51 ショートカット
「ショートカット機能ッ!」
ぱちんと指を鳴らしたところで解説させていただく。五つ葉の国の物語のシステムとは、3Dの主人公を動かして冒険するRPG、ちょいシュミュレーションつき乙女ゲージャンルである。
バトルモードはあるものの、基本的にモンスターはそこいらを闊歩しているので避けようと思えばいくらでも避けられる。
マップは親切にも常に右下に表示されているものの、こういったゲームで面倒なのはやはり移動だ。なんていったって3D。街の端から端まで移動するには大変だし、画面を切れて移動するとNow Loadingと真っ黒になった画面が頻発する。悲しいかな、シナリオに力を入れたこのゲーム、処理速度は大して速いわけでもないのだ。ちなみにLoadingの端っこでにゃんにゃん歩く猫は後半、この世界の神であることが判明する。猫の後ろにくっついて歩くスライムは、イッチ達とちょっと似ていた。思い出すとちょっとかわいい。
なので普通に移動していたら、ストレスフルになってしまうところ、存在するのがショートカット機能。複数回、様々なルートを繰り返しプレイすることが前提になっているゲームなので、いたるところにショートカットが存在する。ベッドの中に入ったらすぐに翌日になってイベントを進めることができることも一つだし、RPGのくせにクイックセーブ、クイックロードに大量のセーブ項目といたれりつくせり。
そしてもう一つ、街中でのショートカット移動だ。しかし一応ゲームの世界観的にはきちんと意味があって、聖女は各地に世界樹の枝を伸ばすというワープ機能を使用できる、という能力からの応用である。街の城から教会、塔と外に好き勝手に移動できるその仕組みは、聖女のみが使用できる能力だと思っていたけれど、もしかすると短い距離なら、聖女以外でも使用することができるのかもしれない。もちろん、実際使用することができるのはヴェダーや、塔の責任者だけかもしれないけど、試してみる価値はある。
実際の街と比べると精密さが段違いだけど、大まかなマップはゲームと同じだ。大体の移転場所はなんとなくわかる。とはいっても、誰でもその場につくだけで塔の中に侵入できてしまうなら大問題だ。簡単にわかる場所ではないはず。
記憶をさぐって、ロータス達と街を歩き、ここだという場所を見つめた。道具屋の路地裏、ゲームでの結子は塔の外から出て、すぐさま薬草やらなんやらと買い込めるわけである。
「んんん~~……鑑定ッ!!」
クワッと気合を入れて両目を見開き、ついでに両手でブイをしつつウィンウィンしてみた。これはまったく意味のない行動である。いい感じに周囲でイッチ達がポーズをつけつつ場を盛り上げてくれている。最高である。ロータスは誰も来ないかの監視役だ。我らの温度差がひどい。そして気づいた。
【魔道の塔への抜け道。合言葉があれば使用可能】
「……! あった!」
うまい具合に、レンガの二つ分だけ、ぴかぴかと光り輝いていた。そのレンガにぴったり足を置かないと発動しない。ちょっとでも足がはみ出すと発動しないし、足を置くには不自然すぎる距離感だ。そして使用者を限定するという文言は書かれていない。合言葉。ふむうと鼻の穴を広げた。だってそんなの簡単だ。
「世界樹の枝! 魔道の塔へ!」
だってゲームで何回もウィンドウの表示されていた台詞だ。
スライムが瞬きをするかどうかはともかく、サンが瞬きをした間に、すっかり光景が変わっていた。そのものの状況である。夜のくせに、明るく、きらきらとしていた星空は消えて、周囲は薄暗いレンガに覆われている。壁には魔道ランプがかけられていた。うっすらとした灯りの中、周囲を見回し、辛気臭い部屋だと思ったけど、カーテンに覆われた大きな窓を見つけた。ベッドは一つ、椅子やテーブル、本棚と調度品は意外としっかりしている。
部屋自体は埃っぽくて、長く利用する人がいなかったのだろうな、とわかる場所だけど、どこか見覚えがあった。もちろん、自分自身で見たわけではなく、画面向こうで。
――ここは、結子の部屋だ。
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