68 ……あそこ、なんか妙にぴかぴかじゃね?

 

「あ、え~~んやっ、こら~~~え~~~んやっ、こら~~~~」



 人生楽しい。えいささほい。ノリノリで踊った。ここは私のオンリーステージである。嘘である。


 ヴェダーと出会い、先見の鏡で聖女の現状を知ってから数日が経った。ヴェダーはあのあとすぐに主塔へ全てを報告し、『クラウディ国へ聖女がちょっとあれなのがうちの国まで噂になってるけど大丈夫? そもそも聖女召喚したってマジかよ? 情報共有せんかいぷんぷんこ』的な内容をオブラートに包んだ文を送ってもいいですかねと確認をしてくれたらしい。


 主塔はソファーに寝っ転がりながら、別にいいんじゃね的な返答だったとのことだ。寝っ転がりながらというところは私の想像だけど、ゲームの知識からすると、だいたいそんなイメージだ。この塔はヴェダーの真面目と主塔の不真面目で出来上がっている。

 そして私の現在といえば。


 おそうじ~~それは~~我らの~~誇り~~

 しあわせ~~

 生きる~~よろこ~~び~~……


 ジャンッとイッチ達がパフォーマンスを繰り返しくるくると回りフィナーレを落とした。ひゅうひゅう! 観客が私しかいないことが口惜しい。イッチ達の姿は常に幻術スキルで隠蔽済みである。できることなら指笛を吹いてあげたいところだけど、残念ながら私はふひふひ口から変な息しか出ない。下手くそでごめんよ。


 さて驚くべきことに、イッチ達が歌って踊ってパフォーマンスして水芸をしている間に、廊下はびっくりするほどぴかぴかに変わっていた。水芸をしているふりをして廊下に水を撒き、踊っているふりをしてくるくると回転して体を雑巾代わりにして、歌っているふりをして残った水を吸い込みぴかぴかに乾燥させている。これがプロの技。


「……あれ? あそこ、なんか妙にぴかぴかじゃね?」

「光ってるな。おかしいよな、あんな光ってなかったよな?」

「かがっ……輝いてるよね? 輝いてる、ひぃ、目がァ……!!」


 ジャンッ。

 あいつ何者だという黒ローブの学生さん達からの視線を一身に集めつつ、実は私がしていることは無意味にモップを振り回し、周囲をびしゃびしゃにさせているだけである。いや、私個人としては真面目にえんやこらをしているつもりだけど、イッチ達がプロすぎ&素早すぎて足元にも及ばない。おかしいな、私掃除Lv.3なはずなんだけどな……。


 なにやら虚しさを抱えつつも、私はお掃除完了の廊下を見回し、えいと腰に手を当てた。周囲でイッチ達もポーズをつけている。掃除戦隊、スラエルンジャーの爆誕である。嘘である。


 あれから、私達は塔の部屋を借りて、すやすや睡眠をとりまくり、夜ふかししたことでお肌のノリが悪い……と、思いきや私のあふれる美少女オーラの前にはつやつやのぷるんぷるんだった。エルドラドのビジュアル設定が美女であるということに感謝しつつ、翌朝ヴェダーと再度面会した。手紙を送る許可をもらったので、早速準備をしているということ、そして返事があれば、すぐに教えるということを約束してくれたのだ。やっぱりちょっと気になっていたからありがたい。


 ヴェダーから、塔には部屋は余っているのでそのまま使ってもいいと言われて、ありがたく使わせてもらうことにした。でもただでそのまま使わせてもらうというのも気持ちの上ではよろしくなく、それならばと主張したのがスラエルンジャーである。語呂がいいので気に入って使ってみただけなので、深い意味はない。塔の全てよ、我らの前にピカピカとなれ。


 それから一日が経ち、二日が経ち、三日経ち、イッチ達は恐ろしいスピードで塔の中をぴかぴかに変えていった。彼らが過ぎ去った後では、いたずらな風と相まって多くの学生達が悲鳴を上げ黒のローブをはためかせた。


 でも実際見えるのはモップを持って、ぺとぺと歩いている私一人なので、「あいつ、何者なんだ……?」「ぴかぴかの化身! 恐ろしい子……!」「モップの一振りで、全てを終わらせただと……!?」 なんがすごい注目を浴びている。


 犯人ならぬ犯スラは、手加減というものを知らないイッチ達である。最初の頃は、「ちょ、もうちょっと落ち着いて、カムヒアー!!? ヘイヘイヘイ!!!」と叫んでいたけど、旅の連続で室内のお掃除を我慢し続けていた彼らである。ヒィアア、我慢せえというのなら我慢しますだ、がんばりますだ、ちょっと嬉しくなっちゃったすまんスラとしょんぼり、こころもち体をたるたるしつつ謎の時代劇風になるなんとも気の毒な姿を見て、いや別に、我慢する必要なんてないかも? と唸った。


 本気のイッチ達と、綺麗にぴかぴかになる魔道の塔、そして怪しまれる謎のおこちゃま私。つまり私が一人怪しまれておけば、まるっと解決するのでは……? と、いうわけで冒頭のえんやこら踊りである。怪しいなら全力で怪しまれるべく踊っていた。胸にはちゃんとヴェダーからもらった許可証をつけているのだ。いくら怪しかろうと、副塔様のお墨付きであるので、どうどうとしていればいい。こうして胸を張って。


「ドヤッ、ドヤッ、ドヤーーーッ!!」

「……エル、落ち着け」

「ヒッ、ロータス、気配もなしで背後に立つのはやめてね!?」


 そんな私のストッパーをかけたのは、ロータスその人だ。いつもと変わらぬ姿だけど、ちゃんと彼の胸元にも許可証がある。お前は何をどやどや言ってるんだと落ち着けどうどうと頭に手を置かれつつ、いや待て、別に意味もなく妙な動きをしていたんじゃなく、イッチ達のストレス発散のため身を犠牲にしてジャジャンと主張していたんだけどという説明しようとを口元をあぐあぐしたときだ。「あっ」 ロータスを見て、通り過ぎようとしていた学生さんの一人が指差した。


「教官だ! おつかれさまです!」


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