50 スラッスラッスラ~~(笑)
スラッスラッスラッスラッスラ~~(笑)
イッチ達が新たなキャラ付けを行っているのはともかく。
普段の機敏な動きにごまかされているけれど、私の幻術スキルはイッチ達の姿を消すだけではなく、気配までも遮断している。つまり、私の幻術は、ヴェダーの索敵も無効化しているのではないだろうか。
イッチとニィは私のそばにいたから、ヴェダーには気づかれなかった。でも、サンはお留守番をしていて、幻術スキルがオフになってしまっていた。彼は魔道の塔から、常に索敵を行っているのかもしれない。
……と、いう仮定を考えてみたものの、不安要素は拭い去れないし、向こうは万能有能、チートキャラのメガネである。何があるかもわからない。
「先見の鏡は、絶対に必要なものじゃないんだよね」
危険を冒してまで手に入れる必要があるかといわれると、なんとも微妙なところだ。今現在ゲームでの悪役キャラとしてのエルドラドとして聖女である結子と敵対しているわけではないけれど、そもそも存在するかどうかもわからない彼女の存在をもやもやと考える続けることを天秤にかけると、心の中ではわずかに逃亡に傾いた。
頭の上の空はとっぷりと暮れてしまっていて、街全体を覆うドーム状の水の膜は、昼間よりも見えづらい。けれども、一定間隔に垂れ下げられたカンテラの灯りがいくつも重なっていて、まるで小さな蛍が揺れているようで、それがときおり水の膜に写り込んだ。美しい、不思議な夜だ。ほんのりと明るい街に影響されているのか、今も街は眠る様子もなく、活気が溢れている。魔道具の影響で暑さは抑えられているとはいえ、明るすぎる日差しの中よりも、日が陰った夜の方が過ごしやすいのかもしれない。
ドームを見上げた後、同じくまっすぐにそびえる魔道の塔に目を向けた。言葉にしなくても、ロータスもある程度理解しているらしく、サンを抱えたまま、しょうがねえなと頷いた。次の街に行こう。エルドラドはこの世界に関わらずに生きていくのだ。ソキウスのことはちょっとだけ気になるけど、むしろ距離をおくべき存在だった。塔の中に入り込む方法すらもわからない現状、危険の中に飛び込む必要なんてどこにもない。
――あそこ、なんだかちょっとおもしろい場所だったよう
そのときである。サンがロータスの脇からにょいんと片手|(らしきもの)を伸ばして告げた。とても問題発言であった。
***
おそらくそのときの私の目玉はまんまるになっており、『エル大変、おめめが落ちたかも!?』『回収しよっか!?』とにゅいにゅいイッチとニィが両手(らしきもry)で私の顔をもみもみしてきたけれど、「いや落ちてないから」と首を振りつつ、「ちょっとサン!? おもしろい場所だったってどういうこと? なんで? いつの間に?」と問いかけた。相変わらずサンの体の中はふよふよ赤い核が揺れていてぷるぷるしている。ちなみにその姿は私とロータスを除いて他の人には見えないようにしている。
サンは語った。ぷるぷるしながら、そっと瞳|(もともとないのでニュアンス)を閉じるように過去を思い浮かべ、私とロータスに告げた。
――あれはイケメンメガネに連れ去られて、メガネの脇でビチビチしていたときのこと……
言い方。
いや実際にはサンは言葉を発しているわけではなく、だいたいこんなもんかな? という程度のところを読み取っているだけなので、私の脳みそが適当に変換をしている可能性があるけれども話を続ける。
まとめると、さすがのサンもヴェダーに連れ去られやっべえやっべえと混乱の極みの中、想像よりもメガネの足が速く、なんちゅうこっちゃとオロオロした。しかし次第にこれはこれで貴重な体験なのでは? と大物的な気持ちが溢れてきて、どんぶらこと流れる桃のように持ち運ばれ、行き着く先はどこになるのかと終着点をチェックしたれという気持ちになったのだという。余裕溢れ過ぎか。そして、驚いた。ヴェダーがサンを抱えたまま、ある場所に足を置いた瞬間、瞬き一つの間に、すっかり周囲の光景が変わってしまったのだという。
そこまで聞いたとき、私は思わず呟いた。
「エッ……サン、そもそも瞬きなんてしてたの……?」
「エル、話のメインはそこじゃねえ」
あまりにも衝撃的すぎて困惑してしまった。
サンは続けた。ここはどこじゃと周囲を見回し、どう考えても見知らぬ室内に、とりあえずこれ以上はちょっと嫌だわあと思ったので再度ビチビチした。オラオラと横揺れを激しくして、文化系で貧弱なメガネ(ヴェダー)の拘束などなんの意味もなく、しゅぱっと飛び出て、逃げ出し、私の気配を探った。そして宿屋に戻ってきた。振り返ってみると、自分が出てきたのはあの大きな塔だったのだなあと思ったところまでが以上の回想。
「気づいたら、塔の中にいた……?」
サンは誘拐中は意外と最後はるんるん気分だったらしく、消えた場所はわからなかったそうだけれど私はその言葉を聞いて気づいた。それこそ、五つ葉の国の物語の、ゲーマー知識である。「なるほど!」 パチンッと指を鳴らす。ロータスは首を傾げていた。
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