそれではなく、己の命を賭けた悲愴な面持ちにしか見えなかった。
そして彼は念のためにコレを託すと、一通の封蝋された書状と紙に包まれた手のひら大の大きな水晶を手渡してきた。これらを王都に居るマリーへ届けて欲しいとの事だ。
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その後、彼は転がる遺体を肩に担いで屋敷を去っていった。
『お別れです。希望よ』という言葉を残して。
異世界オペラ転生~愛に生きる箱入り娘とエモい道化師の父~ ぷりんちぺ @principe
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